今日のジャズ: 5月23日、1963年@パリ(祝60周年) “Scrapple From The Apple”by Dexter Gordon
May 23, 1963 “Scrapple From The Apple”
by Dexter Gordon, Bud Powell, Pierre Michelot & Kenny Clarke at CBS Studio, Paris for Blue Note (Our Man In Paris)
60年代に入ると、米国での黒人差別や低待遇に嫌気がさした指折りの黒人ジャズマンが、芸術を高く評価し、比較的差別に寛容な欧州に渡り定住し、欧州でのジャズ普及に貢献し始めます。
当時の欧州は、現在の日本のようにジャズが評価され、尊敬され、待遇も悪くなく、少なくとも本国よりは良い環境だったようです。フランス人ベーシストを除く三名は欧州移住の黒人ジャズ演奏家。
時代的には4月22日紹介曲の約一ヶ月後。現代ジャズの基礎を創り出した始祖、アルトサックス奏者のチャーリーパーカーによる作曲作品。曲名はペンシルベニアに移住したオランダ人の豚肉ホルモン料理、スクラップルから来ているとのこと。

このスクラップルは、フィラデルフィアの郷土料理で、「アップル」というのは米国東海岸都市を指していて、「ラップル」と「アップル」で韻を踏んだ曲名となっています。
ここでは、テナーの大物でジャズ映画「ラウンドミッドナイト」の主役を演じたデクスターゴードンが自由気ままに激しくブロー、モダンジャズのドラミングスタイルの確立に貢献したケニークラークが奔放な間合いでゴードンに激しく絡みつき、ハードバップピアノの巨人であるバドパウエルも成熟と冴えを感じさせる演奏が記録されています。そのパウエルは5:04からのソロで、全盛期に近いうめき声共々、好調な指さばきが記録されているのが聴きどころの一つです。
好演奏の背景には、デンマークのコペンハーゲンとフランスのパリに移住した屈指で顔馴染みの米国ミュージシャンがパリに結集して、東海岸にゆかりのある楽曲を録音したからかもしれません。たまたま欧州に居合わせた組み合わせの妙、これもジャズの面白みでもあります。
その米国ミュージシャンを受け入れ側として演奏していたローカルミュージシャンが、フランス人ベーシストでパリジャンのピエールミシェロ。その貴重な機会を捉え、シドニーベェシェ、コールマンホーキンス、マイルスデイビスやセロニアスモンクといった大物との共演歴があって、その延長線にこの録音があります。そしてミシェロは、時を経て先に触れた86年公開のゴードンの映画にも登場していることからしても、欧州在住時にゴードンとかなり親密な関係を築いていたと推測します。当時の欧州ではアメリカ程の人種差別はないにしても、言葉や文化の壁はあったと推測すると、地元の知り合いの存在はかなり有り難かったと思います。そんなストーリーを交えたパリを舞台とする先の映画の主人公のモチーフは、ここでピアノを弾くパウエル。そして本作がパリ録音なのだから、これも何かの縁でしょう。

アルバムジャケットは、ブルーノートレーベルのアルバムジャケットを多数手掛けたフランシスウルフの写真と、ロゴにフランスだけにその国旗色のトリコロールを使ったリードマイルスによるデザインの組み合わせというブルーノートの典型スタイル。よく見ると”In”と”Paris”の間にゴードンが手にする白いタバコが入っていて、背景のみならず、タバコでもトリコロールの中央の白色を表現しているところが妙味です。
ジャケット写真は王道の組み合わせながら、パリ録音という事で音が定番の録音技師ルディバンゲルダーではないためにブルーノートとしては違和感があって、少し物足りなさを感じてしまいます。オーディオ的には、ブルーノート特有のゴリゴリ感が無く、音質がフラットに、特に低音が控え目に捉えられているので、ベースとバスドラムの再現が難しいように感じます。
パリの春の空気感は、さっぱりとしていて以下の冬のパリ収録曲と同様に乾燥気味ですが、その反面、共振する余地が少ない飾り気の少ないストレートな音質のように思えます。
本作の約一ヶ月前の作品はこちらからどうぞ。同じ年、同じ季節でも、聴き比べるとアメリカの東海岸の湿度を適度に含んだ空気感が感じられます。
最後に、米国ミュージシャンを欧州ミュージシャンが迎入れた演奏に興味がある方はこちらもどうぞ。
