【携帯番号を変えても、書くことをやめられなかった。ある「お喋りな孤独」の告白|自己紹介】
「他人の欲望が、
空気みたいに体に入ってくることがある」
――昔から私は、
どうしようもないくらい喋るのが下手だった。
言葉が喉のところでつっかえて、
うまく外に出てくれないのだ。
幼い頃の私の居場所は、
いつもピアノの長い椅子のうえだった。
柔らかな陽が差し込む部屋で、
自分が「よし」と納得できるまでやる。
それが、
私という人間をつくってくれたのだと思う。
心の内側はいつだって、
喉が焦げつくほどに
お喋りだったけれど、
それを外に出す術を知らなかった。
心がぎゅうぎゅうになって、
壊れてしまいそうな夜は、
決まってバッハの楽譜を開いた。
涙で視界が滲んでも、
指だけは動かし続ける。
そうやって、自分をつなぎ止めていた。
楽譜の中にいる死者たちは、
生きている人間より
ずっと親密な友人になってくれた。
最後の音が空間に溶けたとき、
微熱のような高揚感が残る。
それと引き換えに、
張り詰めていた感情は綺麗に空っぽになる。
それで十分だった。
言葉なんて、いらない、と思っていた。
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けれど、
いつしか私から「音」の拠り所が
失われてしまった。
迷子になった私がようやく辿り着いたのが、
言葉だった。
ノートに感情を殴り書きして、
少しずつ、愛おしむように整えていく。
何度もやり直し、また整える。
活字という
静かな海に深く沈んでいるときだけが、
私にとって呼吸ができる時間だった。
ある時、すべてが壊れた。
携帯番号を変え、ネットから痕跡を消した。
それでも、
書くことだけは止められなかった。
祈りに近い作業だった。
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私の年齢や、容姿や、これまでの肩書き。
そんなものはどうだっていい。
あなたの脳裏に
ふっと浮かんだ私の姿が、
あなたにとっての真実であれば、
私はそれでいい。
だって、
誰かを想う妄想は、
何よりも自由で、
最高の快楽なのだから。
それはときどき、
私自身よりも一歩先に、
どこかで静かに、温かい息をしている。
