見出し画像

【ショートショート】AI使ってないよね? (1,766文字)

「AI使ってないよね?」

 上司にそう尋ねられたとき、僕は内心ヤバいと焦りまくっていた。いつかバレるかもと思ってはいたけれど、まさか、こうも不意を突かれるとは。一瞬、どうにか誤魔化せないかと考えるも抵抗するだけ無駄だと悟り、しおらしく謝罪することにした。

「すみません、使ってません」

 頭を下げる僕に上司は声を荒げた。

「なんで? メールを出すときはAIで文章を作れって何度も言ってるよね? どうして自分の頭で文章を書こうとするわけ? それでトラブったとき、お前、責任取れないだろ」

 返す言葉がなかった。すみません、すみません、と謝り続けることしかできなかった。そんな修羅場に隣の席の先輩は静かに姿を消してしまった。厄介なやつだと思われているに違いなかった。

 AIの普及によって、あらゆるコミュニケーションはAIでリスク回避することが前提の世の中になって久しい。重要な交渉はもちろん、政治家の答弁、ミュージシャンのMC、日常の業務連絡、ちょっとした会話に至るまでAIチェックは義務のようになっている。酒場の愚痴と言えば、

「最近、芸能人の謝罪会見までAI頼りだもんね」

「自分の言葉でしゃべったら炎上するもの。当たり前だろ」

みたいな内容が定番となり、AIを使わないことはAIよりも自分の方が賢いと過信している危険人物とみなされ、当たり前のように迫害されてきた。

 社会人になってすぐの頃は僕も社会はそういうものなんだとすべてを受け入れ、順応し、AIを100%信頼してきた。しかし、徐々に、これならAI同士でやりとりをすればよく、人間なんて必要ないのではないかと漠然とした不安を抱くようになってしまった。

 そんなときだった。天然知能クラブの噂を聞いたのは。AIの監視をかいくぐり、密かに自分の頭で考えることをしている人たちが草の根的な運動を展開しているらしい。インターネット上ではAIにバレてしまうので、オフラインのつながりを少しずつ広げ、それなりの規模になっているらしいと通勤電車で誰かが話しているのが聞くとはなく聞こえてきた。僕はたちまち興奮し、いますぐにもそのグループに参加したいと胸が高鳴った。

 とはいえ、どうすれば仲間になれるのか? 条件を推論するにアンチAIな行動をとっていれば、そのことに気がついたメンバーから声をかけられるんじゃないかと思われたが、そんなことをすれば、上司にたちまち目をつけられてクビになるのは想像に難くない。そんなわけで、どうしていいかわからないまま、一方でむかしみたいにAIを無邪気に使えるわけでもなく、中途半端に自分の思考を混ぜる形で日々の業務を適当にやり過ごしてきた。

 いつか怒られるんじゃないかと覚悟はしていた。でも、AIを多少は使っているので大事になることはないと自らを励ましつつ頑張ってきた。だいたい、こんな仕事、いつ辞めたっていいんだし、怒られてもかまわないと頭の中ではイケイケにやってきた。なのに、こうして上司からクドクド説教されてみるととんでもないことをしてしまったと反省しきりで、本当に情けなかった。

「すみません。すみません」

「謝って済んだら警察はいらねえんだよ。うちの就業規則は知ってるよね? AIを使わなかったらクビだよ。クビ。いや、正確には懲戒処分ね、懲戒処分。一応、言っておくけど、いま、私があなたを指導しているのはすべて事前にAIのアドバイスを受けているから。感情が昂る中でAIの見解と異なる言葉を発している可能性もあるけど、後に文書を渡すので、基本的にはそこに書いてある内容に準じて判断してよね。まあ、とにかく、あんたの行動には問題があるから!」

 そして、上司はその場を後にした。真面目な僕は真っ暗闇の前に立たされたような不安を抱えたまま、呆然と立ち尽くす以外になにもできそうになかった。

 やがて、静かに戻ってきた先輩が僕を励ますつもりなのか、優しく声をかけてくれた。

「ねえ、AI使ってないよね?」

「えっ。ああ、すみません。お騒がせして」

 心配をおかけしたことに恐縮し、堪らず申し訳なさを表明したところ、先輩は「しっ!」と唇に人差し指を当てて、険しい眼差しを向けてきた。

「AI使ってないよね? だったら、あなたを招待するわ」

「それって、もしかして」

「ええ。ようこそ、天然知能クラブへ」

(了)




マシュマロやっています。
匿名のメッセージを大募集!
質問、感想、お悩み、
読んでほしい本、
見てほしい映画、
社会に対する憤り、エトセトラ。
ぜひぜひ気楽にお寄せください!! 



ブルースカイ始めました。
いまはひたすら孤独で退屈なので、やっている方いたら、ぜひぜひこちらでもつながりましょう! 

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集