「ねこ」
近所でも有名な猫がいる。
その猫は、目の周りに茶色と薄茶色の大きなブチのある三毛猫だ。少しふくよかな体なのは、通りがかる人々からおやつをいただいているからだ。
愛称は、色々ある。美容室の田中さんは、”みっちゃん”。本屋の鳥居さんは、”みぃー”。喫茶店の五十嵐さんは、”みつ”と小声で呼びかけている。
ある日、美容室の田中さんがみっちゃんにおやつをあげようと、右足を庇いながら、ひょこひょこと歩いていた。すると、いつもは公園のベンチのそばで足をなめながら、誰かが来るのを待っているみっちゃんなのだが、今日はなぜか公園の入り口で、ぽつねんと座っていた。
「ああ、みっちゃん」
田中さんが白い息を吐きながら言った。
「みっちゃんは、本当に賢い。いや、賢かったとしても、できることではないけれど」
田中さんは、みっちゃんを撫でた。ごろごろごろと喉を鳴らす、みっちゃん。それから、ゆっくりと田中さんの手からすり抜けて、こっちだと言わんばかりに首をくいっと持ち上げた。
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