今日のジャズ: 1月11-12日、1983年(祝40周年)@ニューヨーク
Jan. 11-12, 1983 “I Fall In Love Too Easily”
by Keith Jarrett, Gary Peacock & Jack DeJohnette at Power Station, NYC for ECM (Standards Vol. 2)
天才キースジャレット、フュージョン全盛期に純ジャズで挑む。これもまた欧州レーベルのECMだからこそ成立した企画と言える。本アルバムは、Vol.1と、その二年後にVol.2として分けて販売されているが、両者は同日録音であり、どういう基準で分割されて曲順が決まったのか、が気になるが、謎は解けていない。この曲はVol.2からの選曲。印象としては、Vol.1がフレッシュなエネルギー色が強く、本作が落ち着いたバラード主体となっている。
厳選されたスタンダード曲を腕利きのトリオがアドリブで聴かせるという長きに渡って続いたスタイルの原点がここにある。ECM録音だけに録音は透明度が高く繊細で、デジョネットのシンバルのきめ細やかさや、キースの特徴でもあるダミ声も捉えられている。若干ベース音が控えめで中音寄りなのが80年代の特徴か。とはいえ音質には忠実なECM、当時、一般的には中音域主体で捉えられていたベースよりは、かなりフラットな低音となっていて、今聴いても違和感は無い。
この年にカセットテープがレコードの売上とほぼ五分五分となるが、このアルバムはカセットでは販売されず、レコードと当時生まれたばかりのCDで発売されたそう。
作曲は、“Let it Snow”を手掛けたジュールスタインで、この曲はジーンケリー主演映画、『錨を上げて』で、フランクシナトラが歌ってヒット、アカデミー賞の作曲賞を受賞してオリジナルソング賞にもノミネートされたものの、同じくジャズスタンダード曲となった巨匠コンビのロジャースとハーマンシュタインによる“It Might as Well Be Spring”に軍配が上がったという歴史がある。
キースは、この曲を何度も演奏して度々ライブ録音しているが、究極のパフォーマンスは、ニューヨークのジャズクラブでの演奏を、ある種ドキュメンタリーのように全て捉えた”At The Bluenote”の4枚目に登場する、アドリブ曲を加えた27分に及ぶ演奏だと思う。天から降って来たようなキースのピアノの旋律、無骨なトーンながらそれにとことん寄り添う芯のあるベースと、この上無く綺麗なメロディーを叩き出して歌を唄うようなドラムの組み合わせが最上で、アドリブによるドラマのような展開もあり、聴き終えると心が洗われる気分が味わえる。
何故そんな演奏が出来るのか。それはトリオ全員が歌詞を理解、共感して表現しているから。この曲の歌詞は度々安易に恋に落ちてしまって自己嫌悪に陥る男性がモチーフ。そんな経験を各々が思い出しながらのトリオ演奏だと想像すると、また違った楽しみ方が出来る。
シナトラから始まり、チェットベイカーも唄い、マイルスやビルエバンスといった男性陣が取り上げてこの曲の名演を繰り広げているのには、同じく歌詞への共感という共通項が根底にありそう。
さて、シナトラによるオリジナルバージョンは、こちらをどうぞ。
マイルスによる同曲の演奏に興味がある方はこちらをお聴きください。
尚、本作品のSACD版は、日本オーディオ協会のおすすめソフトに選定されていますので、オーディオ試聴用のリファレンス音源としても活用出来ます。
最後に、このトリオのライブ演奏に興味を持たれた方は、こちらもどうぞ。
