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ナンパ細胞

マジメで堅物のぼくが、学生時代ナンパにいそしんでいた、というとみんな驚く。でも、それには理由がある。

法学部だったぼくは、同じ高校から進学した医学部の高階俊に彼女ができないと愚痴をこぼし、聞き終わった高階俊は、声をひそめた。
ー内緒で移植してやろうか、ナンパ細胞を。
ーナンパ細胞?
ーもちろん通称で、難しい学名はある。
ーモテるようになるのかい?
ーいや、女子を誘っていくら断られてもめげない耐性がつくだけだ。

彼の所属する研究室に出向いて、頬に少し傷をつけ、シャーレーの中のものを刷り込むだけで手術は完了した。

ナンパの要諦は、とにかく声をかけまくることだ。最初は、誰も反応してくれない。そのうちに、誘いに乗ってくれる女性が出てくる。もうひとつの要諦、それは、かのカサノバも言っていることだが、二人組を誘うこと。そのうち、声をかける前から、誘いに乗ってくれるかどうかの判別がつくようになった。

妻帯者となった今でも、この女性は誘えば来てくれるかどうか、見ただけで分かる。そんなときは、あるバーに連れて行く。そこでは、医者をやめてバーテンをやっている高階俊が、カクテルをつくってくれる。

たいていは、その女性と僕の二人ともに、恋の熱を冷ますカクテルを。ただ、僕が合図をすれば、身も心も委ねたくなる媚薬をカクテルに混ぜ込むこともできるのだが、そのサインを出したことは、いまのところ、まだない。

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