Funds Series-E 調達の裏側 ~ レイターステージ資金調達の概略 ~
皆さん、こんにちは。ファンズCFOの前川です。今日は、うちの広報に「調達note書かないと明日から君の席はない」と脅されて、直近で発表させていただいたシリーズEの資金調達の振り返りを投稿したいと思います。
なお、本投稿の想定読者は、今後もしくは今ミドル・レイターステージにいる経営者、CFOに向けており、所々で前提説明や用語解説を端折っていることをご容赦いただきたい。また、テクニカルな手段論ではなく、当社の資本政策に対する思想や考え方を中心に解説いたします。
※資金調達の概要については、以下のリリースをご覧ください
投稿理由
まず私の背景として、ファンズでCFOを務めながら、ファンズの100%子会社であり、ベンチャーデットファンドのGPを務めるFunds Startupsの代表を務めています。つまり、資金調達するCFOとしての側面と、ベンチャーデットファンドのGPという投資家の立場として日々活動しており、常にスタートアップファイナンスに関して両面的な立場から思考しています。
特に後者の立場においては、自らと同じステージであるミドル・レイター・グロースステージのスタートアップと対峙することが多く、自社での当事者の立場に加えて、相対的な立場として市場を認識しています。その経緯を背景に、恐らくこのnoteに関心を持たれる方であれば言わずもがなかと思いますが、昨今の市場環境を踏まえ、国内の当該ステージの状況は楽観的とは言えません。
昨年のグロース上場維持基準の見直しに伴うグロースIPOの実質的なハードルアップ、日本では数十年ぶりである"金利のある世界"の到来に伴う、ハイグロース企業の相対的魅力の低下。それらの裏付けともなるトレンドとして、TOPIXは史上最高値を更新する一方でグロース市場だけが横ばい~低迷傾向である全体の相場感や、今年に入ってIPOした銘柄の公募割れの多さ等、それぞれに一定の連関する関係性もありますが、総じて楽観的とは言えず、これまでの連続的な慣習上の考え方のままで進むことは難しく、抜本的に資本市場での戦い方をアンラーンするべきタイミングであると感じています。
そのような中、我々がベストプラクティスということではないと思いますが、少しでも今この市場環境の中でも先頭に立って戦っているスタートアップ関係者の参考になるお話ができればなという思いで、筆を取っています。重ねて、この投稿が絶対解ではないというディスクレーマーはお伝えの上、何か一つでも現況の問題解決に資する示唆が提供できていれば幸いです。

シリーズE 概観
そもそも国内で「シリーズE」というラウンドを見ることはそう多くないと思いますので、このラウンド自体がどのような位置づけなのか、先んじて説明したいと思います。ChatGPTによると、定義は以下とのことです。
スタートアップの**シリーズE(Series E)は、一般的にはかなり後期の資金調達ラウンドです。ざっくり言うと、「すでに事業実績があり、上場・M&A・大型成長投資を見据える段階の調達」**です。
フェーズにおける会社状況の解釈は、各社の業界業種、事業戦略、資本戦略等多種多様な考え方によって相当な幅がありますので、一概的な定義をするのは困難ですが、総じて事業実績を通じて、大きく成長投資するためのラウンドであるということは共通認識かと思います。
当社はpreシリーズEまでに累計67億円のエクイティ調達を行ってきましたが、今回のシリーズEは単体で総額約48億円(デット含む)の調達となり、これまでの累計実績規模と同じくらいの規模での調達となりました。
資金使途はリリースにも載せていましたが、国内外のM&Aへの投資CF、事業拡大に伴うWorking Capital、その他将来の企業価値最大化に向けたAIをはじめとしたテクノロジーへの投資であり、外部資本調達の資本コストを踏まえても、それを大きく上回るROIが期待できる投資アイテムであると判断し、今回の調達に踏み切りました。そして、それらの投資を終えて一段と完成度を高めた企業集団となった上で、次のステージに進むことが将来的な企業価値の成長の蓋然性も高めるものと考え、この度の調達を意思決定しました。
またリリースでは詳細を含めていませんが、今回のラウンドは複数種類株式の新規発行、既存株主の複数種株式の持分売却、自己株式の活用といった、複合的なカクテルディールをラウンド全期で行ったことと、それらのエクイティ調達にレバレジッジをかけて、長期/短期を組み合わせたデットファイナンスを組成したラウンドとなりました。なお一部の資金使途と絡めて株式交換も含めています。ということで、やれることを徹底的に全てやりました。
資金調達の前提
いきなりですが、資金調達を開始するに辺り、皆さんは何を要件定義しますか? ついつい目前の資金繰りの解決として必要額を調達する、という短期的目線になりがちではありますが、資金調達を行うということは、個人的に以下2つの構成要件を満たす必要があると考えています。
資金調達するほうがより自分たちの実現したいことが早期にor/and良い形で実現できるという見立てがある(IRRの改善)
その実現の見立てによって得られるリターンが、調達する資本の資本コストを上回る見立てがある(ROIC/WACCの改善)
これらを満たしていない資金調達を繰り返すことは、必ずどこかのラウンドで、自社のやりたいことと資本市場からの要求との矛盾が生まれ、不本意な資本政策を検討することことが多いです。これは上場/未上場関係なく、株式会社を運営する以上、エクイティであれ、デットであれ、外部資本には"コスト"があり、それに見合った戦略があるのかを常に問う必要があります。
特にシリーズEのようなステージでは、国内外のVC、CVC、PE、上場株運用会社、金融機関、事業会社、個人と多種多様な資本バックグラウンドを持った投資家に対峙します。投資家多様性を確保することで、一辺倒的な経営にならないメリットはあるものの、それだけ均衡点の発見、つまり合意形成が難しいというデメリットもあります。全員が売却時期、保有目的、期待IRRもバラバラですから。だからこそ、自らの資本政策に対する考え方をきちんとラウンド時に伝え、目線を擦り合わせることが重要と考えます。
この資本市場との合意形成が至れるかどうかを推し量るために、ラウンド開始の当初からいきなり全力前進でマーケティングするのではなく、nonタームでソフトヒアリングを行い、潜在的な需要度を確認しつつ、エクイティストーリーにおける課題、懸念点、もう少し言えば資本コストとして転嫁されるリスクは何で、そのディスカウントはどうみられるか等の言語に置き直して整理し、ブックビルディングに近い思想として、戦略オプションと投資家毎の需要を可視化し、どれが最も経済合理的な落としどころなのかを検討します。それが固まり、経営陣と合意した上で、既存株主と同意を行った上で本格的な資金調達へと歩みを進めていくことになります。
