毎週ショートショートnote∥読書手術
手術は成功した。
遠山達也、御年七十五歳。「死ぬまで本を読む」が口癖だった彼は、自分の丸くなった頭を撫でた。
最新技術のBTB(Book to Brain)。脳に直接、本の内容を送信できる。
加齢と共に困難になった、本屋通い。電子書籍など様々な手段を試したが、次第にページをめくるのも、文字や音を聞くのも困難になった。
恋をしたとき、生きることに疲れたとき、彼は本と共に生きてきた。本が読めなくなることは、彼にとっての「死」だった。
そんなとき、BTBを知った。知人は「無謀な手術は止めておけ」と言った。だが、彼は死ぬまで本を読み続けたかった。
手術は成功した。
気になる本を検索し購入。ダウンロード数分、読み終える。彼は数百冊の本を脳に送った。
夕方、彼はBTBの電源を切った。ふと、目の前にある読みかけの本が目につく。彼の指は無意識に動いた。本のページをめくる感触。
文字の形、耳に届く言葉、それらが遠く消えていく。
手術は成功した。
それなのに、なぜ悲しい気持ちなのだろう。
(410字)
たらはかにさんの、毎週ショートショートnoteのお題に参加させていただきました。
彼は、本に何を求めていたのでしょうね。
正解はありませんが……。
ひとによって様々かと思いますが、読書にみなさんは何を求めていますでしょうか。
