人の中で、ひとりでいるということ
一人旅は、やっぱり少しさみしい
小田原に行った。
理由は、たぶん「ちょっと離れたかった」からだと思う。
駅を降りると、みんながどこかへ向かって歩いていた。
観光案内所のあたりでも、「小田原城はどっちですか」と聞く声が多い。
家族連れや友人同士のグループが、同じ方向を目指している。
ああ、そうか。小田原といえば小田原城なんだ。
そんなふうに思って、
私もその流れに混ざるように歩き出した。
途中で、誰かが「小田原はかまぼこが有名なんだよ」と話しているのが聞こえた。
観光地らしい、断片的な情報が、耳に入ってくる。
とりあえず、桜の咲く小田原城へ向かった。
それから、本命だった料理店へ行った。
けれど——
有名な店に入ろうとしたら、長い列ができていた。
30分くらいかと思っていたけれど、気がつけば1時間以上待っていた。
周りには観光客や家族連れがいて、
なんとなく、自分だけが静かだった。
一人旅って、自由でいいと言われるけれど、
こういう時間は、少しだけ心細い。
本当は、旅の本に載っていた喫茶店にも行きたかった。
でも本は持ってきていなくて、
店の名前も、はっきり思い出せなかった。
そんな小さなことが、
思っていたよりも、自分を不安にさせる。
それでも、順番はやってきた。
メニューには「本日のおすすめ」と書かれていて、
私は迷わず、海鮮ちらし寿司を選んだ。
近くに漁港があるから、
そこからのものなのかどうかはわからない。
でも、そんなことはどうでもよくなるくらい、
とにかくおいしかった。
ひと口食べて、思わず思った。
「今までで、一番おいしいかもしれない」
さっきまでの長い待ち時間が、
ふっとほどけていく。
ああ、こういうこともあるんだ、と思った。
しんどかった時間が、
あとからちゃんと報われること。
そして、
「おすすめ」って、
きっとお店の人が食べてほしいものなんだと思う。
それを素直に選んでよかった、と
少しだけ、安心した。
帰りは、急ぐ旅でもなかったので、
あえてこだまを選んで、ゆっくりと帰ってきた。
新幹線の中で、英語で書かれた本を読んだ。
久しぶりだったけれど、思ったよりも読めた。
人が行き交う場所。
ざわざわとした空気。
そして、なにか少しおいしいもの。
どうやら私は、
完全に静かな場所よりも、
人の気配のある場所で、安心するらしい。
一人旅で、ひとつわかったことがある。
私は、
「ひとりでいたい人」ではなくて、
「人の中でひとりでいたい人」なんだと思う。
来月は、ミュージカルを観に行く。
天使にラブ・ソングを…。
きっと、たくさんの人の中で、
音楽と拍手に包まれる。
今度は、少し元気になれる気がしている。