本ラウンドの優先順位
今回のエクイティラウンドでは、タームシートに明示的に以下の優先順位を記載しました。
①理想的な株主構成 > ②Valuation > ③金額 > ④クロージング時期
*理想的な株主構成の定義
・リード投資家:今後の資本政策におけるアンカーリング効果とフェアバリューの合意を見据え、原則新規の金融投資家を選定する
・フォロー投資家:既存投資家のプロラタ権利履行に加え、別途定める戦略的連携が期待できる投資家を優先する
一般的にはとにもかくにも③(及び④)が、、となるかと思いますが、当社は金融事業者ということも踏まえ、一層安定的な経営が求められます。したがって次回調達を行う際のランウェイの規律をより厳しく定義しており、少なくともランウェイが18か月を下回れば本格的に検討するとしています。(※なお、この基準は市場環境によってもチューニングし、今のような株式市場のボラティリティが大きいときには、投資家がより慎重な姿勢を見せるため、可能な限り早めに動きだす、逆にformattableであればギリギリまで攻め切る、といったイメージです)
ゆえに、ラウンドの組成において③と④については、ランウェイという意味においてそこまでタイトな優先順位とならず、投資CFのタイミングさえアジャストできれば劣後する概念としました。
そして、一般的に"②"を最優先にする方も多いと思います。これはダイレクトに株主価値(経営者持分含む)にも影響するからです。当然当社も株主価値を棄損しない経営をすることは極めて重要な基準でありますが、各投資家からして最終的に重要なのは "Exit Valueがいくらなのか?" という点であり、そのExit Valueを最大化するための現在価値として、今のValuationはいくらが妥当なのか?という問いを考えることが合理的です。ゆえに、将来の目標企業価値を定義し、その到達可能性を最大化することを最重要視するため、現在価値である②は劣後し、将来的な企業価値への影響度の高い因子として①の理想的な株主構成を最も重要なクライテリアとして定義しました。
以下では、このうちラウンド毎の考え方の出やすい①②のトピックに絞って、当社がどのような考え方を行ってきたか解説してみたいと思います。

①株主構成の考え方
基本的な考え方
投資家には明確に"得意なラウンド"が存在し、そのラウンドにおけるフェアバリューを見極めるプロです。投資とは、常に"リスク・リターン"で語られ、目標とするリターンを期待するために、何のリスクを取るのか、という問いを持ちます。ゆえにそのラウンドのプロとは、そのラウンド時点の"リスク"を見極めることのプロであるとも言えます。そして、そのラウンドのリスクとは、ステージ毎に大きく変貌を遂げていきます。
当社では大変有難いことに、優れた既存投資家(VC)が多く、これまでのラウンドも非常に力強くリーダーシップを発揮いただきました。しかしながら、VCは原則としてアーリーステージが得意であり、このシリーズEというレイターラウンドを必ずしも得意としている訳ではありません。これはVCというアセットクラス一般の話です。
株価は常に需給であり、相場によって決まります。上場株であればその株価がDailyで洗い替えられ、全て板として可視化される訳ですが、未上場の場合には1つのストライクプライスが設定され、それに合意できるかどうかで株価は固定的に決まります。ゆえに、昨日買ったA社は安く、今日買ったB社は高いといった変動がありません。
そのような構造的な違いがある中で、何を持って株価が正当化されるのか。当然各社の見立てもある上で、最終的には「誰がその株価をつけたのか = リードが誰か」という基準が極めて重要になります。その株価を決めたプレイヤーの価格決定能力(プライスアンカーシップ)が高く、市場でも尊敬されていれば、自ずとフォロー投資家は入ってくるでしょう。ゆえに、"このラウンド特有の価格決定能力を持つプレイヤー"にリードいただくことが重要ということです。
レイターで考えるべきこと
先ほどお伝えした通り、シリーズEというラウンドは極めて様々な資本バックグラウンドを持った投資家と合意形成する必要があります。その性質を踏まえ、本ラウンドおよび今後のラウンドにおいて、最も価格形成能力の発揮が期待できる投資家がリード投資家として入っていただくこと、そしてその価格形成を肯定するべく、複数の資本バックグラウンドを持った投資家(特に上場株投資を主流としたクロスオーバー投資家)に2nd close以降で早期に参画してただくことを意識しました。
それが最終的なラウンドの成功可能性を飛躍的に高め、今後の資本政策とも一貫したプレイスタイルを許容できるものと考えた次第です。また、クロスオーバー投資家を意識した要因として、長期的な安定株主という側面もありますが、実際問題としてプライベート投資家とパブリック投資家の物差しや考え方にGapがある中で、どれだけ著名な投資家であってもプライベート投資家だけの評価では懐疑的な印象になる場面があります。
特にバリュエーションが数百億円の規模になる場合や、ビジネスモデルが複雑もしくはわかりやすいCompsが市場に存在しない場合等、株価形成に議論を生みやすく、想定レンジが広くなりやすい企業においてはその影響が顕著であると考えており、より早めにアンカリングを行うことが効果的であると考えます。
そこでプライベート、パブリック、いずれの物差しから見ても合意されている評価であることを重視し、金額の多寡に限らず、このフォーメーションの必要性を重んじました。また、株価形成においては当然このような機関投資家だけでなく、特にグロース市場においては個人株主が支配的です。個人株主においても基本的なプライシングの考え方はありますが、それに加えて定性的な要素も多分に含まれることから、開示可能な範囲において個人投資家の実際の便益に資する連携、取り組み、IR等が行いうるような株主構成、連携を考えることが効果的と感じます。その点において、著名な事業会社との資本提携は大きな意味を持つと考え、同じく金額の多寡に限らず、フォーメーションの構成要素として意識しました。
これらの思想のもと、当社が定めた目標としては「リード投資家は、当該ラウンドへの投資を専門とした新規の金融投資家」とし、その上で次のステージに向けて上場株投資も可能なクロスオーバー投資家、そして事業成長機会を獲得することと安定株主を形成すること等の目的から事業会社をフォロー投資家の候補として定義し、リストアップ、コンタクトへと進みました。
