今日のジャズ: 6月28日、1955年@ポリスアカデミーLA “I Got Rhythm”by Hampton Hawes
“I Got Rhythm”
by Hampton Hawes, Red Mitchell & Chuck Thompson recorded on June 28, 1955 at Los Angeles Police Academy in Chavez Ravine for Contemporary (Hampton Hawes Trio)
華麗なるテクニックを持つピアノ奏者、ハンプトンホーズのデビューアルバム。名作を輩出している西海岸レーベル、コンテンポラリーの創設者レスターケーニッヒによるライナーノーツによると、ホーズの想像力に配慮して、通常の録音機材の整っている密閉されたスタジオではなく、自然で活き活きとした演奏を収めるべく、ホーズの出身地、ロサンゼルスにある環境の良い警察署内、ポリスアカデミーの大きな体育館で録音したそうです。そのポリスアカデミーの情報については以下の写真をご覧ください。

男性が指しているのがホームプレートの位置
ポリスアカデミーの建物が奥に見える
(1957年10月7日撮影)

その真上にあるポリスアカデミーはほぼ隣接
(1962年1月3日撮影)

ちなみにコメディー映画の”The Police Academy”はカナダのトロント撮影
そのプロデューサーの意図を受けて、ホーズは勢いと活力に溢れる演奏を繰り広げています。ライナーノーツによると、そこに設置されていた名門スタインウェイのグランドピアノをホーズは気に入ったそうで、その張りのある音色が、悦びに満ち溢れて途切れる事なくスイングしています。それは、キレがあって小刻みながらノリの良い、モダンジャズの開祖チャーリーパーカーとの共演歴があるチャックトンプソンのダイナミックなドラムと、絶え間なく動き回る名手、レッドミッチェルの快活なベースと共に記録されています。ホーズの自叙伝によると、本作の収録時間帯は深夜から夜明けまで、ピアノは20世紀を代表するピアニストの一人、アルトゥール・ルービンシュタインが使用した状態の良いスタインウェイで、照明を暗くして、ホーズの背後に当時のガールフレンドとミッチェルのパートナーがビールを飲みながら鑑賞していた、そんな収録現場だったようです。

ショパンの演奏に定評のあるグラミーウィナー
この作品が好評を博して、同メンバーによるアルバムがシリーズ化し、本作を含めて三作がリリースされました。ホーズの特徴は、想像力とテクニックに支えられた泉のように湧き出るメロディーにあって、そのスタイルは同世代のピアノの巨人、オスカーピーターソンやアンドレプレビンにも影響を与えています。確かに、手数が多く朗らかなフレーズで鍵盤を縦横無尽に駆け巡り、畳み掛けるようにドライブする点に共通項が見い出せそうです。
一方、この時代に収録機器の整備されたスタジオではなく、屋外的な場所で録音するとなると、環境も異なりますし、録音機材も重かったでしょうから、録音エンジニアは相当苦労したものと思われます。しかしながら、これだけの演奏が繰り広げられたら間違いなく、その甲斐があったと言えそうです。
時代としては、同じ月に米国の反対側、東海岸のニューヨークにおいて、奇才クラシックピアニスト、グレングールドがデビュー作となるバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の初レコーディングを行った頃にあたります。

コロンビアNY30thスタジオでのモノラル録音
オーディオ的にはモノラル録音特有の濃厚感が味わえると同時に、ピアノの響き方を聴くと、体育館という収録場所の広い空間がある事が窺い知れます。
その録音は、コンテンポラリーレーベルの名物録音技師のロイデュナンではなく、ビートルズやフランクシナトラを手掛けた実力者、ジョンパラディノが手掛けています。バラディノは、マルチミキシングを使いこなして聴き取り辛い中低音のリズムセクションを音の隙間に埋め込むことでバランスを取る技法を編み出し、その後の録音技術に大きな影響を与えたそうです。また、ポールマッカートニーの「バンドオンザラン」ではシングルカット用に音源(テープ)を巧みに編集したとの記録も残っています。そんな逸話を聞くと、本アルバムの有り難みも増すのかもしれません。
曲は、ガーシュイン兄弟が音楽を手がけたミュージカル、”Girls Crazy”の挿入歌です。このミュージカルから”But, Not For Me”等の複数曲がジャズのスタンダード曲化していますが、ミュージカルそのものも、1990年代に”Crazy for You”と改名して現代に蘇りヒットしました。

鮮やかな黄緑色の写真とイラストを掛け合わせたフォトモンタージュによる本アルバムジャケットのデザインは、女性イラストレーターのポーリーンアノンによるものです。アノンは他にも以下の印象的なジャズアルバムジャケットも手掛けました。

最後に、同ミュージカルからスタンダード曲になった”But, Not For Me”にご興味ある方は、こちらの記事をどうぞ。
