♯077【資格取得試験】資格取得しても生活の糧にしていない人は多いような気がする
朝7時33分。ボロアパートからほど遠く離れた場所に、大学がある。夏太りにならないために、ここまでジョギングをしてきた。足はガクガクし、左腕の内側がけいれんしている。そんな朦朧とした意識のなか、人の気配がほとんど消えた夏休みに入ったキャンパスを覗くと、酷暑の熱気だけが支配者のように居座っているように見える。かげろうか。
まず目に入るのは、創立以来ずっとここに立ち続けてきたであろう木々の影。幹は太く、表面は深い溝のようにひび割れ、長い年月の重みをそのまま刻んだ質感をしている。サクラ、イチョウ、ケヤキ、クスノキなど枝ぶりは見事だ。その枝ぶりの奥からセミの声が湧き上がっている。
「ジジィ~、ジジジジー」
「ミーン……ミンミンミ~」
「ワシャワシャワシャシャ…」
アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミの大合唱は、とても近くに聞こえる。耳鳴りか?とうとう、熱中症で自分の耳がおかしくなったのでは?倒れるのか?と非常に不安になる。左右の人差し指を右耳と左耳に差し込み、耳に異常がないことを確認し、やっと落ち着いてくる。
左右の人差し指を右耳と左耳に何度も何度も抜き差しするアホなことを繰り返していると、キャンパスの奥から大きな白い看板が正門に近づいてくるのに気づく。看板を見ると、「建築士試験(学科)」が開催されるらしい。怪しい人物と間違えられてはいけないので、ゆっくり早く走り出す。
そういえば、過去、超難関の国家資格を持っていて、その資格を活かせないのか活かせなかったはわからないが、まったく別の職業に就いていた人ばかり10人以上も出会っていたことおもい出す。指折り数えると、弁護士、司法書士、社会保険労務士、看護師、建築士、建築施工管理技士、電気工事施工管理技士、管理栄養士という資格もあった。
弁護士、司法書士、社会保険労務士資格保持者で共通していたのは、「生活が成り立たなかった」であった。さぞかし良い生活ができているだろうと思っていたら、実態は違っていた。所属できる法人数は、意外と限られていて正職員として採用されず、コンビニアルバイトをして採用エントリーシートを送り続けるしかなかったそうだ。
実務に携われない生活を2年ほど続けた結果、資格とは関係ない食品工場の正社員や倉庫業の正社員になったそうだ。ご本人たち曰く「資格名を聞くのも、口に出すのも嫌だ。逆襲してやる」と言っていた。人の恨みは怖い。
印象的だったのは、看護師資格を持った人だった。母親がケガをして基幹病院を退職して介護をしなくてはならない状態だったそうだ。2年後、母親は根治して、本人は看護師として新しい病院に再就職したのはよかったものの、2年間のブランクを取り戻せず退職し、小さなクリニックの医療事務に転職したそうだ。
「採血の針を刺す感覚が戻らず、変なところを指してしまうのではないかという恐怖感でダメだった」と言っていた。医療の世界は難しさを想像するしかないけれども、” 採血だけを避ける ”ことはできなかったのかもしれない。採血を受ける立場からすると、シッパイは困る。仕方ないのか。
喫茶店の店主は、店内に” 司法書士 ”と” 行政書士 ”の免状を飾り「昔々は、アタマ良かったのだよぉ。閲覧料として、もう一杯コーヒーを飲んでくれ、ガハハ~」と営業トークとして使っている。とある美容師の人は、「気象予報士を取ったけどさ、就職先は大都会だもん。2時間30分の通勤なんて、耐えられないよ。家賃補助? 全額もらってもダメダメ。」とハサミを軽やかに扱いながら言っている。生活信条が合わなければ、何事もダメか。
資格取得しても生活の糧にしていない人は多いような気がする。本気で調べたら、かなりの人数が隠れているかもしれない。すくい上げて、適材適所をすることができたら、低迷する日本経済復活の起爆剤になるかもしれない。