今回の株主構成
結果として、まずリードは「SMBC-GBグロースファンド」が取ってくださりました。同ファンドは株式会社SMBC Edge、グローバル・ブレイン株式会社の2社による二人組合型(共同GP)ファンドで、運用総額は300億円の国内でも最大規模のグロースファンドであり、ユニコーン企業への成長を目指すレイターステージのスタートアップを投資対象とし、数十億/社のレベルで投資するファンドです。
当社の目線では、金融事業を営む当社にとって、メガバンクのグロースエクイティファンドが新規投資家として参画いただくことのアナウンスメント効果は計り知れず、実際にこのラウンド形成でもそのネームから"類推される意味"を踏まえ前向きに検討いただいた方が多くおりました。さらに、同ファンドは既存投資家のGBも参画する二人組合であるという背景から、当社のこれまでの進捗を最も深く熟知されている立場から、このラウンドに特化したオポチュニティを通じて、ご支援いただいた意義は同様にインパクトのあるものでした。
そして、2nd close段階においては、フォロー投資家のクライテリアを満たす投資家に集中的に時間を使いDDを進めていただきました。結果として、エポックメイキングとなったのが、運用会社では知らない人はいないであろう、アセットマネジメントOneが新設する国内公募投信用のクロスオーバー戦略の第一号案件として、投資いただくことになりました。同社は外国籍のクロスオーバーファンドは過去にも運営していましたが、本丸である国内公募投信を見据えた取り組みはこれが初であり、当社としても大変貴重な機会となりました。更には、当社のAI活用を最大限レバレッジするために国内AI開発のリーディングカンパニーであるPKSHA Technologiesとの資本業務提携、プラットフォームの経済規模拡大を見据えJAL本体との資本提携等、今回は明示的な提携発表は2件、潜在的なもの1件含み、今後の成長に資する連携にも至ることができました。
※ご参考:なお、時間軸は初期サウンディングからリード投資家の決定までに約7か月、クロスオーバー投資および資本業務提携の実現には事前準備期間も含めて、約1年~1.5年ほどの時間がかかりました。もっと早くできる余地もあると思いますが、腰を据えてベストを尽くすためにはこれくらいの時間軸は覚悟する必要があり、そのためにも調達活動はなるべく早く動きだす必要があると強く感じますし、お伝えしたいと思います。
付録1:クロスオーバー投資家との対峙
最近話題になっているクロスーバー投資家について少し触れておきます。まずクロスオーバー戦略とは主に上場株を運用する運用会社の投資戦略の一つで、上場後も継続的に成長する銘柄を発掘し、価格の安い未上場時点から保有するというものです。国内でも事例が幾つか出てきておりますが、特に投資信託による未上場株の組入の規制緩和が進んだことで、当該戦略をセットアップする運用会社が増えている印象です。
とはいえ、未上場株の組入は流動性懸念等の観点からも全体の15%と定められています。つまり100億円の投資信託があれば、15億円までしか組入られず、このバジェットにおいて分散投資するならば、1社1~3億円が現実的な目線となる訳です。今後はこの投資信託のAUMが拡大していき、バジェットが成長すればUSのミーチュアルファンドの存在感のように大きな資金が入ってくることが期待されますが、少なくとも今は立ち上がり初期なので、未上場時における金額的インパクトは限定的です。
クロスオーバー投資家との接点方法は幾つかありますが、個人的なオススメは主幹事を経由して個別IR面談をセットしてもらうことや、証券会社が開催するカンファレンスに参加させてもらい接点を得ることが効果的と思います。コロナのときはオンラインでぶっ続けに議論するとかのフオーマットでしたが、最近は元々やっていたようにホテルの部屋で缶詰で話すというのも復活してきているようですね。
ご参考までに、様々なクロスオーバー投資家と対話させていただき、私が所感として典型的に思ったことは以下の通りです。
ほとんどの運用会社で未上場株を見ているチームは、同じく中小型株もカバレッジしており、未上場とはいえ価格感応度は上場株投資に近く、近時のイベント、トレンドが想定以上に反映される。ゆえにそのタイムスパンに合わせたIRをできるようにする必要がある
慣れの問題と現在の市況を踏まえて、検討時間は結構長い。IMやRSを終えてすぐに株価目線と投資有無をフィードバックする、というIPO時のスピード感ではなく、深く検討していただくことが多く、慣れているケースで3か月ほど、セットアップ初期であれば半年~1年という時間軸があり得る
IRコミュニケーションにおいて重要なのは「今が割安である」こと。上場株投資がメインである中で、なぜわざわざ流動性リスクを取って未上場時に投資するのか。その答えは割安(将来的な成長可能性に比較して)でしかない。そしてそれは"今"投資するから得られるという機会価値を説明しなければならない。
特にクロスオーバー投資家と会話する際には、今回のラウンドのinfoが上場時、後とも比較されることもあるため、個人的にはEquity Storyの完成度(長期的一貫性)が低い状態であれば寧ろ持っていかないほうが良いと考えることもできる
さらに2点だけ、大事な点をお伝えしたいと思います。
適宜改定されている理解だが、少なくとも当社の検討時点においては、投資信託等の運用に関する規則に則った場合、投資信託から未上場時に直接投資を受ける場合には、発行体側が定められた基準を満たす無限定適正意見が必要となり、これがボトルネックになり得ること。普通にやっていると大会社にならない限り未上場段階で無限定適正意見が手元にあることはないと思いますので、場合によっては投資を受けるためだけに適正意見が必要になることがあります。なお、公募投資信託がFoFとしてマザーファンドとなり、その下にLPS等の投資ビークルを挟めば、この投資ビークルが無限定適正監査を受け入れていれば発行体にまでは求められないという例外要件があります。これは各社の運用戦略によって差がありますので、検討される際にはあらかじめ検証しておくことを推奨します。
私がとあるクロスオーバー投資家と会話していた際に襟を正された発言があります。それが「御社は未上場ではレイターと言われるが、上場株投資家にとってはIPOでシードなんです。」という発言です。その意図として、これまでの実績も勿論ですが、それ以上にIPOをスタート地点としたときに、どれだけ大きな会社になれるのか?という基準が最も重要であり、そのビジョンの広がり、解像度、実現可能性が重んじられます。当然ですが、この視点がなければ所謂IPOゴールになる訳であり、そのような会社を運用会社は嫌うのだと感じています。当たり前のことを当たり前に言われただけではあるのですが、このような気づきが得られるのは、やはり上場株投資家との議論だからこそであり、その尺度、基準、目線で自社を見直し、さらにエクイティストーリーをブラッシュアップするというのは非常に意味のある時間になると感じ、強く推奨します。
