タイの一皿の向こうにある物語【六皿目】日本の皇室が伝えた魚の鍋
夕暮れ時、ウボンラチャタニ県を流れるメコン川の支流、ムーン川沿いを散歩するのが私のお気に入り。川沿いにはおしゃれなルーフトップレストランやバーが並び、涼しい風に吹かれながら街の喧騒を忘れるひとときだ。
この日はタイの友人と一緒に、川沿いのルーフトップレストランで夕飯を楽しむことにした。散策の途中、友人がピラティア(ナイルパーチ)の養殖棚を指さしながら言った。
「日本の前の天皇陛下がここに来て、魚の養殖方法を教えてくれたんだよ。」
その真偽は定かではないが、地元の人々はそう信じている。そして私が日本人だと知ると、にこやかに「おかげで安定して魚が食べられるようになった、ありがとう」と言ってくれた。
夕食は、その養殖ピラティアを使った土鍋料理。炭火で火を起こし、野菜やキノコ、細い米麺・センレックを土鍋に入れてグツグツと煮る。つけだれは、小エビやオキアミ、魚醤「プラー」にナンプラーや唐辛子を加えたナムチム。魚が煮えるのを待ちながら、私はシンハービールを片手に、鳥の軟骨揚げや豚焼きと長インゲンをつまむ。
10分ほどで鍋が完成。湯気と香りに包まれながら、ピラティアをナムチムにつけて一口。川風と夕暮れの景色が、何倍もおいしさを引き立てる瞬間だった。



