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P/E 65倍。NVIDIAの2倍。——20%急騰したARMを私が買わない理由

20%急騰のニュースを見て、TLが「ARM買うべき」で溢れた日に、この記事を書いています。

こういう時こそ冷静にならないといけない。

私はかつて、「この会社はすごいから」という理由だけでチャートが急騰している銘柄に飛びついたことがあります。結果は惨敗でした。買った翌週から下がり続け、含み損を抱えたまま3ヶ月。最終的に損切りした時には、資金の2割が消えていました。

あの時に学んだことは、「すごい会社」と「今買うべき株」は、まったくの別物だ ということです。

ARMホールディングス(NASDAQ: ARM)。あなたのスマホの99%に入っている「設計図の帝国」が、35年で初めて自社チップを発表し、翌日16%急騰しました。

すごい会社であることは間違いありません。でも、私は今は買いません。

なぜすごいのか。なぜ今は買えないのか。そしてどうなったら買うのか。初心者の方にも分かるように整理していきます。


この記事を読むと:

  • ARMがどんな会社で、なぜスマホの99%に入っているのかが分かります

  • 3月24日のAGI CPU発表で何が起きたのか、なぜ16%も急騰したのかが分かります

  • 「すごい会社なのに今は買わない」という判断の考え方が分かります


目次

  1. ARMって何者?——「設計図を売る」という最強のビジネスモデル

  2. 3月24日に何が起きたのか——AGI CPU発表と16%急騰

  3. なぜ市場はここまで興奮したのか——3つの成長ドライバー

  4. それでも私が「今は買えない」と思う理由——4つのリスク

  5. じゃあどうなったら買うのか

  6. まとめ


1. ARMって何者?——「設計図を売る」という最強のビジネスモデル

ARMを一言で説明すると、「半導体の設計図を売る会社」 です。

普通の半導体企業はチップを作って売ります。しかしARMは違います。チップそのものは作りません。「こういう設計にすれば、消費電力が少なくて、高性能なチップが作れますよ」という設計図(IP)をライセンスとして売っています。

あなたが今手に持っているスマートフォン。iPhoneであれAndroidであれ、その中のプロセッサはほぼ確実にARMの設計を使っています。AppleのAシリーズも、QualcommのSnapdragonも、SamsungのExynosも、全部ARMの設計がベースです。

世界で販売されるスマートフォンの 99%以上 がArmベースのプロセッサを搭載しています。これまでに出荷されたArmベースのチップは累計 3,100億個超。地球上の全人口の約40倍の数のチップに、ARMの技術が入っている計算です。

なぜこのモデルが最強なのか

設計図を売るビジネスには、決定的な強みがあります。

工場を持たないので、設備投資がほとんどかかりません。その結果、ARMの粗利益率(売上からコストを引いた利益率)は 約97.5% という驚異的な数字です。

100円売ったら、97.5円が粗利益として残る。これはApple(約46%)やNVIDIA(約75%)と比較しても、次元が違います。

さらに、ARMは「半導体のスイス」と呼ばれています。Apple、Qualcomm、Samsung、NVIDIAといった、お互いにライバル関係にある巨大企業すべてに同時に技術を供給できる中立的な立場にいるのです。

ここまで読んで、ARMのビジネスモデルがいかに強いか、感じていただけたと思います。では、3月24日に何が起きて市場がここまで沸いたのか。


2. 3月24日に何が起きたのか——AGI CPU発表と16%急騰

2026年3月24日、サンフランシスコで開かれた「Arm Everywhere」というイベントで、ARMは AGI CPU を発表しました。

これは、ARMの35年の歴史で 初めての自社設計チップ です。

ここが重要です。今まで「設計図を売る会社」だったARMが、初めて自分でチップを作って売ることに踏み切った。35年間堅持してきたビジネスモデルを変える、歴史的な転換点です。

AGI CPUのスペック

技術的な話を少しだけ。

最大136個のプロセッサコアを搭載し、TSMCの最先端3nmプロセスで製造。従来のx86プラットフォーム(IntelやAMDのチップ)と比較して、ラックあたり2倍以上の性能を実現するとされています。

AIのデータセンターにおいて、1ギガワットあたり最大100億ドルのコスト削減効果があるとARMは主張しています。

リードパートナーはMeta

最初の大口顧客として名前が出たのが Meta(旧Facebook)です。共同開発契約を結び、複数世代にわたるロードマップにコミットしています。

Meta以外にも、OpenAI、Cerebras、Cloudflare、SAP、SK Telecomなどが初期顧客として名を連ねました。AWSやGoogle、Microsoft Azure、NVIDIAを含む50社超がエコシステムの支援を表明しています。