付録2:海外投資家との対峙
海外投資家との携わり方(特に日本ブランチがない、日本株専属がいない場合)についてコメントしておきたいと思います。当社は前回ラウンドから海外機関投資家の直投資を受け、今回のラウンドでも参画をいただきました。これらの投資家は日本ブランチもあり、日本市場を熟知している上で、現地での事業支援やオポチュニティが得られるという点で、当社の資本戦略とマッチし、参画いただいています。
他方で、あえてここでは警鐘をお伝えしますが、業界では"Go-Global"というキーワードのもと、海外投資家にいかに投資されるか?という論調になっていますが、個人的には慎重に考えるべきと思います。
まず"海外投資家"に何を期待しているか、なぜ海外投資家の中でも、その投資家でないといけないのかを明確に言語化できない場合には、無闇に海外投資家から調達を考えないほうがいいと思います。当然言語が異なるのでIRコストはかかりますし、海外投資家からすれば円で投資する限り、直接/間接的にカントリーリスクと為替リスクを追うことから、現在の市況においては構造的にディスカウントが厳しくなるはずであり、期待する実力株価と乖離が出やすいと思います。また、プラクティスの違いと、市場ルールの理解不足という点も重く捉えるべきです。
例えば今回のラウンドでは、今後を見据えて日本での上場基準やロックアップルール等も説明する訳ですが「継続保有の確約とは何だ? 例えばn-1期に投資すれば、IPO時に自分たちだけ売れないのか? それは何たる差別だ」という指摘を多方面から受けました。東証のロックアップルールは必ずしもグローバル共通という訳ではないのです。また「IPO売出しに売出比率をあわせる?No。そんなことは到底受け入れられない」等という話も。これも各国の投資家の暗黙知的なものを守る道理も経済性もないというのが先方の立場があり、それ自体は合理的であると言えます。(なお、諸先輩方のお話を聞く中では、特に売出で揉めた結果、株主同士で売出が揃わず、それも一定比率以上の影響だったことで、主幹事証券からIPOにSTOPがあった…という話も。)
それ以外にも経営や組織の考え方、商慣習のギャップも当然ありますし、その上でグローバルスタンダードと比較して、"日本だから"という理由で許されるものはなく、グローバルVCの資本コストに見合う徹底的な成長を求められる訳です。他方でそれがミートするというのであれば、日本では構造的に調達できないような多額の調達が可能となること、またグローバルでのプレゼンスや知見の獲得、現地での事業展開支援等のメリットもあります。このダイナミズムに対して、自社の経営思想、戦略、期待リターンが見合い、かつその投資家とのIRをやり切れるのであれば大手を振ってやるべきですし、そうでないならば少なくとも未上場の段階においては、現実的に国内経済圏での戦い方を思考するべきです
(※よく、とりあえず"海外投資家"にも、、という根拠なきマーケティングの話を聞くことが多いため、あえてスタンスを取ってお話しています。グローバルスタンダードに戦うスタートアップは、寧ろ海外投資家を上手く巻き込むことのメリットの方が大きいため、自社の資本政策に応じて最適な株主構成を選ぶことを推奨させていただきます)

②Valuationの考え方
基本的な考え方
皆さんはValuationをどのようにして投資家と交渉していますでしょうか。アーリーの時は昨今ではJ-Kissが多くなり、その時点では株価を決めていないことや、優先株発行の際にも大抵のPSRx倍というformattibleな状況かと思いますが、ミドル・レイターになると、ボトムアップ的な共通目線では難しく、明確に長期的およびExit時から逆算して、現在価値がフェアかどうか、という尺度で議論することが殆どです。
なお、一部のHFやレイターVC等において、極めて短期的な目線で見た直前ラウンド to 流動化イベントまでのアービトラージを狙いにくるような基準を持つ方もいますが、少なくともこの時点で短期売買を前提とした株主の優先順位は高くなく、かつ長期的な企業価値を議論しながら、合理的な考え方を持って株主参画いただく投資家に厳選したかったという思いもあり、そのような投資家への案内は消極的なスタンスを取りました。
バリュエーションの方法論
次にバリュエーションの考え方ですが、私は前回のラウンドから共通して、当社案として幾つかのメソッドを用いてバリュエーションレンジを作成し、それをドラフトに投資家と議論するフォーマットを運用していました。
当然として今の市場環境において、Deeptechを除いてPSR指標だけで疎明することはできず、まず第一に利益指標としてn+1,2,3のPER、EV/EBITDAの目線。次に資本コスト(WACC)の目線を擦り合わせるためのDCF、最後に参考指標としてKPIマルチプルと、絶対評価額による横比較を示すこととしました。特に当社はM&A+自社立ち上げを通じて、グローバルの売上比率が30%まで上昇していることを踏まえ、国内のComps比較のみならず、グローバルのCompsとの比較や、グローバルCompsとの絶対値比較の優劣(Premium/Discount)の考え方をまとめる等、なるべく多角的なレンジで見たときに収れんする合意点を発見するように努めました。
なお、参考までに以下は、これはいずれも国内外のレイター投資家との議論で出てきたフィードバックではありますが、各社の運用スタイルはバラバラであり、一つの物差しだけでIRに耐えうるものとはなりません。
・投資家A:グロース運用が得意であり、グロースであることからn+1期のPER=40.0xを前提に成長可能性を重点に検討。
・投資家B:市場が見逃しているプレミアムの分析に重点を置き、現在価値レベルの割安性を重点に検討。
・投資家C:投資家は10年先を指定し、その時点のイメージを徹底的に議論し、そのロングプロジェクションから見た現在価値の妥当性をDCFベースで重点的に検討。
・投資家D:アフターマーケットの出来高、流動性の見立てと、既存株主構成を比較したボラティリティの分析に重点を置いて検討。
バリュエーションの決定
