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ボーア半径の雑な導出

三次元におけるシュレーディンガー方程式の解について、水素原子を例に調べていこうと思う。

水素原子は電子一つ陽子一つで構成される最も単純な原子であり、シュレーディンガー方程式の応用を考える上で初歩的な例に相応しい。

この記事では、雑ではあるが、ボーア半径がどのように決まっているかについてとりあえず理屈を押さえていこうと思う。


1. ボーア原子模型

まず全体像から確認しよう。ボーア原子模型とは、デンマークの物理学者ニールス・ボーア(Nieles H. D. Bohr, 1885-1962)が提唱した水素の原子構造である。

一般的に想起される、プラスの電荷を帯びた原子核の周りを電子が惑星のようにぐるぐる回るという原子のイメージは、このボーア原子模型からきている。


ボーア模型による原子の構造

彼によれば、この軌道の半径はある離散的な(つまり飛び飛びの)値しか取れず、結果的に水素の発光スペクトルには常に決まった波長しか出てこない。

ボーア半径とは、この模型に基づいて決定された、水素原子の電子が基底状態にあるときの、原子核からの距離のことを指す。通常、$${a_B}$$あるいは$${a_0}$$と書く。

このモデルは、のちのシュレーディンガーによる波動関数の導入などで、必ずしも正確な描写ではないことが明らかになった。にも関わらず、この模型は現象や実験結果をよく説明できるので、知っておく価値は大いにある。

加えて、土台の理論となったボーア模型が必ずしも正確ではないに限らず、ボーア半径そのものは一貫性のある長さの単位であることが示された。

2. 水素原子の電子のシュレーディンガー方程式

一般に、三次元における時間に依存しないシュレーディンガー方程式は以下のような形である。

$$
-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \psi(\mathbf{r}) + V(\mathbf{r})\psi(\mathbf{r}) = E\psi(\mathbf{r})
$$

解説すると、右辺の最初の項がいわゆる運動エネルギー、次の項がポテンシャルを表している。$${\nabla^2}$$ は「ラプラシアン」という演算子で、次のものを表す。

$$
\nabla^2 = \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}
$$

今回の場合、電子にかかるポテンシャルは、陽子からの電磁気力である。この力は、極座標にしたときの角度によらず、距離のみに反比例することをあえて強調する。つまり、

$$
V(\mathbf{r}) = -\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\frac{e}{r}
$$

これで、水素原子の電子のシュレーディンガー方程式が得られた。

3. エネルギーの最小値を求める

ハイゼンベルグの不確定性原理は次のとおりである。

$$
xp \sim \hbar~~~\Rightarrow~p \sim \hbar/x
$$

これは極座標についても同じで、$${x}$$の代わりに$${r}$$を使えば良い。ここから、ハミルトニアン、ひいてはエネルギーについての関数$${E}$$を$${r}$$のみを用いて表すことができる。

この$${r}$$についてのエネルギーの関数$${E(r)}$$を$${r}$$について微分することで傾きを調べて、最小値となるように取れば、$${E(r)}$$の最低エネルギー準位が求まるという寸法である。

やってみよう。距離についてのエネルギーの式は

$$
\begin{align*}
E(r) &= \frac{p^2}{2m} - \frac{e^2}{4\pi \varepsilon_0} \frac{1}{r} \\
&= \frac{\hbar^2}{2mr^2} - \frac{e^2}{4\pi \varepsilon_0} \frac{1}{r}
\end{align*}
$$

これを$${r}$$について微分すると

$$
\begin{align*}
\frac{dE(r)}{dr} = -\frac{\hbar^2}{mr^3} + \frac{e^2}{4\pi \varepsilon_0} \frac{1}{r^2}
\end{align*}
$$

が得られる。

この式について、$${y = -1/r^3}$$と$${y = 1/r^2}$$のグラフを書いてみれば分かるが、正の$${r}$$について、0での極限を考えると$${y = -1/r^3}$$の方が早くマイナスに発散して、無限大での極限を考えるとは$${y = 1/r^2}$$の項が顕著になり$${dE(r)/dr}$$は必ず正である。だから、$${E(r)}$$は下に凸なグラフになるはずだ。すなわち、$${dE/dr = 0}$$となる$${r}$$を求めれば、そこが最低エネルギーであると自信をもって言えるだろう!


緑の線がdE(r)/drのおおよその振る舞いを示す。係数は異なるが、極限での発散収束は同じである

では、$${r}$$について解いてみよう。

$$
\begin{align*}
-\frac{\hbar^2}{mr_{min}^3} &+ \frac{e^2}{4\pi \varepsilon_0}\frac{1}{r_{min}^2} = 0 \\
\therefore a_B = r_{min} &= \frac{\hbar^2}{m}\cdot\frac{4\pi \varepsilon_0}{e^2} =  \frac{4\pi \varepsilon_0 \hbar^2}{me^2}
\end{align*}
$$

これで、ボーア半径が求まった。そして、最低エネルギー準位についても解ける。

$$
\begin{align*}
E_{min}(r) &= E(r_{min}) = \frac{\hbar^2}{2m}\left( \frac{me^2}{4\pi \varepsilon_0 \hbar^2}\right)^2 -  \frac{e^2}{4\pi \varepsilon_0}\left( \frac{me^2}{4\pi \varepsilon_0 \hbar^2} \right)\\
&= \frac{me^4}{32\pi^2 \varepsilon_0^2 \hbar^2} - \frac{me^4}{16\pi^2 \varepsilon_0^2 \hbar^2} \\
&= -\frac{me^4}{32\pi^2 \varepsilon_0^2 \hbar^2}\\
\end{align*}
$$

これを

$$
E _{min}= -\frac{me^4}{8\varepsilon_0^2h^2}
$$

と書いたりすることもあるが、同じである($${h = 2\pi\hbar}$$のため)。便利のため両方覚えておくといいと思う。電子の質量$${m_e = 9.11 \times 10^{-31} \mathrm{kg}}$$、電気素量$${e = -1.60 \times 10^{-19} \mathrm{C}}$$、真空の誘電率$${\varepsilon_0 = 8.85 \times 10^{-12} \mathrm{F/m}}$$、プランク定数$${h = 6.626 \times 10^{-34}\mathrm{Js}}$$を代入すると、

$$
E_{min} = -2.171 \times 10^{-18} \mathrm{J} = -13.6 \mathrm{eV}
$$

となる(ポテンシャルエネルギーなので、マイナスがつく!)

3. この導出の問題点

明らかな問題が二つある。

まず第一に、不確定性原理を使っていることだ。$${xp \sim \hbar}$$という式はおおよその目安でしかなく、桁が合っていれば重畳という具合である。これに基づいて理論を作ることはできない。今回、ボーア半径が求まったのは幸運な偶然だと言える。

もう一つの問題点は、不確定性原理を使いながら、電子の軌道は$${r = a_B}$$でビシッと決まるというような結論を与えている点である。これは、のちの動径分布関数のより正しい描像を待たねばならない。

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