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59歳、一人暮らし最後の日|30年のひとりが、今日終わります

📦 連載『こころのたからばこ』より

今日で、私の一人暮らしが終わります。

もしかしたら晩年に、また一人で暮らす日が来るかもしれません。
それでも、30年近く続いた「ひとりの暮らし」は、いったん今日で一区切りになります。

この先は、同居する相手にとっても、心地よく安らげる家づくりをしていきたいと思っています。

だから、私が好きなフランスの田舎を思わせるような空間づくりは、いったんお休みです。

寂しくないか、と聞かれたら……やっぱり少し寂しく思います。

もう、自分だけの趣向で、自分だけのお城を作る暮らしではなくなるのですから。

30年前、実家を出た日のこと

30歳で実家を離れたとき、こんなに長くひとりで生きるとは思っていませんでした。

仕事の責任も、家賃も、税金も、病気になったときの不安も、すべて自分ひとりで抱えてきました。

頼れる人がいない暮らしは、決して楽ではありませんでした。最初の10年ほどは、毎晩のように泣いていた時期もあります。多分、表に見えないだけで、一般的な女性よりも、私は多くのものを背負ってきたのだと思います。けれど、その苦労の日々が、実家暮らしで世間知らずだった甘えん坊の次女を、少しずつ自分の足で歩ける大人へ育ててくれたのは確かです。

20年を過ぎた頃、転職を機にこの分譲賃貸マンションへ引っ越しました。家具を少しずつ買い替え、大好きなフランスの田舎を思わせる空間に整えていきました。

50代になり、自分の人生は終盤に向かっていると感じるようになりました。だからこそ、自分で稼いだお金で可能な範囲で折り合いをつけながら、自分が心地よいと思える暮らしを、この部屋の中につくっていったのです。

だから「もう会社にはいきたくない、働けない」と思った日も、この部屋は何も言わずに迎えてくれました。

それでも、そのたびにこの部屋へ帰ってきました。ドアを閉めると、ようやく息ができる。ここだけは、誰にも乱されない私だけの場所でした。

この部屋は、私が人生を立て直した場所

大手企業への転職をきっかけに引っ越してきたこの部屋で、老後のことを初めて真剣に考えました。

特別なことはしていません。毎月少しずつ、貯蓄と投資を続けただけです。それがいつの間にか積み上がっていたことに気づいたとき、振り返ると、この部屋は私が人生を立て直した場所でした。

あの頃は、セミリタイアなんて考えていませんでした。ただ、老後に後悔したくなかっただけです。

今日、この部屋を出ます

長く交際してきたパートナーと、これからは一緒に暮らします。

あれほど結婚願望があった私が、50代過ぎると拘らなくなりました。歩んだ時間が異なるので、相手に自分を押し付ける事もしなくなりました。だからまだ当面は籍を入れません。それでも、人生の喜びも苦労も分かち合っていくことを、ふたりで決めました。

結婚という形を選ばなかった理由は、いくつかあります。でも一番大きいのは、30年間ひとりで生きてきた私が、今さら誰かに「妻」という形で属す意味はないのかもしれません。

対等に、自由に、それでいてそばにいる。そういう関係を、選びました。

「一人でも生きていける」から、「誰かと生きる」へ

この部屋で過ごした日々は、私に「一人でも生きていける」という確信をくれました。

その確信があるから、今度は「誰かと生きる」ことを、少し楽しみにしています。

怖くない、というと嘘になります。でも、恐れより楽しみの方が、少しだけ大きい。また誰かと暮らす日が来るなんて、30年前の私は想像もしていませんでした。

それだけで、今日のドアを閉めることができます。


30年のひとり暮らしは、私に「一人でも生きていける力」と「老後への備え」の両方を残してくれました。次回は、その30年間で学んだ「お金との付き合い方」を書いてみようと思います。



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著者プロフィール:ミレーヌ


東京在住。独身。大企業勤務を経て、58歳で早期退職。
非日常よりも、日常の豊かさを愛するエッセイスト。 50代で人生を立て直し、50代からの自分らしい暮らしと、過去の挫折を希望に変える「大人の日常」について綴っています。

――価値観やノウハウを押し付けるのではなく、感じ、考える時間をそっと手渡す文章を大切にしています。

媚びない、流されない。でも、誰かの心に静かに寄り添いたい。
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