王様
昨日、ある人の詩を読んでいて、ふと思い出したことがある。記憶の彼方に消えていた、あることだ。
小学校に入学して、私は、いきなり劣等生だった。入学早々に勉強で比べられるわけもなく、生活面でなかなか決められたことに馴染めなかった。
担任の先生は、ベテランの女性教師で、毎日朝礼の後に忘れ物の検査を行う。そして、いくつ忘れたかを教室の後ろの黒板にグラフで付けていく。当然、忘れ物が多いほど、グラフは高くなっていく。
そのグラフが、私だけダントツに伸びていくのである。これが営業成績ならばどれだけ良かったかはわからない。とにかく、ブッチギリなのだ。
毎日、こう聞かれる。
あなたは何のために学校に来ていますか?
遅刻も多かった。でもあるとき、結構早く学校に着くと校門のところでばったりと先生に出会った。そして私に聞くのである。また。
あなたは何のために学校に来ていますか?
いつものように無視して通り過ぎようとすると、
ランドセルは?
おっと。肝心なものを忘れた。でも、取りに帰ると完全に、また、遅刻だ。でも当然、容赦なく取りに帰らされた。
遅刻して校門を寂しくひとりで通り抜け、ひとり教室まで廊下を歩く。扉を開けると大爆笑の渦に包み込まれた。
それまでもまずまずの人気者だったが、一気に私はランクを上げることになった。
ある日、とうとうわたしの忘れ物のグラフは、天井に到達することになった。その時、朝礼後にみんなの前で立たされて、先生から本気の訓戒を受けることになった。
いろいろ言われたようだが、あんまり頭の中に入らなかった。そして最後の言葉だけが脳味噌に入ってきた。
あなたは、忘れ物の王様です。
みんな、シーンとして聞いていたが、私には最後の言葉だけが妙に響いてきて、王様と言われたことにちょっと照れ笑いをした。
即座にゲンコツが頭頂から飛んできて、目から火が出るとか、星が回るという表現は、こういうことなんだなといつもの追体験をすることになった。
わたしのグラフは、天井をしばらく教室の前方面に這うように伸びていったが、ある日突然、教室の後ろの黒板は、みんなの作品展示場所に変身していた。