これらの議論を踏まえつつも、特にValuationのレンジを議論していた昨年前半は市場のボラティリティも大きいタイミングで、持っていくweekで顔色が全然変わるような状況であり、非常に価格決定は苦慮しました。当然ヒストリカルのマルチプルレンジを示して景気調整後のイメージを議論する訳ですが、日本では数十年以来の金利のある世界、インフレ云々の状況において、直近10年とっても妥当なのか、という疑念は拭いきれず、最終的には短期の動きや相対評価を気にするケースが多いことからも、そのサブメトリクスもIR上のコミュニケーションに反映した、という経緯になります。
このような議論を踏まえ、最終的にはリスク・リターンを定量化していき、事業計画に対するディスカウント(Upsideは減算、未実現施策は保守的化する等)と、マルチプルに対するディスカウント(評価の低い企業、業種が参照された場合の見積もり等)をそれぞれ織り込んだ調整後の株価目線としてレンジをアップデートし、最終的にリード投資家およびその後続に控えるターゲット投資家との合意点を見出していったという流れになります。結果としては、当社が最後に示したレンジの中のプライスに決定しました。
少しだけValuationに影響した因子をお話すると、まずは兎にも角にも売上高成長率かと思います。一度趣味で上場後の株価成長率と相関関係のある指標を分析したことがあったのですが、当たり前ですが売上高成長率が一定のポジティブな相関を示しました。次に利益率です。Rule of 40と言われますが、売上高成長率+利益率が40%を越えることでマルチプルのグループ分けがなされることが多いです。元々はSaaSの評価に使われていましたが、昨今はソフトウェア全般、ひいてはグロース全般に適用されている認識です。特に上場以降は最終的なFCFがどれだけ多く、持続的なものになるかが最終的な目線であり、一部では売上高成長率<利益成長率の構造になっているか、という点を重視するという話もありました。言い換えれば、いかにオペレーションレバレッジが利く構造となり、資本効率が良く経営でき、リターンが期待できるかという基準と言えます。これらの構造理解を踏まえ、当社としての成長率を実績的に示すことに加え、事業セグメント毎の利益構成、収益構造、成長率、そして連結での貢献利益等を重点的に示し、一定は資本合理的な配分であることを評価いただいたと感じます。
加えて海外展開の評価です。最終的な企業価値の天井を決めるのは、アドレス可能な経済規模である市場規模(TAM)です。当然日本国内のみを対象とした事業と比較して、グローバル市場でのシェアを獲得できる蓋然性が示せることで構造的に高さは異なります。他方で、これはハイリスク・ハイリターンであることをお伝えしておきます。それなりの共通見解として言われたのは「海外戦略を今からやります、だと評価織り込めない。寧ろディスカウントにもなり得る。なぜならば過去、上場してきた企業が資金使途として海外戦略と掲げてきたものの、蓋を開ければ実現していない、失敗して減損計上しているという例が多いからだ」とのことです。Fact baseであるというのがなんとも反論し得ない点で悔しい限りですが、現況においてグローバル戦略の評価は厳しさを増しており、その実現可能性を訴求するためには明示的な実績が求められるでしょう。
付録1:レイターで意識するべき株価設計
なお、最後にValuationについては、高すぎても低すぎてもダメであり、あくまでフェアバリューを見つけ出すことが重要ということを伝えたいです。当然低すぎるのは株主価値棄損に繋がるのでNGとして、高すぎることは目前はダイリューションも抑えられるので良いですが、その部分最適にこだわった結果として、本来事業価値を高められる投資機会を逸失することや、次のラウンドまでに進捗が良くなく、ダウンラウンドになる場合の合意形成が困難となること。さらにIPOを挟めば、アフターマーケットで株価が未上場時の株価を下回ると、既存投資家が売出に窮してしまい、結果としてオーバーハング懸念が顕在化しやすいこと等、構造的に苦しくなるシチュエーションが誘発されやすいです。
Valuationは先ほど記載した通りに原則としてマーケットアプローチで算定していきますが、クロスチェックとして、どれだけ保守的に見ても、フラット以上で次のラウンドを見据えられる自信が持てる株価であるかを検討し、最終的なレンジを設定するのが良いかと考えます。
結果として、当社は2016年の創業来、様々な市場環境を経験してきましたが、全てのラウンドでアップラウンドを実現し、現時点では過去参加した全ての投資家にTVPIレベル(一部はセカンダリでDPIも含む)ではプラスをお返ししています。この積み重ねがラウンドを重ねるスタートアップとしては重要な考え方であり、最終的な株主構成の変化時において不本意なサンクコストを抱えず、スムーズな企業経営が実現できるものと考えています。

デットファイナンス
エクイティファイナンスを進めていきながら、1st close完了後から本格的に金融機関との協議を開始しました。私自身がベンチャーデットのファンドを運営する立場からデットの意義と使い所は認識しているところですが、そのような立場も踏まえて、デットの組み込みをどう考えたか説明します。
まず前提として今回のファイナンスは、詳細は割愛しますが以下のフォーメーションで調達させていただきました。
総額:約27億円
参加行:みずほ銀行、三井住友銀行、北國銀行、商工中金
- 長期:約22億円(期間5年。資金使途はM&A)
- 短期:約5億円(期間1年。資金使途は運転資金+手元資金)
ここでは初歩的なエクイティとデットの違いという話は割愛します。その理解を前提に、エクイティとデットの使い所において、①資本コスト、②最適資本化、③返済可能性と資金使途という3つの観点で説明したいと思います。
①資本コスト
まずデットファイナンスを使うことの資本政策上の最大メリットはエクイティと比較して資本コストが低いという点です。特にスタートアップでありVCマネーはエクイティ界の中でも最も高い資本コストであるため、その差は如実です。
なお、この議論をするときに大抵出てくるのが「エクイティは返済義務がないので本質的に比較にならない」という論調ですが、当然外部資本において返さなくても良いお金はありません。外部資本の調達に対して、返すことを前提にたった時、当然に返すべきリターンが低い方が達成可能性は高いですよね。それだけの説明でデットを可能な限り使うべきという乱暴な説明もできはしますが、もう少し言うとデットファイナンスの場合には返し方が多様であるという点にメリットがあると言えます。