この発表を受けて、翌3月25日にARM株は 約16%急騰 しました。

これだけ聞くと「買うしかないじゃん」と思いますよね。実際、私も最初はそう思いました。しかし、数字を掘り下げていくと、話はそう単純ではありません。


3. なぜ市場はここまで興奮したのか——3つの成長ドライバー

16%急騰の背景には、AGI CPU単体ではなく、3つの成長ドライバーが重なっています。

① ロイヤリティ率の構造的な上昇

ARMの収益の柱の一つは「ロイヤリティ」です。顧客がArmベースのチップを1個出荷するごとに、チップの販売価格の一定割合をARMに支払う仕組みです。

ここで重要なのが、最新のArmv9アーキテクチャでは、このロイヤリティ率が旧世代の 約2倍 に跳ね上がっていること。さらに、Compute Subsystems(CSS)という統合パッケージでは、チップ販売価格の 10%超 を得られるようになっています。

つまり、顧客がチップを売れば売るほど、ARMに入ってくるお金が増える。しかもその「取り分」が年々大きくなっているのです

② データセンター市場への急速な浸透

ARMはスマホの王者ですが、次の戦場は データセンター です。

AWSのGraviton、GoogleのAxion、MicrosoftのCobalt、NVIDIAのGrace。ハイパースケーラー(超大規模クラウド企業)が次々とArmベースのサーバーCPUを採用しています。AWS上位1,000顧客の98%がGravitonを本番利用しているという数字は衝撃的です。

特にAI時代には、GPUだけでなくCPUの需要も爆発的に増えます。AIの「推論」(学習したモデルを実際に動かすこと)には大量のCPU処理が必要で、ARMはこの需要が現在の4倍に膨張すると予測しています。

あなたは「半導体=NVIDIA」だと思っていませんか? 実はAI時代に本当に必要なのは、GPUを支える「CPU」かもしれません。

③ FY2031の野心的な長期目標

AGI CPUの発表と同時に、ARMは2031年3月期の財務目標を公表しました。

  • 売上高:250億ドル(FY2025の約6倍)

  • EPS(1株当たり利益):9ドル(FY2025の約12倍)

この数字が達成されれば、今の株価水準でも「実は割安だった」ということになる。市場はこの可能性に興奮したわけです。


4. それでも私が「今は買えない」と思う理由——4つのリスク

ここまで読むと「じゃあ買えばいいのに」と思いますよね。私もARMのビジネスには本当に惹かれています。でも、冒頭で話した通り、私は「すごいから」で飛びついて失敗した過去があります。

あの時の教訓を忘れずに、数字で考えます。

① バリュエーションが高すぎる

これが最大の理由です。

ARMの予想P/E(株価収益率)は現在 49〜65倍 です。

この数字がどれくらい異常かを比較してみます。

  • 半導体セクター平均:約25倍

  • NVIDIA:30〜35倍

  • ARM:49〜65倍

ARMはNVIDIAの 約2倍 のバリュエーションがついています。

P/Eが65倍ということは、「今の利益の65年分」を先払いして株を買うということです。成長しなければ65年間持ち続けてやっとトントン。

FY2031の目標(EPS 9ドル)が完璧に達成されたとしても、その時点のP/Eが25倍だとすると株価は225ドル。今の155ドル近辺から約45%の上昇余地はあります。しかし、それは 「5年間で完璧に目標を達成した場合」 の話です。

「完璧な実行」を前提にした株価で買うのは、投資ではなく祈りだ。

② ソフトバンクの集中保有リスク

ARMの株式の 約87〜90% はソフトバンクグループが保有しています。市場に出回っている株はわずか約13%。

さらに、ソフトバンクはARM株を担保に 85億ドルのマージンローン を組んでいます。

これは何を意味するか。もしARMの株価が急落すると、ソフトバンクは担保不足になり、追加でARM株を売却せざるを得なくなる可能性がある。売却すればさらに株価が下がり、さらに売却を迫られる……という悪循環のリスクです。

実際に2025年12月、売却懸念だけで約20%急落した実績があります。

③ 顧客と競合するジレンマ

AGI CPUは、ARMにとって画期的な一歩です。しかし、ここに構造的な矛盾があります。

ARMの最大の強みは「半導体のスイス」としての中立性でした。設計図を売るだけだから、AppleもQualcommもNVIDIAも安心してARMの技術を使える。

しかし、自社でチップを作り始めるということは、AWS、Google、Microsoftといった 自社の最大顧客と直接競合する ことを意味します。

「設計図を買っている相手が、自分のライバルになる」——この矛盾が、長期的にARMのエコシステムにどう影響するか。まだ誰にも分かりません。

④ RISC-Vという新しいライバル

オープンソースの半導体設計「RISC-V」が急速に成長しています。2025年末時点で約200億コアが稼働しており、中国政府はRISC-V推進を国策として位置づけています。

