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ママチャリで行けるとこまで行ってみた       episode 0


春は自転車に乗りたくなる季節。
アウトドアとしても自転車はハードルが低い。
テレビで見ていても楽しそうだ。
これなら私にもできるだろう。
ポカポカっぽい陽気に誘われて、ママチャリで散歩に出かけてみた。


先にクライマックスでどうする

「ううぅ~。さ、寒いぃぃぃーっ!」
春まだ浅い3月初旬の寒い朝。
私とY子で自転車のブレーキをキイキイいわせて坂道を下る。

 数日前、自転車散歩を思いついた時、私たちの乗る二台の自転車に久しぶりにさわってみた。
十数年間風雨にさらされた自転車たちはサビサビのガビガビになっており、見るも無残なありさまだった。
「悪かった…。長い間ほったらかしにしてすまなかった」
あまりにかわいそうなその姿に反省と懺悔をしながら、分解し、ていねいにサビを落とし、きれいに磨きあげるなんてことをするハズもなく、自転車屋さんに全面的丸投げ修理を依頼した。
自分で分解なんてしたら、二度と組み立てられない。
部品の交換や修理を、必要最低限してもらった。

「このチェーンなんか、いつ切れてもおかし
 くないですよ」

バカ言うでない。
チェーンだぞ鉄だぞ。
切れるかそんなもん、
とか言いながら出発した。 

「人生最高のランチを一緒に食べよう」だの、「費用は全面的に私が持つ」だの、なんだかんだと口説いて連れ出したY子が後ろを走る。
 Y子が乗る自転車は、娘が小学校三年生の時に、ホームセンターで買った子供用マウンテンバイク。
サドルとハンドルをめいっぱいあげて、エセ大人仕様とした。
2台とも変速機を、なんとか一部を使えるように調整してもらった。
まあ海沿いの道なので、坂もないだろう

「ひゅ~!」「ひゃぁー!」

明石海峡大橋を眺めながら舞子の浜を走る。
潮風が気持ちいい。
晴れた空、淡路島へ延びる道。
つり橋の曲線が美しい。
「うわーっ」と気分が高鳴る。
しかしこのような風景は旅のクライマックスに、そのなんというか、ばあーっと見えて「うわーっ」となるものではないのか。
こんなに早くクライマックスで、このあとどうするのか。 

 今日はカフェでモーニングを食べたい。
舞子の浜を過ぎた所にカフェがあった。
店内には海を眺めてくつろぐカップルがいたり、一心にパソコンに向かっている人がいたり、商談のようなことをしている人たちなど、土曜日の早朝というのに結構なお客さんがいる。      

小さい子供がいないこともあり、コーヒーの香り漂う大人の空間として、静かな時間が流れている。
思えば私たちの子供も大きくなり、こういう空間にいても落ち着いていられる年齢になってきたなと思うとともに、私たちもそれだけ年をとったのだなと思う。

 カフェでゆったりと時間を過ごし自転車にまたがる。
大人の時間は終わり。
自転車を漕ぐ時は少年だ。
しかしまあ本日は明石大橋とカフェでほぼ満足した。
ここからは走れば走るだけ儲かる一方だ。 

 明石から淡路島に渡る播但汽船の乗り場を過ぎた。
車の往来を避けて海沿いのわき道に入る。
なんでもかんでも最短距離を走るのはシロートであり、実はこういう寄り道こそお散歩の醍醐味であり、旅でしか出会えない人や風景が待っている、はずだ。
なぜならテレビでよく観るから。
結果、ごっつい遠回りしたわりには、特になんてこともなくもとの場所に戻ってきたりして、えらい損であった。
やっぱり最短距離がいいのかもしれない。

林崎漁港。
フラフラと走っていると前からリュックを背負ったおじさんがフラフラ歩いてきた。
旅でこそ出会う人が待っている予定だったのに、歩いてきたのは知ってるおっさん。
昔の職場の先輩だった。

「わしも今から行けるとこまで歩いて、電車
 で帰ってくるつもりやねん。
 目標!東垂水!」

私たちは西へ、おじさんは東へ。
それぞれの今日が出会い、すれ違う。

 久しぶりの自転車でおケツが痛い。
しかし若い頃は自転車通勤往復二時間の私。おケツは自転車仕様になっている。はず。
そんなにひどくならないだろう。

「おケツいかがですかぁ?」

Y子に聞くと「今のところなんともない」という。
シロートは、これから痛くなってくるのだ。
気の毒かつ楽しみである。 

播磨サイクリングロード。
快適な自転車道を走る。
快適でないのは私のおケツたった。
小さな段差でもヴっ、これがっ、相当ごっ○☆×±§÷ΩЁ!おぉ…痛たいぃー。
一方のY子。
おケツは痛くないが浜風に苦戦中だった。
確かにハンパない向かい風がず~っと吹いていて、油断するとバックしてしまいそうになっている。
しかし、こんな風がなんだというのか。
おケツが痛くて向かい風どころではない。

