漫画原作者のペンネームをロンダリング(洗浄) 性犯罪を軽く見る小学館の経営姿勢が問題を拡大
小学館は漫画原作者の正体を隠していた
小学館のマンガ配信アプリ「マンガワン」に連載していた『常人仮面』の原作者の性加害問題が発覚。同じアプリで配信している漫画家たちが「絶縁」を宣言し、騒動が大きくなったこと受け、小学館は2026年2月28日の夕刻、以下のような声明をホームページに掲載した。
「マンガワンにおける原作者起用について」
マンガワン編集部では、『堕天作戦』の作者である山本章一氏が児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の罪で逮捕・略式起訴され罰金刑を受けて連載を中止しました。にもかかわらず、別のペンネーム「一路一」に変更して、新連載『常人仮面』の原作者として起用しておりました。
本来は起用すべきではありませんでした。
性加害、性搾取、あらゆる人権侵害は決して許されるものではありません。
今回、『常人仮面』につきまして、原作者の起用判断および確認体制に重大な瑕疵があったため、配信を停止し、単行本の出荷を停止いたしました。
会社として管理監督責任を問われる重大な事案であり、人権・コンプライアンス意識の欠如があったと認識しております。
二度とこうしたことを繰り返さないために、弁護士を加えた調査委員会を立ち上げ、連載開始の経緯、編集者の和解協議を含む関わり方など、事実関係及び原因を迅速に解明して参ります。
その後、調査内容の報告、厳正な処分、再発防止策の策定・履行をいたします。
この度の件に関しましては、何よりもまず、被害に遭われた方を慮るべきでした。
その心情に寄り添わなかったことを心よりお詫び申し上げます。
また、『常人仮面』作画の鶴吉繪理先生、弊社各媒体でご執筆いただいている作家の皆様、ならびに関係各所の皆様には、これまでの信頼を裏切り、大変なご心配とご迷惑をおかけしていることを深くお詫び申し上げます。
そして、これまで小学館の作品をご愛読いただいた皆様にあらためてお詫び申し上げます。
2月28日の朝の報道では、小学館の広報部は「現在のところ会見の予定はない」と発言。夕方に、会社としての謝罪の見解を出すなら、「現在のところ会見の予定はない」とは言わないはずだ。「現在、小学館として対応、責任の取り方を協議しており、本日の夕刻、見解を示す予定です」などと、発表していたであろう。
全社の経営問題と捉えなかった小学館経営陣
前日の2月27日に発表したのは、マンガワンのホームページからであった。ことの重大さを認識していたら、小学館の会社全体の問題として把握し、経営者が前面に出て問題に対処していただろう。マンガワン公式サイトに掲載された声明全文は、以下の通り。
『常人仮面』配信停止に関するご説明とお詫び
『常人仮面』につきまして、原作者の起用判断および確認体制に問題があったため、配信を停止し、単行本の出荷を停止いたしました。
原作者の一路一氏は、『堕天作戦』の作者である山本章一氏と同一人物です。
2020年に、山本氏が逮捕・略式起訴され罰金刑を受けたことを踏まえ、『堕天作戦』の連載を中止いたしました。
しかしながら、2022年に、マンガワン編集部は、一路一名義の原作で新連載『常人仮面』を開始いたしました。本来であれば原作者として起用すべきではありませんでした。何よりも被害に遭われた方に対し、心よりお詫び申し上げます。編集部として責任を重く受け止めております。
本件により、読者の皆様、『常人仮面』作画の鶴吉繪理先生や寄稿いただいている作家の皆様、ならびに関係者の皆様に、多大なご心配とご迷惑をおかけしておりますことについて、深くお詫び申し上げます。
マンガワン編集部
なお、山本氏と被害に遭われた方との民事訴訟において言及された、和解協議については、編集部が組織として関与する意図はありませんでしたが、当事者双方からの求めに応じる形で編集者がメッセージアプリのグループに参加したことがありました。参加以前に既に当事者間で協議されていた条件があり、編集者は、当事者に対し、弁護士を委任して公正証書を作成してもらうよう助言をしております。当該事案の重大性に対する編集部としての認識および情報把握が十分であったとは言えず、不適切な対応でした。
あらためてお詫びするとともに、再発防止に取り組んで参ります。
この文面で印象に残るのが「原作者の起用判断および確認体制に問題があったため、配信を停止し、単行本の出荷を停止いたしました」という部分。起用の何が問題であったのか、原作者のペンネームを変え、『堕天作戦』の打ち切りから2カ月後、新たに『常人仮面』の連載を始めたことなどには、全く触れていない。
性犯罪問題への対応をありのまま伝えていない
「2020年に、山本氏が逮捕・略式起訴され罰金刑を受けたことを踏まえ、『堕天作戦』の連載を中止いたしました」という文章にも大きなトリックがある。これを読むと、2020年に連載を中止したと、読者は受け止めるだろう。