エクイティの場合は実質的に、IPOもしくはM&Aの流動化イベントを作ること、もしくはセカンダリトレードを行うか、自己株式買いで回収する以外に返す方法はないに等しいですが、デットの場合はこれらのイベントの有無に限らず事業が存続し、CFが出ているのであればそれをもとに返済が可能であり、その手段は原則として問われません。
また、エクイティは当然値動きがあり当該イベントを作ってもリターンが返せるとは限りませんが、デットは元本にも金利(*固定の場合)にも値動きがないため、予測可能性が高いです。期限という意味ではデットは契約上の定めで返済期日が明確であり、エクイティと比較して強制力は当然強いのですが、エクイティも裏側の投資家のファンド満期要因等で期限の利益が失われるタイミングは明確にあるため、最終的に何等かの形で返す(※必ずしも自分たちのポケットからの支出ではない点ではデットと異なる)必要があるという点では実質的に同義にも捉えられると思います。
これらの説明を踏まえ、事業で返済できるという自信があるのであれば、総合的な意味での資本コスト見合いとして、エクイティよりもデットで調達できたほうが合理的であると言えます。
②最適資本化
最適資本化とは、企業価値を最大化する負債と株主資本の理想的な構成を目指すことを指します。この理想的な構成において、資本コストにおける話は前章でさせていただきましたが、もう少し企業価値と連動した話をここでは解説したいと思います。
ここでは利害関係社である株主から見た最適な企業価値を推し量るために、企業価値の評価時点をExit Valueとし、その際のイベントをIPOとします。前半でも解説しましたが、IPO時に簡便的で最も共通的に利用されているのはPERです。PER=時価総額÷当期純利益(もしくは株価÷1株あたりの純利益(EPS))と計算できますが、ここではEPSに少し着目してお話します。
※前提理解
株主が最終的に得られる経済価値は、Exit時の時価総額*持分比率です。そのうち発行体目線ではあまり議論に考慮されないのがこの持分比率です。持分比率は基本的に追加投資しない限り、増資等による新株発行が進めば進むほど希釈化します。つまり不本意な新株発行は、株主価値の毀損になる訳です。そしてその希釈化は、その時々のラウンドの調達必要額とバリュエーションとのバランスで決められます。なので短絡的に見れば必要額が調達できる限りにおいて、バリュエーションは高ければ高いほどが良いという構造になります(※先述通りこの部分最適は将来に苦しくなる可能性はある)もしくは必要額の調達手法のうち、エクイティによる調達ではなく、希釈化しない方法、つまりデットファイナンスを活用するべきという思想があります。他方で、デットは原則エクイティよりも期限の利益は短く、強制力があります。ゆえに想定外のイベントが生じたときのリカバリーの余力があまりありません。ゆえに正常時は資本レバレッジ効果が享受できますが、懸念発生時は倒産スピードを高める危険性を内包しています。
上記の構造を踏まえ、当社は「デットキャパシティを維持する限りにおいて、どのようにD/Eバランスを組み立てることが、EPSにおいて最適か?」という問いを立てました。
"デットキャパシティ(アペタイト)"という概念はあまり議論に出てこないのですが、要は自分たちの事業においていくらまでなら積極的に借りてもいいか、という尺度です。これも事業や期間等によって相当に考え方が変わりますが、一般的に負債は純資産のバランスで評価されることが一般的です。簡便的言えば、負債>純資産(≒債務超過)となると、原則負債返済後に資金がないので倒産する可能性が高く、こうなってしまえば事業継続の選択肢が極めて限られてしまいます。こうならないように、事業計画上の純資産の予測に対して、保守的にネガティブシナリオを検討し、それらのストレステストを踏まえて許容可能なキャパシティを算定するというアプローチになります。
例えば、当社においてはM&Aによるのれんが資産計上されていますが、この資産が減損すると純資産を減らす(*Non-cashですが)ことになります。また事業活動で想定以上に赤字が出てしまうと利益剰余金が減少し、純資産を減らすことになるため、事業計画におけるこれらのアイテムの現実的なディスカウントを検証し、それを織り込んだストレステストにおいて、キャパシティを算定しました。
次に「どのようにD/Eバランスを組み立てることが、EPSにおいて最適か?」という点です。
改めてEPSとは、株価÷1株あたりの純利益で計算されるものです。デットは新株発行必要がない*のでデットの方が明らかに良いのでは?となりそうですが、当然ながらデットには金利というコストがあります。
(*新株予約権付きのベンチャーデットは少ないながらも希釈化はある)
金利を計上すると、当然純利益はその分低くなりますので、あまりに高い金利であればエクイティのほうが結果的にEPSが優位となる場合もあります。つまり1株あたりの純利益の尺度を見ることで、金利負担とダイリューションがトレードオフになる構造と理解いただけるかと思います。
こうした構造を背景に、金利とダイリューションの感応度分析を行い、金利の多寡に対して調達上限額を算定できるテーブルを作成し、検証しました。この分析結果を踏まえ、最終的にキャパシティの範疇で、EPSが最大化されるフォーメーションに重点を起きました。
③返済可能性と資金使途
最後に返済可能性と資金使途の整合性という点です。お伝えした通り、総じて最終的に返せれば良い、という自由度はありますが、実際に借入をする場合には、相手が預金取扱金融機関であれば、資金使途をベースとした審査となります。全体感としての返済可能性に加え、デットを活用することに見合った資金使途なのか、という点を疎明する必要があります。
よく資金使途の表現を"硬度"で表します。例えば新規事業の投資資金は実際いくらを、いつ使い、いつリターンが出るか分からないため「柔らかい資金使途」と言えます。他方で既に確立した事業が反復継続的に生まれるような運転資金や、既に契約関係が明確で役務提供も確実なプロジェクトの売掛金等については、逆にタイミング、金額も決定的であるため「硬い資金使途」であると言えます。
このうち、デットはやはり固い資金使途にあてることが望ましいと考えられます。固い資金使途、つまり予測可能性が高く、返済確実性が高いものについてはリスクが低いため、そのリスクに見合う低いリターンであるデットファイナンスをあてる、というのが最適化と言えます。逆にこれがアンマッチになると資本政策のバランスが崩れて窮するリスクが顕在化します。
