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流れを取り戻す整備 ― ポルシェ356と、止まった時間のめぐり ―

昨年の晩秋に帰ってきたポルシェ356。
焦らず、触れられるところから少しずつ。
止まった時間を、水のように流れへ戻していく整備の記録。

昨年の晩秋に、ポルシェ356(Replica)が手元に帰ってきた。
24歳から34歳まで乗っていた車。
昭和38年式のフォルクスワーゲンをベースにした、
軽くて、機械の息づかいが素直に伝わるスピードスターだ。

あれから一年。
実家のガレージで静かに過ごしているこの車に、
ようやくまた手を入れはじめた。

ステアリングダンパーが少し疲れていて、
高速ではハンドルが震えることがある。
それでも、まっすぐに走ろうとする感覚はまだ失われていない。
ライトをLEDに換えるのは、
夜道で他の車の明るさとの差が広がってきたから。
少しでも安心して走れるようにするための整備だ。

作業は一気に進められるものではない。
少しずつ、手が届くところから。
ナットを緩め、古いグリスを拭き取り、
新しい油を差して、ボルトを締め直す。
そんな単純な作業のひとつひとつに、
自分の中の流れが戻ってくるのを感じる。

車も、人も、動きを止めている間に乾いていく。
けれど、止まることにも意味がある。
それは、次に動き出すために水を貯める時間なのだと思う。

整備という行為は、
部品を直すこと以上に、流れを整えることに近い。
オイルやグリスが巡れば金属がやわらぎ、
エンジンが呼吸を取り戻すように音を変える。
それはまるで、
日々の暮らしや心の水分を整えるような感覚だ。

この一年、さまざまなことが動き、止まり、また動き出した。
車を直すことは、その流れの一部でもある。
暮らしも、仕事も、家も、土地も、
結局は同じように水が巡っている。

ステアリングを握るその日を急がず、
流れが整うのを待ちながら、
触れられるところから少しずつ整えていこうと思う。

乾きと潤いのあいだで、
ゆっくりと整っていく時間。
それが、いまの私にとってのドライブだ。

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