人生最高のランチ

「おなかがすいた、おなかがすいたーッ♪」とY子。
見つけたファミリーレストランに自転車の鍵をかけるのももどかしく、大急ぎで店内に突入し大急ぎで注文。
大急ぎで食べ始める。

「うぐうむ」「おいひー!」

おなかが空いてりゃ何でも美味い! 
私たちは、かなりの量ある定食をごくごくと平らげた。

「人生最高のランチやろ!」

空腹は最高の調味料。
私にはY子との約束を果たした感がある。

「いやぁ、おいしいけどまだまだ人生最高
 とまではいかんな」
「いやいやそれでもなかなかの…」
「ごちそうさまでしたあッ!」
「だから・・・」
「まあ支払いせんでええという意味では最高
 のランチやったわ。人生最高のランチはま
 た今度おごってもらお」 

ごはんのあとは、ひたすら自転車を漕ぐ。
広い歩道に自転車レーンもあるので気楽だ。
このあたりは平野部であることからか、自転車に乗っている人が多い。
私たちもシャーっと走っているのだが、時折、横の路地から出てくるおばさんのママチャリに追いつけない。
なぜかどんどん離されて行く。
さっきなんか、必死のパッチで漕いでいる私たちを、中坊(中学生坊主)のチャリンコ軍団が、「チュウチュウ」雑談しながら抜いて行った。
なぜだ。
私たちもシャーっと走っているだろう。
なのにいろんな人のチャリンコが後ろからやってきて、私たちを追い抜い…ってって、だから、じいさん待ってくれ。 

加古川を渡る。
川岸には地味なかっこのおじさんが一人。
フナ釣りだろうか。竿を出している。
それはいかにも昭和な風景だった。

「なぁんか、寅さんの世界やなぁ」
「♪おぉれがいたんじゃおよめにゃゆけぬ、
 わかあぁちゃいるんだいもおぉとよ~」

Y子のアタマには延々エンドレスで、「男はつらいよ」のテーマ曲が流れたという。
サイクリングは単調な動きの繰り返しだからか頭の中で歌がよく流れる。
だけど寅さんってアンタ。 

山陽電鉄八家駅に、たどり着いた。
疲れた。

「もう、ここまでにしよ」

いや~よく走った。
100㎞ぐらいは走っただろうか。
子供の頃、自分の自転車を手に入れた時。
どこまでも行けると思った…。 
とか、そんな話ではなくて、自転車で走るのは気持ちいい。
しかし走ったら走っただけの距離を戻ってこないといけないのがつまらない。
おまけに私たちのおうちは、ごっつい坂の上にあり、帰りのことを考えると楽しくない。
そこが私は不満である。
だから今日は、帰りの心配はしなくていいように、ここに自転車を置いて電車で帰ろうと思う。
おお、いい考えだ。
しかしそんなことして、そのあとはどうするんだと思ったが、そのあとの事は思いつかなかったのでその時に考える。
とにかくもう今日は疲れた。

駐輪場を探す。

「ここらに無料の自転車置場って、ないです
 かねぇ?」
「この駅にはないねぇ。そこの自転車置き場
 は有料だしねぇ」
「次の白浜の宮駅は、自転車置場はあります
 か?」
「おっきいのがあったと思うケド、無料かど
 うかはわからんよ」
…泣きながら、次の駅へ走り出した。

取りに来るのが、来週とも限らない。
有料となると1日100円の駐輪場なら、たとえば2週間で‥‥‥たったの、に、2,800円。
べっ、別に、い、痛くもかゆくもないが、なんとなく無料の方がいい気がする。 

無料の駐輪場のために、ひと駅と走り出したが、もうヘトヘトだ。
二人とも疲れ果て、無口。
コンビニに飛び込んで、元気回復にと甘いスイーツ。
店員さんに訊くと、白浜の宮駅は10m先。
なんだすぐじゃなかいか。
店員さんは、地元のイントネーションで、無料駐輪場だと教えてくれた。
神戸からこのくらいの距離でも言葉って変わるのかと思った。
道向いの植え込みに腰掛けて、コンビニスイーツを食べる。

最後の気力を振り絞って10m先の白浜の宮駅に到着。
わっせわっせと自転車を駐輪場に置いて、崩れるように山陽電車に乗り込んだ。
疲れたぁ。
何やっとんねん私たち。
アホではないのか? 

もう二度と自転車なんか乗りたくない。
次の休みが来なければいい。
ずっと仕事していたい。
と、思いながらギッタンバッタンと自宅に逃げ帰った。
せめてお風呂だけはと入ったあと、布団に倒れ込んだ。

私はその夜、ぐったりと寝入っていて気付かなかったが、Y子は体中から水分がなくなったようにしおしおのぱー状態になったらしい。
水を飲みまくっても癒されず、一晩中のたうちまわったという。
バチでも当たったのかもしれない。

この日走ったのは45㎞だった。

2014年3月8日(土)

明石海峡の夕暮れ

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