大抵のスタートアップは赤字先行になると思いますので、それゆえに何でもエクイティでやるしかない、という乱暴な議論になることも多いのですが、たとえ全体感では赤字を掘っているスタートアップであったとしても、その内数においては単体でCFが安定的に創出できているアイテムがあることが多いでしょう。まずはそのような資金使途から資本コストを低くする努力としてデットを徹底的に考える。そして大きく伸ばせる挑戦(ROIC>CoE)はエクイティを使い大胆に攻めていく。このように事業とファイナンスの解像度を高めることが、資本最適化のアプローチであると考えます。
まとめ
これらの検討結果を踏まえ、当社は今回のラウンド総額においては、ほぼエクイティ:デット=1:1のバランスになるように資金調達を行いました。結果として、本ラウンドのダイリューションは、元々資本政策で承認を取っていたレンジの下限に収めることができたと共に、5年という極めて長い期限の利益を獲得することができ、結果として最適資本調達に至られたと振り返っています。
当社のようなFintechやDeeptechのスタートアップ等は、構造上必要な投資額の絶対額が大きくなり、そこから逆算すれば各ラウンドのダイリューション、最適資本化は極めて重要なアジェンダになると思います。
私自身がその最適資本化の手段の一つであるベンチャーデットを提供する立場になろうと思ったのも、一定期間スタートアップの財務を見続けてきた経験から、最終的な仕上がり、株主価値を本気で考えたときに、エクイティ一辺倒の効率の悪さは致命的であると感じたからです。それは市場機会に比した資本コストの高さ、ダイリューション、利害関係の異なる株主が増えすぎて経営に窮すること、資本政策の自由度が限定されること等の観点に現れますが、いずれにしてもスタートアップというハイリスク・ハイリターンな主体だからこそ、自社に合った資本政策を考えきる、ということがスタートアップ経営の責務であると私は考えています。その観点から有効にデットを活用する必要性と可能性について少しでもお伝えできれば幸いです。

セカンダリ
最後にセカンダリディールについても少し触れてみたいと思います。昨今はセカンダリも大変盛り上がってきており、市場参加者として良い兆候と感じていますが、まだまだプラクティスも足りないかと思いましたので、公開できる範囲で実例をお話できればと思います。
セカンダリ取引の難しい点は、①プライマリに対する割引率、②割当先の選定、③共同売却権の抑止、という3つに収斂すると考えられます。これらに合わせて、当社での考え方を記載したいと思います。
①プライマリに対する割引率
ここでは具体的なプライスは控えますが、どのように決定していったかをお話したいと思います。(※なお、割引が前提になっていますが、そもそも割引が不要なラウンドも当然あるのですが、それは超人気銘柄に限られるので一旦ここでは割愛したいと思います)
まず割引率を誰が決めるのか、という点ですが、原則としてセカンダリ取引については売出人と買付人との相対取引が基本ではありますので、発行体である当社はそれを承認する立場である、という構図になります。
なので、基本的には相対で決めてくれ、という投げ出し方も有り得ると思います。しかし、この方法は既存投資家 to 既存投資家であるインターナルディールや、プライマリの資金調達ラウンド中ではないタイミングであれば良いと思いますが、プライマリの資金調達を行っている場合には、常に買付人と利害調整を行う必要があることからも、発行体が積極的に参加し、価格を折り合う点も模索する必要があります。もっといえば、戦略的に割引率を活用することで、加重平均株価を押し下げ、希望する投資家を向かい入れる手段として使い切れるか、という点にたって調整するべきでしょう。
とはいえ、売出人が売出に応じてくれないとディールはできません。なのでまずは売出人と交渉を進めます。その際に慣れている投資家であれば、概ねこれくらいのディスカウント率、という目線を持っていますが、当然彼らの善管注意義務として単純な安い目線は出てきません。ゆえに交渉するためには、その割引率が経済合理的である説明が必要です。
当社においては、買い手の目線も反映しつつ、まずは市場レコードが豊富なUS市場のトレードベンチマークを参照し、今回と最も近似する手法時に適用される考え方、ディスカウントレートを調べました。次に、株価算定機関に依頼し、今回のプライマリ調達に合わせて、ウォーターフォールによる各種類株式の株価の算定を依頼し、既存の種類株式の種類毎の株価と、種類ごと≒分配劣後条件ごとの株価差を算定しました。さらに、国内で観測可能な範囲で実例を調査し、それらのレンジにおいて、売出人の持分に適用するべき割引率を示しました。
加えて、売却時期と可能性という尺度を追加します。それは「この割引率であれば今具体で手を挙げている人がいるのでxx日以内に売り出せる。これを上回る場合は現状買い手がいないので売れるか分からない」といった会話を行う中で、割引率と実現可能性のトレードオフに対する情報を提示し、既存投資家の合理的な判断を支援するというものになります。これらの感応度的な提示を踏まえ、最終的に各社と割引率を合意しました。
※なお、セカンダリに慣れているいくつかの投資家と会話した際に、事業が好調の場合はフラット~30%程度、普通であれば30~50%、不調の場合は70%以上も、という相場感と聞きました。やや半年前くらいの時系列になりますが参考程度にしていただければと思います。なお、これも株式種類、ラウンド条件等、かなり影響を受けるのであくまで参考までに。
②割当先の選定
当社はまず先述した話の通り、先にソフトサウンディングを行い、みなしブックビルディングのようなものを行い、戦略オプション、株価、投資家の需要を一定推し量りました。その際にプライマリの株価では、株価要因で入れないものの、当社としては参画していただきたいTierの高い投資家に対して、交渉材料としてセカンダリを組み込み、利害調整を行うという形で利用させていただきました。
なお、市場ではセカンダリ取引自体がそこまで実例があるものでもないため、買い手がそもそもセカンダリ取引に慣れていないケースも散見されます。したがって、そもそも投資手法の基準としてセカンダリ取得が可能であるか、また積極的に取得を望むか等のヒアリングは事前に必要となります。
そのうえで、プライマリラウンドの際には新規で迎い入れる投資家内で調整すれば良く、そこで合わせて承認を取る形で良いと思いますが、仮にラウンド外でのトレード等になると、一層誰に渡すかという議論に焦点が当たります。売り手の観点だけにおいては、最終的に割引率の一番低い買い手がベスト、となりますが、他方で残された発行体、他既存株主からすればトレード先が自社の成長に資する投資家なのか、利益相反はないか、また元々は安定株主だったのが短期売買の投資家になっていないか、等の観点が考慮され、ここに不都合がある場合、そもそも譲渡制限のある株式の取引承認が得られないというリスクが発現してしまいます。また、典型的なセカンダリ専業ファンドを活用すると、ディスカウント幅が大きくなりすぎることや、戦略的買い手がいないことのアナウンスメント効果にも繋がりかねないため、慎重に考えたほうが良いと思います。ただし以下に整理する通り、セカンダリファンドの実行スピードと慣れ具合は確かなので、時間的猶予がない場合には優先的に検討するべき相手とも考えられます。
