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「1200万年前の大麻化石」は本当に存在するのか。

イェール大学へ直接問い合わせて分かったこと

最近、SNSでこんな写真を目にすることが増えました。
大きな岩石の上に、美しく保存された大麻草のような植物の化石。
説明には次のように書かれています。

Cannabis sativa
Northeastern China
ca. 12 million years old
Herbarium Specimen
YPM IP 604796

さらに、「イェール大学ピーボディ自然史博物館所蔵」と紹介されている投稿も少なくありません。
もしこれが本物なら、大麻の進化や起源を考える上で非常に重要な資料ですしかし、ノンフィクションを書いている立場として、どうしても気になることがありました。
「本当に実在する標本なのだろうか。」
そこで今回は、SNSやニュースサイトではなく、所蔵先とされるイェール大学ピーボディ自然史博物館へ直接問い合わせることにしました。


違和感を覚えた理由

写真自体は非常によくできています。
一見すると、博物館の展示写真にしか見えません。
しかし、ラベルをよく見ると少し気になる点がありました。

標本番号は
YPM IP 604796
となっています。

一方で、その下には
Herbarium Specimen(植物標本)
と書かれています。

僕は専門家ではありません。
そのため、「これはおかしい」と決めつけるのではなく、「確認しよう」と考えました。


イェール大学へ直接問い合わせた

僕は博物館へ英語でメールを送り、次の点について確認をお願いしました。

・「YPM IP 604796」という標本番号は実在するのか。
・その番号はCannabis sativa(大麻草)の植物標本なのか。
・SNSで拡散されている写真は、イェール大学の真正な標本写真なのか。
・もし違うのであれば、この画像について何か分かることはあるか。

数日後、博物館のコレクションマネージャーから返信が届きました。
さらに古植物学(Paleobotany)の担当研究者にも内容が共有され、正式な回答をいただくことができました。


博物館からの回答

回答を要約すると、内容は次のとおりでした。

① 「YPM IP 604796」は実在する

ただし、Cannabisの標本ではありません。
この番号は、
腕足動物(Brachiopoda)の化石標本
として登録されているとのことでした。

つまり、番号自体は存在しますが、植物とは無関係です。


② 植物標本ではない

イェール大学では、植物化石はPB(Paleobotany)という別の管理番号で登録されています。
つまり、植物標本なのにYPM IPという番号が付いている時点で整合性がありません。
担当者からは、
IPは無脊椎古生物コレクション(Invertebrate Paleontology)を示す番号体系である
との説明もありました。


③ 写真はイェール大学の標本ではない

もっとも重要な回答がこれでした。
博物館からは、

この写真はイェール大学ピーボディ博物館の真正な標本写真ではありません。

という回答がありました。
さらに担当者は、

AIで生成された画像のように見えます。

とも付け加えています。
つまり、SNSで拡散されているこの写真について、イェール大学は自館の標本ではないことを正式に回答しています。


今回否定されたのは「この写真」です


ここで誤解してほしくないことがあります。
今回確認できたのは、
この画像はイェール大学の標本ではない
という事実です。

一方で、
「大麻属(Cannabis)に関する化石研究そのものが存在しない」
という意味ではありません。

実際には、ヨーロッパをはじめ、花粉化石や植物化石を用いたCannabis属の進化研究は現在も行われています。
ドイツなどでは、Cannabis属やアサ科植物に関連する古植物学的研究も報告されています。

つまり、この画像が真正ではないことと、大麻の進化研究そのものは、まったく別の話です。
ここは混同しないようにしたいと思います。


一番印象に残ったこと

今回の調査で僕が一番印象に残ったのは、「偽物だった」ということではありません。
イェール大学の研究者の方々が、とても誠実に対応してくださったことです。
コレクションマネージャーだけでなく、古植物学の担当研究者にも確認していただき、標本番号の管理体系まで丁寧に説明してくださいました。
世界中からさまざまな問い合わせが届いているはずですが、その中の一件にも真摯に対応してくださったことに感謝しています。


ノンフィクションを書く者として

SNSには、毎日のように興味深い情報が流れてきます。
その中には事実もあれば、誤情報もあります。
見分けることが難しいものも少なくありません。
だからこそ、僕はできる限り一次情報にあたりたいと思っています。

分からなければ博物館に聞く。
研究者に聞く。
論文を読む。

遠回りに見えるかもしれませんが、その積み重ねが、ノンフィクションを書く者としての責任だと考えています。
今回の調査も、その一つです。
SNSにあふれる情報のを見極めることは難しい作業ですが、日本文化や大麻文化について、SNSで話題になっている情報を鵜呑みにするのではなく、自分の目で確かめ、必要であれば専門家に直接確認しながら研究を続けていきたいと思います。


謝辞

本件について丁寧にご回答くださったイェール大学ピーボディ自然史博物館のコレクションマネージャー Erynn Johnson 氏、および古植物学担当の Shusheng Hu 氏に心より感謝申し上げます。

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