まだARMのエコシステム(2,200万人の開発者)には遠く及びませんが、IoTや自動車の低コスト領域からじわじわと浸透しています。長期的には無視できない脅威です。

私も最初は「リスクがあっても、この成長性なら……」と心が揺れました。でも、数字を並べてみると、今の価格には「何も問題が起きない」ことが織り込まれている。何か1つでも歯車が狂えば、株価は大きく調整する可能性があります。

⑤ そもそも「AIブーム」の前提が揺らぎ始めている

ここまでの4つはARMの個別リスクでした。しかし、もっと根本的な問題があります。

ARMの成長シナリオの核心は「AI・データセンター向けのCPU需要が4倍に膨張する」という前提です。FY2031目標の売上250億ドルのうち、150億ドルがAGI CPUなどのシリコン事業。つまり 成長の6割はAI投資ブームの継続が前提 です。

しかし今、その前提に黄色信号が灯り始めています。

AGI CPUの最大顧客であるハイパースケーラー——Google、Microsoft、Meta——の株価がテクニカル的に総崩れしています。特にMicrosoftは頂点から-33%で、2022年10月のChatGPTリリース以降で最大の下げ幅を記録しました。AIへの設備投資の旗振り役が、冷め始めています。

さらに、OpenAIが動画生成AI「SORA」のサービス終了を発表しました。AIのマネタイズが想定ほど容易ではないという現実が、少しずつ表面化しています。

もちろん、AIの長期的な需要が消えるわけではありません。しかし「AI設備投資ブーム」と「AIの長期的な成長」は別の話です。ブームが一巡して投資が減速すれば、ARMの150億ドルの前提は大きく揺らぎます。

「すごい技術」と「すごい投資先」が一致しないことは、歴史が何度も証明しています。

私も最初は「リスクがあっても、この成長性なら……」と心が揺れました。でも、数字を並べてみると、今の価格には「何も問題が起きない」ことが織り込まれている。何か1つでも歯車が狂えば、株価は大きく調整する可能性があります。



5. じゃあどうなったら買うのか

ここで具体的な株価を出すのは投資助言になってしまうので避けますが、私が見ているポイントだけお伝えします。

「バリュエーションが合理的な水準まで下がったかどうか」 です。

今の予想P/Eが49〜65倍。半導体セクター平均が25倍。NVIDIAが30〜35倍。ARMの成長性を考慮しても、「合理的に説明できるプレミアム」には限度があります。

市場全体が大きく調整する局面や、四半期決算でガイダンスが予想を下回った時など、バリュエーションが圧縮される瞬間がいつか来るかもしれません。その時に改めて、成長シナリオとバリュエーションのバランスを見直します。

それまでは、ウォッチリストで静かに見守ります。焦る必要はありません。チャンスは何度でも来ます。

「すごい会社を、高い値段で買う」のは、投資ではなくファンクラブの入会金だ。


まとめ

ARMホールディングスは、間違いなくAI時代の重要なプレイヤーです。

スマホの99%を支配する既存事業。97%超の粗利益率。Armv9によるロイヤリティ率の構造的上昇。データセンター市場への急速な浸透。そしてAGI CPUによる歴史的な転換。

どれを取っても、化け物級の企業です。

ARMっていう名前も好きです。

ただ、投資判断において最も大切なのは、「すごい会社かどうか」ではなく「今の価格で買って割に合うかどうか」です。

私はまだ、この株のファンクラブに入るつもりはありません。ウォッチリストには入れていますが。


あなたはARMの株、「今の値段でも買い」だと思いますか? それとも「高すぎる」と思いますか?

コメントで教えてください。どちらの意見も、次の記事の参考にさせていただきます。


このシリーズについて

この記事は【30万→5000万の投資術】シリーズの1本です。
FXで30万円を1000万円に増やし、株式投資で5000万円を築いた
兼業投資家・なぎが、「手法」ではなく「考え方」を体系的に解説しています。

シリーズ全体の目次は、自己紹介記事からご覧いただけます。
→(自己紹介noteリンク)

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※本記事の内容は投資の教育・解説を目的としたものです。
特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
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