基本的な考え方かつあくまで私個人の考えですが、あえて優先順位をつけるとすれば以下の順で割り当て先を考えることが良いかと思います。
※Case1:時間に猶予があり、自社/経営陣に買取財源がある場合
・新規ターゲット投資家 > 既存投資家 ≧ 既存経営陣=自社株買い > セカンダリファンド > 特定私募等による新規個人
※Case2:時間に猶予がなく、自社/経営陣に買取財源がある場合
・既存投資家 ≧ 既存経営陣=自社株買い > セカンダリファンド >>> 新規ターゲット投資家 > 特定私募等による新規個人 >
※Case3:時間に猶予がなく、自社/経営陣に買取財源がない場合
・既存投資家 > セカンダリファンド > 新規ターゲット投資家 > 特定私募等による新規個人 > 既存経営陣=自社株買い
③共同売却権の抑止
最後に、ややテクニカルな論点かつ契約書の条項によって対象が異なりますが、対象となるスタートアップにおいては重要なトピックである、共同売却件の抑止について説明します。
一般的にVCから資金調達を行っているスタートアップは、株主間契約を作成、締結していることが多いでしょう。その際のテンプレートの中に、共同売却権(タグアロング)が規定されることが多いと思います。
共同売却権とは、特定の株主(主に投資家)が、他の株主(主に創業者や経営陣)が保有する株式を第三者に譲渡する際、自分たちの株式も同じ条件で一緒に買い取ってもらうよう請求できる権利です。近しい規定として、共同売却請求権(ドラッグアロング権)という、ある株主(投資家など)が株式を売却する際に、他の株主に強制的に同じ条件で株式を売らせる(巻き込む)権利も付されていることが多いですが、前者は既存投資家が任意で売却に参加できる権利で、後者は強制参加という権利で利用目的も法的効力も異なります。
投資家から見た使いどころとしては、主に少数株主保護の側面と、外部投資家保護の側面が強いと思います。例えば創業者や大株主が経済的リターンを得ることを目的に不本意な投資家に株式を売却し、少数株主が取り残されるのを防ぐ目的で設定されることが一般的かと思います。
ゆえに基本的には、そのような少数株主保護の論点が浮上するようなケースでなければ特段懸念することではないのですが、サプライズがないとは限らないので注意が必要です。特に昨今においては、既存ファンドの満期到来に伴いセカンダリ機会を積極的に探しているVCも多いと思いますが、そのようなVCも好きで売るというよりかは、投資家の善管注意義務として売らねばならないという構造であり、その機会が目の前にあるのにスルーするのは義務違反になりかねない、という緊張感が本来はある構造です。
このような構造理解を踏まえ、発行体としてやるべきことは、まず平時から既存株主の保有方針、およびファンドにおいては満期日がいつで、どのような売却方法を検討しているのかをヒアリングし、データベース化しておくことが効果的であると言えます。当社も一定頻度でヒアリングを行い、全既存投資家の保有方針、期待リターン、満期、売却意向を確認し、洗替を行っています。その結果として、想定外の売却権行使にならないようにリスクヘッジを図ります。その上で、セカンダリ取引を検討する段階において取締役会等の株主と会話できる機会を通じて、セカンダリ取引の概要と応募期間を案内し、明示的にニーズを汲み取った上でディールを進めるという形にしました。結果的に予想外のディールはなく、無事に完結することができました。
※なお、なぜこの配慮が必要なのかというと、あくまで割当先となる買い手はxx億円分だけ買う、という意思決定を行っていることが多く、それが上回る場合には全てを買い切ることができず、権利行使に伴いプロラタで売却割合を調整する必要がでます。結果として、当初売却を取りまとめていた投資家が売却機会をしきれず、また新たな投資家を探してくるようなリソース費消が発生します(そして、これが仮に起きると既存投資家同士も険悪なムードになるので、発行体としては許容できるものではありません)
最後に:まとめ
まあ5,000文字くらいで収めるかと思い筆を取ったわけですが、気づいたらここまで20,000文字を越えるという圧倒的なForecastミスをしてしまいましたが、せっかく書くのであれば基礎知識というよりも、今直ぐに実用的に使えるプラクティスにしたいと思い、公開できる範囲においてなるべく具体的に書いたつもりです。少しでもご参考になりましたら幸いです。
最後に私個人としてお伝えしたいこととしては、このような厳しい市場環境下ではありますが、この環境をブレイクスルーできるのは、他でもない今そこに挑戦している我々でしかない、ということです。
私自身がスタートアップCFO、投資家の二面的な立場で市場に関わり続ける中、アーリーになればなるほど"α"が重視される一方で、レイターになればなるほど、成熟化してきた結果と、投資家が多様かつ必ずしもスタートアップ投資の専門家ではない結果として"β"に寄ってくるという体感値があります。つまり、スタートアップ市場、銘柄全体の平均がどうなのか、という目線に引っ張られるということです。ゆえにいくら自社が魅力的な取り組みをやっていても、市場全体がネガティブだったり、次なる投資家に対して不義理をしていたりすると、後続するスタートアップに対する資本コストに如実に跳ねてくるのです。我々自体もその恩恵もあれば、負債を背負うラウンドになったと強く感じます。
だからこそ、このβを打ち破り、ブレイクスルーしていけるのは、今そこに挑戦しているスタートアップであり、投資家でしかないと思います。ゆえに我々自体がさらに高みを目指し、これまで証明できていなかった経済価値を立証することは勿論のこと、少しでも我々が培った知見を還元し、読者各位の挑戦をより良いものとし、共に日本のスタートアップ市場のβを押し上げていければと考えています!
改めて、長文ではありますが読了いただき、ありがとうございました。また、個別にでも壁打ちに付き合うことも可能ですし、私のこれらの知見や経験を踏まえ、Funds Startupsが運営するベンチャーデットファンドでの投融資も積極的に行っています。資金調達の実際の相談に至るまで、気軽にご連絡ください。
