母の死のあとに出会った『誕生』
人との出会いには、不思議なタイミングがある。
もっと早く出会いたかったと思うこともあれば、今だからこそ出会えたのだと思うこともある。
私にとって中島みゆきさんの『誕生』は、まさにそんな歌だった。
きっかけは母の死である。
母を亡くした後、私はどこか心に穴が空いたような日々を過ごしていた。
悲しいのはもちろんだが、それだけではない。
今まで当たり前にそこにいた人がいなくなるという現実をなかなか受け入れることができなかった。
時間は流れているのに、自分だけが立ち止まっているような感覚だった。
そんなある日、たまたま耳にしたのが中島みゆきの『誕生』だった。
それまで私は、中島みゆきさんの歌をじっくり聴いたことがなかった。
名前は知っている。
有名な歌手だということも知っている。
しかし、その歌詞の世界に触れたことはなかった。
だからこそ、『誕生』との出会いは衝撃だった。
「生まれてくれて Welcome」
その言葉を聴いた瞬間、胸を打たれた。
たった一言なのに、なぜこんなにも深いのだろう。
人は生きていると、自分の価値を見失うことがある。失敗したり、傷ついたり、誰かと比べたり。
そして大切な人を失った時には、自分自身まで空っぽになったような気持ちになることもある。
そんな時にこの歌は、「あなたは生まれてきただけで歓迎される存在なんだ」と語りかけてくれる。
私はその言葉に救われた。
何かを成し遂げたから価値があるのではない。
誰かに認められたから価値があるのでもない。
ただ生まれてきたこと、そのこと自体を祝福してくれる。
そんな歌に出会ったことがなかった。
そして私は、一瞬で中島みゆきさんのファンになった。
歌声も素晴らしい。
表現力も圧倒的だ。
けれど何よりも心をつかまれたのは歌詞だった。
人の心の奥にある言葉にならない感情を、なぜこんなにも正確に言葉にできるのだろう。
気がつけば、他の曲も聴くようになっていた。
『誕生』を聴いていると、もう一つ思い出す場面がある。
それは自分の子供が生まれた日のことだ。
初めて我が子を抱いた時のことは、今でも忘れられない。
無事に生まれてくれた安堵。
新しい命を迎えた喜び。
親になった責任。
さまざまな感情が入り混じっていた。
けれど今振り返ると、その時の気持ちはとてもシンプルだったように思う。
「生まれてきてくれてありがとう」
ただ、それだけだった。
何ができる子になるのか。
どんな人生を歩むのか。
そんなことは考えていなかった。
ただ目の前にいる小さな命が、生まれてきてくれたことがうれしかった。
『誕生』の「Welcome」という言葉を聴くたびに、あの日の気持ちがよみがえる。
そして同時に思う。
私が子供の誕生を喜んだように、母もまた私の誕生を喜んでくれたのだろうと。
子供の頃には考えたこともなかった。
当たり前すぎて気づかなかった。
けれど親になり、そして母を見送った今だからこそ分かることがある。
命は受け継がれていく。
誰かに迎えられ、誰かを迎えながら生きていく。
『誕生』は、そんな当たり前で、そしてかけがえのないことを思い出させてくれる歌だ。
もっと若い頃に出会っていたらどうだっただろう。
そんなことを考える時もある。
けれど、母の死を経験し、自分が親になった今だからこそ、この歌の意味が深く心に響くのかもしれない。
遅すぎた出会いだったかもしれない。
それでも出会えたことに感謝している。
母を見送り、自分の人生を振り返るようになった時に、この歌に出会えたことを…。
そして、生まれてきたことの意味を改めて考えさせてくれたことを…。
『誕生』は、私にとって単なる一曲ではない。
人生のある時期にそっと寄り添い、大切なことを思い出させてくれた歌である。
これからもきっと、人生の節目ごとに聴き返すのだと思う。
そしてそのたびに、「生まれてくれて Welcome」という言葉を、あらためて心に刻むのだろう。
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