ためいき |短編小説
急に降り出した横殴りの雨が、
身体をつたって車の座席も濡らしている。
ワイパーが必死に動いても、前は見えない。
「運転、大丈夫? はぁ、それにしてもすごい雨ね」
という言葉をためいき混じりに吐きながら、
私は、少し冷静に状況を観察していた。
彼の横顔を見つめる。
少し伸びた髪。
前を見据える瞳。
そこには、私の知らない遠くの夢が映っていた。
ギターケースの中に詰めたものは、
私との思い出でななくて、
未来への切符だったのかもしれない。
「なあ…」
彼が何かを言った。
でも、雨の音がすべてをさらっていく。
私は、耳を彼の口元に近づけたが、
「愛してる」とは聞こえなかった。
もう、確かめる勇気が出なかった。
またひとつ、ため息がこぼれる。
彼が夢を追う姿は、本当に好きだった。
でも、その光の中に、私はもういなかった。
「俺が成功したら、淋しい思いはさせないから」
そう言った彼の声が、
今も胸の奥で響いている。
でも、私はもう、疲れていた。
だから、笑って言った。
「ねえ、もう行っていいよ」
って。
彼の唇が何かを言いかけたけれど、
その声を、雨がまた、さらっていった。
あの頃の私たちは、こんな日がくるなんて思ってなかった。
十三で出会い、十四で心を寄せ、
十五で淡い約束した。
はじめてのキスは十六。
十七の時に、硬い約束をして、同じ朝を迎えた。
目を瞑れば、あなたと一緒に作った思い出が今も鮮やかに蘇る。
それなのに...
こぼれていった、ためいきたちの記憶はどこへいったのだろう。
きっと、今日のためいきも、明日には忘れてしまうのだろう…
ハイウェイを降りたあと、
車のドアを閉める音が、やけに大きく響いた。
雨の中で、
赤いテールランプが街に溶け込んでいった。
大きく息を吸った後、
こぼれたのは、
涙だった。
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