☆記録|夏の登山は晴れ時々霧時々雨
"日本最後の秘境"と呼ばれる地がある。
夏の登山、2泊3日+夜行バス1泊、友人と雲ノ平へ行ってきた。
雲ノ平は北アルプスの奥地も奥地。そんな場所にどうしても行きたくて、3日間で行ける限界の計画を組んだ。我ながら欲張りだと思う。
1日目
仕事終わりに東京から夜行バスへ飛び乗り、富山駅でバスを乗り換えて折立登山口へ。寝不足のまま登山口に着くというのはなかなかハードな幕開けだけれど、そんなことを言っている場合ではない。バスを降りたら山が待っている。
登りはじめてさっそく出迎えてくれたのは熊の話だった。「追いかけられた」と話す人がいて、私たちは顔を見合わせた。とりあえず大声で喋りながら通過することにした。内容は昔の熊の人身事故の話。今考えると、熊が近くにいるのにする話ではなかったかも。
しばらく登っていると、数十メートル前のグループが突然大声を上げたと思ったら、熊を追い払ったらしい。
帰ってからの話だけど、私たちが行った1週間後に太郎平で被害があった。同じ個体だったのか、違う個体だったのか…今はもうわからない。
太郎平小屋では北アルプスの山々が一望できた。水晶、ワリモ、鷲羽、そして少し手前には雲の平。
あ、この山たち、明日全部登るんだ。
そう気づいた瞬間、少しだけ笑えてきた。遠い。どれもこれも、遠い。寝不足と熊のことなんかはすっかり吹き飛んで、来てよかったと素直に思う瞬間であると同時に、明日の自分への心配が静かに募る瞬間でもあった。水場で全身を水で濡らしてリフレッシュしてから薬師沢へ向かった。今日は暑いし、まだまだ長い。
ここから薬師沢経由で雲ノ平を目指すのだけれど、思っていたより登り返しがきつかった。地図で見ていたより全然きつい。大きな岩がゴロゴロ転がっている。足が上がらなくなってきたあたりで「限界かもしれない」と本気で思った。あと、顔を何箇所か虫に刺された。
でも限界だと思ってからも歩けるのが登山の不思議なところで、なんとか雲ノ平へたどり着いた。辛くても、足を交互に前へ出せばそのうち到着する。でももう2度と薬師沢には行かないと思う。
ずっと泊まりたいと思っていた雲ノ平山荘は、おしゃれで綺麗だった。北アルプスの奥地にこんな山荘があるのかと、少し呆然とするくらい。テントを持ってきているのに小屋泊したのは、この山荘に泊まりたかったから。憧れの小屋に泊まるのは楽しい。ただ、今度来るときはもっとゆっくり過ごせる日程を組みたい。夕食を食べて、山荘のあたたかい雰囲気をもっと味わいたい。そして、もっと欲を言うなら、ゆっくりと酒盛りをしたい。
夜は遠くの山で雷が鳴っていた。夕方に雲がどんどん発達していた方向。外でぴかっと光るたびに、明日の天気が少し心配になる。けど、天気図では晴れるはず。台風が近いから、天気が不安定なのはしょうがない。友人と翌日の行程会議をして、眠りについた。
2日目
朝4時出発。外に出ると、あたり一面霧に包まれていた。視界が白い。幻想的といえば幻想的だけれど、朝日の時間は晴れて欲しいな、と少し我儘を思う。歩き始めて少しすると、霧の向こうからじわじわと朝焼けが差し込んできた。振り返ると、霧の中に雲ノ平山荘が浮かんでいた。正面には雲海も広がっていた。
これがもう、とんでもなく美しかった。
写真を撮りながら、昨日この山荘に泊まれてよかったと改めて思う。台風が近いから、中止にしようか迷ったけど、晴れを信じて来てよかった。
本日のメインは水晶岳。名前の通り、水晶でできているらしい。「らしい」というのは、登る前はにわかに信じられなかったから。でも登ってみたら、本当に水晶だった。岩肌に透明な結晶がごろごろしている。へえーーー!と声に出しながら山頂へ。そこで、同じ日に双六小屋泊予定だという2グループと出会い、写真を撮り合った。山頂で出会う人たちとこういう話になると、なんだか同じ旅をしている仲間みたいな気持ちになる。「遠いね」「間に合うかな」「頑張りましょう」と励まし合って、それぞれ出発する。また双六で会えるといいね、という雰囲気だった。

