1ドル=164円の衝撃 ~40年ぶりの円安が私たちの生活をどう変えるか~
はじめに
2026年7月24日(執筆時点)、ドル円相場は1ドル=164円目前まで円安が進んでいます。
これは1986年以来、約40年ぶりの円安水準です。
「円安」と聞くと、海外旅行や輸入品が高くなるイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、今回の円安は、ガソリン代や電気代、食料品など、私たちの生活全体に影響する問題です。
なぜ、ここまで円の価値が下がっているのでしょうか。
今回は、円安の仕組みから主な原因、暮らしへの影響、今後の見通しまで、分かりやすく解説します。
そもそも「1ドル=164円」とは?

為替レートとは、異なる国の通貨を交換するときの比率です。
1ドル=100円であれば、1ドルを手に入れるために100円が必要です。
一方、1ドル=164円になると、同じ1ドルを手に入れるために164円を支払わなければなりません。
つまり、数字が大きくなるほど、ドルに対する円の価値が下がっていることになります。これが円安です。
例えば、アメリカで100ドルの商品を購入する場合、1ドル=100円なら1万円です。しかし、1ドル=164円では1万6400円になります。
商品の価格が変わっていなくても、円安によって日本円での負担が大きくなるのです。
なぜ円安が進んでいるのか
今回の円安は、ひとつの理由だけで起きているわけではありません。
米国の金利、中東情勢、原油価格、日本の金融政策や財政への不安など、複数の要因が重なっています。
①米国の金利が高く、ドルが買われている

大きな理由のひとつが、日本と米国の金利差です。
一般的に、投資家は金利の低い通貨よりも、金利の高い通貨で資産を運用しようとします。
日本銀行は2026年6月に政策金利を1.0%へ引き上げました。しかし、米国の金利は依然として高く、日本との間には大きな差があります。
そのため、円を売ってドルを買う動きが続いています。
さらに、米国では物価上昇が続く可能性があり、利上げが長引くとの見方もあります。米国の金利が高い状態が続けば、ドルで資産を持つ魅力が高まり、円安が進みやすくなります。
②中東情勢の緊迫でドルが買われている

米国とイランの衝突が再び激しくなっていることも、ドル高の要因です。
世界で紛争や金融不安が起きると、投資家は比較的安全と考えられている資産へ資金を移す傾向があります。
これを「有事の買い」と呼びます。
以前は、円も安全な通貨として買われることがありました。しかし現在は、日本の低金利や経済への不安もあり、円よりもドルが選ばれやすくなっています。
中東情勢の悪化によってドルが買われ、円が売られることで、さらに円安が進んでいます。
③原油高が日本に大きな負担となる

中東情勢の悪化は、原油価格にも影響しています。
原油価格が上昇すると、日本経済には大きな負担となります。
日本は、原油や天然ガスなどのエネルギー資源の多くを海外から輸入しています。
原油価格が上がるだけでも輸入費用は増えます。さらに円安が進めば、同じ量の原油を買うために、より多くの円が必要になります。
つまり日本は、「原油高」と「円安」の二重の負担を受けているのです。
輸入代金が増えれば、日本の貿易赤字も拡大しやすくなります。企業が輸入代金を支払うために円を売り、ドルを買うことも、円安を進める原因になります。
④日本の財政への不安も円売りにつながる

市場では、日本の財政に対する不安も高まっています。
高市政権は、経済対策や成長投資など、積極的に財政支出を行う「骨太の方針」を示しています。
政府がお金を使うことで、景気を支える効果は期待できます。
一方で、財源が十分に示されないまま支出が増えれば、国の借金がさらに膨らむ可能性があります。
そのため市場では、「日本の財政は将来的に大丈夫なのか」「円や日本国債を安心して持ち続けられるのか」という警戒感も出ています。
一部では、積極財政が円安を招いているとして、「高市円安」という言葉も使われています。
ただし、現在の円安は政権の政策だけが原因ではありません。米国の金利や中東情勢、原油価格など、海外の要因も強く影響しています。
円安で私たちの生活はどう変わる?
円安の影響を受けやすいのは、海外から輸入している商品です。
代表的なものには、ガソリンや灯油、電気やガス、小麦、大豆、食用油、肉類、乳製品、スマートフォン、衣料品などがあります。
原材料やエネルギーの価格が上がれば、企業の仕入れ費用も増えます。
企業は増えた費用を吸収できなくなると、商品やサービスの価格を引き上げます。
そのため、円安が進むと、スーパーの商品や外食費、電気代、ガソリン代などが上がり、家計の負担が増えていきます。

