【ニュース起点の知財情報分析】AI半導体エヌビディア1強は今後変わるのか、AI半導体関連技術者の流動を特許情報から見た
▶この記事のポイント(AI要約)
1.AI半導体を巡る競争が熾烈化しており、それに伴って技術者の流動が起きているのでは、という仮説を特許情報から見に行っている
2.USのAI半導体関連技術は、2010年代後半から特許出願が急増しており、関連プレイヤーはエヌビディアに限らずIBM、マイクロソフト、インテル、アルファベット(Google)、アマゾンなど広く分布している
3.2021〜25年の発明者流動を見ると、エヌビディアは相対的に流動が少ない一方、ファーウェイやアルファベット(Google)、バイドゥなどでは流入が目立ち、IBMでは流出超過が確認された
近年のAIの発展は目覚ましいですが、そのAIが行う膨大な演算や処理を高速かつ省電力で行うためには、それに特化させた高性能チップ、いわゆるAI半導体の存在が不可欠です。そして先日、そのAI半導体最大手のエヌビディアが、中国市場向けの半導体生産を停止したと報じられました。
一方で、中国側では、装置まで含めた自立の動きとして、中国の主要半導体企業の幹部らが、2026~30年に実用的な露光装置を開発するために、国家主導の協調的な取り組みが必要と訴えたニュースが出ています。
また、米国内では、エヌビディアの対抗として、マイクロソフトが次世代AI半導体やソフトを発表したり、それ以外にも、「エヌビディア1強」の状態に「風穴」を開けようとする動きが活発化している模様です。
【図解解説】AI半導体1兆ドル市場争奪戦!「エヌビディア1強」打破にグーグル・アマゾン・MS・オープンAIが虎視眈々、ソフトバンクGが握るカギとは!?
このように、一見、エヌビディアが覇権を握っていると思われるAI半導体の業界ですが、これらの状況を見ると、各社の思惑や地政学的影響などから、AI半導体関連技術の開発者たちは、意外に人材流動が活発なのではないかと感じました。
そこで、USのAI半導体関連技術の特許情報を見てみることにしました。
データを見てみると、2010年代後半から特許出願数が急増し、今なおその勢いが堅持されていることが分かります。なお、特許出願のデータは、直近1年半は原則未公開のため、2024~25年は、見かけ上減少しているように見えています。

プレイヤーを見ると、AI半導体最大手のエヌビディアは13位と、必ずしも出願件数は多いわけではないことが分かります。特許情報の性質として、AI半導体の情報を集めても、AI半導体そのものを作る企業と、AI半導体を使った開発をする企業の情報が混ざって出てきますので、この情報は、そういった関連技術全体のプレイヤーというイメージが正確かと思います。また、一部金融機関の名前がありますが、これはおそらく知財担保として権利保有者となっているものと思われます。

そして、この情報をもとに、各社の特許出願における近年の発明者の流動状況を、自作ソフトにより分析しました。つまり、特許出願には発明者の情報がありますが、同一人物が他社において出願をしていた場合を転職した(流動した)と判断しています。同姓同名のケースもあるため、完全に正しい数値とは言い切れないのですが、英語圏特有のミドルネームの処理や共同出願における所属の判断ロジックなどを加えており、可能な限り正しく出るようにしているため、概ねの傾向は出ていると思います。
下図の濃い青の企業は2021~25年の出願件数TOP30(前出のランキングは全期間のため必ずしも一致しない)で、矢印の方向は、流出と流入を差し引いて多い方に向いており、その差し引きの人数が図示されています。
これを見ると、IBM、マイクロソフト、インテルなどが、多くの線が入っており、これらの企業が人材の集積地であり供給源のように見えます。

特にエヌビディアに注目してみると、2名ではありますが、MELLANOX TECHNOLOGIESへの移動があります(緑の矢印が流入、赤の矢印が流出)。確認したところ、同社は2020年にエヌビディアが買収した高性能インターコネクト技術を持つ企業であり、グループ間の連携と考えれば流動とは言い切れない内容とも言えます。このように、エヌビディアは比較的流動が少ない企業の印象を受けました。

一方で、この近年での出願上位30社を対象にすると、流入が多い企業としてはファーウェイ、アルファベット(Google)などがあり、流出が多い企業としてはIBMが確認されました。

ファーウェイやアルファベット(Google)、バイドゥなどに関しては、AI半導体の開発が加速している報道が出ており、これらの開発の裏には、様々な企業からの人材獲得戦略も存在しているのかもしれません。
ファーウェイ、AI半導体でNVIDIA対抗 中国内に独自供給網
(バイドゥの記述もあり)
例えば、ファーウェイの具体的な流動を見てみると、実に様々な企業から流入してきている状況が窺えます(緑の矢印が流入、赤の矢印が流出)。

また、今回流出が多く確認された企業についてですが、転職者が多いからと言って必ずしも即ネガティブであると考えるのは早計であると思います。例えばIBMについても、下図のように、流出は多いものの、流入もある(緑の矢印が流入、赤の矢印が流出)のであって、捉え方によっては風通しのよい好循環を生む素地があると言えるかもしれません。IBMから流出の最多はTSMC(4人)でしたが、これなどは、研究・設計・実装に近い人が、製造の中核へと移ったのかもしれないなど、様々な個人の物語を想起させます。

特許情報を見ることで、AI半導体関連の技術者流動の現実の一端を感じることができたかと思います。これから、AI半導体技術の勢力図はどのように変わっていくのでしょうか。そしてその技術の裏には、多くの技術者たちの活躍があるのだろうと想像します。このような動向を、これからもウォッチしていきたいと思います。
【今回使用した特許情報の検索式】
S001 IPC:G06F9/?
S002 CPC:G06F9/?+G06F2009/?
S003 文章系組合せ(英語):""artificial intelligence""//[@発明の名称+要約+請求の範囲]
S004 文章系組合せ(英語):[machine,reinforcement,deep*learning]W0//[@発明の名称+要約+請求の範囲]
S005 文章系組合せ(英語):[AI,""artificial intelligence""*chip?]W0//[@発明の名称+要約+請求の範囲]
S006 文章系組合せ(英語):[machine,reinforcement,deep*learning*chip?]W0//[@発明の名称+要約+請求の範囲]
S007 論理式:(S001+S002)*(S003+S004)+S005+S006