水晶小屋で友人といなり寿司を分け合って力をつけ、双六小屋へ向かった。晴れていて、気持ちがいい。昨日の山行で体は重いけど、人は少ないし、景色は最高。
ワリモ岳あたりから少し曇り出してきた。あんなに晴れていたのに、と思いながら歩いていたら、鷲羽岳を降り始めたところで急に土砂降りになった。あっという間だった。さっきまでの晴天はどこへ行ったんだろう。どうせもう濡れてるし、レインウェアを着るより歩いた方が早いと判断して、三俣山荘へ逃げ込む。ぐしょぐしょ。
身支度と休憩を兼ねて三俣山荘のカフェへ入ると、ケーキが売っていた。山の中でケーキ。予定にはなかったけど、もちろん食べた。疲れた体に甘いものが染み渡って、めちゃくちゃ美味しかった。雨でぐしょぐしょになったくせに、少しラッキーだったかもしれない。ラストオーダー数分前の出会い。土砂降りがなければカフェに入らなかったし、カフェに入らなければケーキに出会わなかった。山の雨はケーキで帳消し、と思うことにした。
休んでいると、急に晴れてきた。山の天気は本当に気まぐれ。三俣山荘を出て、双六小屋へ向かう。1日目がハードで、2日目もなかなか歩いている。足が棒を通り越して何かよくわからないものになってきた頃、ようやく双六のテント場が見えてきた。今まで、限界の限界を超えたことはあった。けど、限界の限界を超えた先には、まだもう一つ限界を超えられることを知った。
双六岳は巻くことにした。
双六小屋に着き、なんとかテントを立てる。人間、やればできる。テントに倒れ込んで、そのまま眠った。雲海が広がっていたけど、夕焼けが綺麗だったけど、星も綺麗だったけど。無理なものは無理、もう体が動かない。
3日目
前日までの疲れが全身に残っていた。朝焼けを見に行く元気は、正直なかったから、ゆっくり寝ることにした。朝焼けより睡眠。これも立派な判断だと思う。テントを乾かした方が撤収も楽だし。
今日は下山するだけ、と思っていたのだけれど、その下山が長い。小池新道、日陰がほとんどない。夏の日差しがじりじりと降り注いできて、じわじわと体力を削ってくる。ばてながら、途中の沢で水をかけ合いながら、笑いながら、時々歌にならない歌を歌いながら、なんとか降りていく。水のありがたさを知った。冷たい沢の水が顔にかかった瞬間の気持ちよさといったら、言葉にならない。人間、水がないと生きていけない。今回の登山で特にそれを思い知った。
沢で水浴び中に、昨日水晶岳山頂で写真を撮りあった方と再会した。昨夜は無事でしたか?とお互いに質問。またどこかでお会いできたらうれしい。山での一期一会の出会いが好き。
そして登山道最後の最後、わさび平小屋で食べた素麺がめちゃくちゃ美味しかった。付け合わせの野菜もすごく美味しい。暑すぎて食欲なんてないと思っていたのに、スルッと食べられた。冷たくて、つるつるして、するすると体に入っていく。素麺を食べに、またここへ行きたい。でも、真夏の小池新道は歩きたくない。
辛いことはいっぱいあった。熊も、登り返しも、限界の限界の限界も、土砂降りも、日陰のない長い下山も。でも山は美しいし、食べ物は美味しいし、一緒に歩く友人がいるし、楽しい登山だった。ぜんぶぜんぶ含めて、山は良い。「登山が好き」と堂々とは言えないけど、山は好き。山での出会いや空気も好き。
次はどこへ行こうか。友人との計画が、楽しい。
あの日は、朝は一面の霧と雲海。
昼は快晴。
そして午後には突然の土砂降り。
山の天気は変わりやすい…
それだけでは終わらせたくありませんでした。
なぜ晴れていたのに雨が降ったのか。
台風が近づいていた日の気圧配置や風向き、高層の気流をもとに、気象データから一つずつ答え合わせしています。
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