特に影響が大きいのが中小企業です。
仕入れ価格が上がっても、販売価格を簡単に引き上げられない企業は少なくありません。利益が減れば、賃上げや設備投資にも影響する可能性があります。
円安には良い面もある
円安は、すべての企業にとって悪いわけではありません。

海外で多くの商品を販売している輸出企業は、円安によって利益が増えることがあります。
例えば、海外で得た100万ドルの利益を日本円に換算する場合、1ドル=100円なら1億円ですが、1ドル=164円なら1億6400万円になります。
同じドル建ての利益でも、円に換算した金額が増えるのです。
また、海外から日本を訪れる旅行者にとっては、日本の商品や宿泊費が安く感じられます。
そのため、ホテル、百貨店、飲食店、観光施設などには追い風となります。
ただし、輸出企業であっても、原材料を海外から輸入している場合はコストが上がります。
現在の円安は、単純に「輸出企業なら得をする」と言い切れる状況ではありません。
政府の為替介入で円安は止まる?
円安が急速に進むと、政府は「為替介入」を行うことがあります。
円安を抑える場合、政府がドルを売り、市場で円を買います。大量の円が買われることで、一時的に円高方向へ動かす方法です。
政府はこれまでにも大規模な為替介入を行っています。
しかし、介入によって円高になっても、その効果は長続きしないことがあります。
日米の金利差や原油高など、円安の根本的な原因が変わらなければ、再び円が売られるためです。
そのため、為替介入は円安の流れを一時的に止めることはできても、根本的な解決にはなりにくいと考えられています。
日銀が利上げすれば円安は止まる?
円安を抑える方法のひとつが、日本の金利を引き上げることです。
日本の金利が上がれば、円で資産を持つ魅力が高まり、円が買われやすくなります。
ただし、急激な利上げには副作用があります。
住宅ローンの金利が上がれば、家計の返済負担が増えます。企業の借入金利も上昇するため、設備投資や新規事業を控える企業が増える可能性もあります。
さらに、金利が上がれば、国が国債の利息として支払う費用も増えます。
そのため、日本銀行は円安を抑えながら、景気を悪化させないよう、慎重に利上げを進める必要があります。
今後は165円、177円、200円まで進む可能性も

チャート的に見ると、短期的には1986年11月の高値圏である164円台(オレンジの水平ライン)が抵抗線となっており、介入警戒も背景に一旦円高方向に調整する可能性があります。
しかしながら、2022年に1986年から続いていた長期下降チャネル(青チャネル)を上抜けて以降、円安の勢いが一気に加速しています。これは、35年間にわたる長期の円高基調から、明確にトレンドが転換したことを示す非常に重要な動きです。
これだけ長い期間の蓄積フェーズを経た上でのブレイクアウトであるため、チャート的には今後165円を突破した後も勢いが続きやすいと言えます。次の抵抗線である177円(紫の水平ライン)、さらには199円(黒の水平ライン)まで進んでも、テクニカル的には全く不思議ではありません。
ファンダメンタル的に特に重要なのは、米国の金利、日銀の追加利上げ、中東情勢、原油価格、政府の為替介入です。
米国の金利上昇や原油高が続けば、さらに円安が進む可能性があります。
一方で、中東情勢が落ち着き、原油価格が下がったり、日銀が追加利上げに動いたりすれば、円高方向へ戻る可能性もあります。
ただし、為替相場はひとつの材料だけでは動きません。
「政府が介入すればすぐに円高になる」「日銀が利上げすれば円安が終わる」と単純に考えることはできないのです。
円安を一時的な問題だと思わないこと
今回の円安は、投資家だけに関係する話ではありません。
円の価値が下がれば、海外から輸入するエネルギーや食料品が高くなり、私たちの生活費も上がります。
一方で、輸出企業や観光業など、円安によって恩恵を受ける業種もあります。
大切なのは、「円安は良い」「円安は悪い」と単純に判断するのではなく、誰に、どのような影響があるのかを見ることです。
今回の円安は、日米の金利差だけでなく、エネルギーの輸入依存、日本の財政や成長力への評価など、構造的な問題とも関係しています。
為替介入だけで円安を止め続けることには限界があります。
物価と賃金のバランスを整え、企業が成長し、海外から日本へ資金が集まる経済をつくれるかどうか。
1ドル=164円という歴史的な円安は、日本経済の現在地を考えるきっかけになっているのです。
※本記事は2026年7月24日時点の情報をもとに作成しています。為替相場や原油価格は日々変動します。また、特定の金融商品の購入や売却を推奨するものではありません。
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