「十年の友情」|エッセイ
私は小学校二年生の時、突然の転校を経験した。父の仕事の関係で、急に東京への引っ越しが決まったのだ。
当時の私にはCという親友がいたが、両親から転校を告げられた日はあいにく、喧嘩をして帰宅したところだった。
突然の転校という事実。にもかかわらず、つい先ほど喧嘩別れしてしまった親友。今となっては、喧嘩の理由は定かではないが、当時、なんとなく流行っていた「ゼッコウ」という言葉を使われた後だった。
Cは、朝の登校時から帰りの下校時まで、いつも一緒に行動するような親友だ。転校してしまえば、二度と彼女には会えないかもしれない。
とにかく仲直りしなきゃ。喧嘩の理由なんてなんだっていい。このまま転校になったら、きっと一生後悔するに違いない。
私の頭の中は、「転校」「ゼッコウ」「仲直り」の三つの言葉がぐるぐると巡り、その日は眠ることができなかった。
翌朝。私は手に汗を握りながら、教室のドアを開けた。すると、先に登校していたCが一瞬、こちらを振り返る。しかし、彼女はすぐに視線を机の隅に落とした。
「ゼッコウ」を実感した私の心は、ずっしりと重たくなった。最後の最後で、Cとの友情は切れてしまうのだろうか。
それでも今日、伝えなければならない。「転校」という事実を。私は自分を奮い立たせ、彼女の座る机へと足を進め、精一杯の言葉を伝えた。
「私、転校するんだ」
「えっ?」
Cは何か空耳でも聞いたような、ポカンとした表情をしていた。
「だから、転校することになったの。昨日のことはごめんね」
するとCは、状況を察したのか、みるみるうちに態度を変えた。
「転校?何それ?ゼッコウは終わりだわ!」
あっけなく私たちの「ゼッコウ」は終わった。そしてすぐに、世話好きの彼女らしい一面を発揮しはじめた。
「みんな、H(私)が転校するって!寄せ書きのノート回すから、今日中に全員書いてよね」
若干小学校二年生にして、驚異の仕切り能力だった。Cの陣頭指揮の元、あっという間にクラスメイトからのメッセージが集まり、私のもとに届けられた。
「東京に行っても元気でね」
「M小のみんなのこと、忘れないでね」
「大好きだよ」
温かい言葉がビッシリと並んだ寄せ書きを見て、私は溢れる涙を抑えることができなかった。
「Cちゃん、みんな、ありがとう」
Cは恥ずかしそうに言った。
「みんな、Hのことが大好きだから。いつでも戻っておいでよ。うちらの友情は、永遠だよ。」
その言葉通り、毎年長期休みを利用して、私はCと会っていた。一年に一度しか会えなくてもいい。お互い、元気な姿が見れたらそれでいい。Cが大学入学のために上京するまで約十年の間、私たちは遠距離の中を会い続けた。
小学校低学年の友情なんて、環境が変われば忘れ去られることが多いかもしれない。しかし、私たちのように、大人になるまで友情が続くこともある。たとえ一年あまりの時間でも、毎日同じ学校で顔を合わせ、育んだ信頼関係は、強い絆となる。
約束通り、変わらぬ友情を築いてくれたC。彼女のような心の温かい女性と出会えたことを誇りに思う。