しかし、連載を中止したのは2022年。テレビ朝日系ニュースなどの報道によると、「被害女性による民事訴訟の約3カ月後に中止された」となっている。
『堕天作戦』を打ち切ったときの小学館の対応は、「堕天作戦 公式X」からの発信だけで済ませている。以下がその説明である。
この度は一身上の都合により、マンガワン・裏サンデー上での掲載を終了することとなりました。
現在も継続中の私的なトラブルによるもので、健康面での問題や編集部との関係によるものではございません。
私立高校の教師であった漫画家は、自分が教師をしていた学校の女子高生に性的暴行を加えたとして逮捕され、2020年2月に児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で罰金30万円の略式命令を受けている。
原作者側と被害女性側は和解協議を進めていたが、原作者側からの「示談金150万円を支払う」「連載再開中止要求を撤回する」「性加害について口外を禁止する」という提案に、被害女性側は納得せず、2022年7月に損害賠償を求める民事訴訟を札幌地裁に起こした。
小学館が『堕天作戦』の掲載を中止したのは、被害女性が民事訴訟を起こした3カ月後の2022年10月。そして、その2カ月後に原作者のペンネームをロンダリング(洗浄)して『常人仮面』をスタートさせている。
元教員に1100万円の支払いを命じる
被害女性は高校1年生の時から、当時教員だった男性(漫画原作者)から性被害を受け、その後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症。進学した大学に通うことができず、除籍となっている。
元教員(漫画原作者)側は、完全な同意があったと主張してきたが、2026年2月20日、札幌地裁は元教員に1100万円の支払いを命じている。
この裁判によって、元教員が小学館の『常人仮面』の原作者ではないかとネットで騒がれ、小学館はようやく『常人仮面』の原作者の一路一と、『堕天作戦』の作者である山本章一が同一人物と認めたのだ。
学校の教師が生徒などに性犯罪を犯して退職などの処分を受けた後、名前を変え、他の都道府県でこっそり教師として採用され、物議を呼んでいるが、教師の正体隠し、身元の隠蔽と同様の問題に、小学館は手を貸していたことになる。
「二度とこうしたことを繰り返さないために、弁護士を加えた調査委員会を立ち上げ、連載開始の経緯、編集者の和解協議を含む関わり方など、事実関係及び原因を迅速に解明して参ります」とホームページに決意を掲載しているが、第三者委員会の設置とは謳っていない。
私は、宝塚歌劇団の劇団員の死亡問題で、宝塚歌劇団、親会社の阪急阪神ホールディングスの対応を問題視してきた。阪急阪神ホールディングス側は大江橋法律事務所(大阪市北区)に依頼し、9人の弁護士が関わって調査報告書(本文22ページ、別紙14ページ)を提出したが、素人が見てもツッコミどころ満載のズサンな報告書だった。
亡くなった劇団員側の川人博弁護士(川人法律事務所、東京都文京区)によって問題点を指摘され、それにも反論を繰り返していたが、ことごとく論破され、全面的に謝罪することに追い込まれた。小学館は、このようなミスを繰り返してはいけない。
「PRESIDENT Online(プレジデント オンライン)」
なぜ宝塚歌劇団は「いじめ疑惑」に正面から向き合わないのか…阪急阪神HDに共通する「冷徹さ」という大問題
調査報告書もトップの減給処分も違和感だらけ
「note」
宝塚歌劇団の調査報告書と、阪急阪神HDのトップらの減給処分に疑問
セクハラ事件を起こした通信社の社長は辞任へ
これまで企業や官公庁、議会などで数々のセクハラ事件、パワハラ事件が繰り返されているが、セクハラ、性被害が起きたときに、経営者やトップがどのように対応するかで、結末は大きく変わってくる。
共同通信社の人事部長が、就活中の女子学生をホテルに連れ込み関係を迫った、と「週刊文春」(2013年5月23日号)が報じたが、それまで会社側はセクハラ事件を隠してきた。取材に対しても「単なるうわさでいちいち調査します? しないよねえ」などと、広報担当者がいい加減な対応をし、問題の深刻さを理解していなかった。
実際に報じられると、休職扱いにしていた人事部長を懲戒解雇処分にして、石川聡社長と伊藤修専務理事らの減給処分で幕引きを図ろうとした。セクハラ事件を明らかにして来なかったことに対し、経営側は「女性のプライバシーを最優先した結果で、隠蔽していない」と言い張り、「減給処分をもって十分な責任を果たした」と説明。
こうした対応に、社内からは「取材活動に影響が出る」「人事部長が自らの地位を利用し、就活中の女子学生をホテルに連れ込むなんて言語道断」などの声が上がり、労働組合も会社側の対応を問題視して追及。結局、社長は辞任することになった。
問題の深刻さを理解しておらず、現場の対応に任せ続けてきた小学館の経営者も、辞任を余儀なくされるのではないか。「性加害の原作者を長年に渡って隠蔽してきた出版社」の罪は重い。
