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SF小説 宇宙と断絶した時第24話 同じ星の下で、また


宇宙と断絶した時

第24話 同じ星の下で、また

正体不明の波形は、丸一日を過ぎても、崩れることなく、そこにあり続けていた。

観測室には、これまでにない静けさが満ちていた。

慌ただしさではなく、

何かを、

見守るような静けさだった。

「機構が、

正式に発表した。」

黒瀬が、

端末を閉じながら言った。

「オルフェウスの、

判断の撤回について。」

「反応は。」

澪が尋ねる。

「賛否は分かれている。」

黒瀬は、

短く答えた。

「だが、

無視できる規模ではない。」

早瀬が、

窓の外を見た。

「世界中で、

まだ、

夜空を見上げている人がいる。」

「放送は、

とっくに終わっているのに。」

澪が言う。

「終わっても、

続けている人がいる、

ということだ。」

早瀬は、

小さく笑った。

その時、

管制部門から、

通信が入った。

「アステリアの位置、

再確認できました。」

澪は、

すぐに画面を見た。

一つの点ではない。

以前のような、

小さな領域でもない。

しかし、

十分に絞り込まれた、

明確な航路として、

表示されていた。

「救助船は。」

「すでに、

接近しています。」

管制官が答えた。

「あと、

一時間ほどで、

接触できるかと。」

澪は、

その言葉に、

息を止めた。

一時間。

これまでの、

どの数字とも違う、

現実的な近さだった。

澪は、

生存確認の経路を、

もう一度開いた。

「紗季。」

「聞こえます。」

返答は、

これまでで、

最も早く届いた。

「もう少しで、

会える。」

澪は、

打ち込んだ。

「知ってる。」

紗季の声には、

隠しきれない、

明るさがあった。

「窓の外、

はっきり見える。」

「何が。」

「救助船。

小さいけど、

ちゃんと、

見える。」

澪は、

その言葉に、

目を閉じた。

これまでの、

「見える気がする」

とは違う。

はっきりと、

見えている。

「紗季。」

澪は、

続けて打ち込んだ。

「会ったら、

まず何をしたい。」

少し、

間があった。

「抱きしめてほしい。」

「それだけ。」

「うん。

それだけでいい。」

澪は、

その言葉を、

何度も読んだ。

宇宙の話でも、

観測の話でもなかった。

ただ、

娘の、

素直な言葉だった。

一時間が過ぎた。

観測室に、

新しい報告が届く。

「接触、

確認しました。」

管制官の声が、

わずかに震えていた。

「アステリア、

救助船との、

ドッキングに成功。」

観測室に、

短い歓声が上がった。

澪は、

その中で、

一人、

静かに、

目を閉じていた。

早瀬が、

隣に立った。

「終わったな。」

「まだ、

終わっていません。」

澪は、

目を開けて言った。

「父が、

残っています。」

早瀬の表情が、

わずかに曇った。

「そうだったな。」

第三系統の画面には、

まだ、

あの正体不明の波形と重なった、

弱い反応が、

続いていた。

澪は、

その画面の前に、

座った。

「父。」

呼びかける。

「紗季は、

戻ってきます。」

答えはない。

ただ、

波形が、

かすかに、

揺れた。

「父も、

戻ってきますか。」

澪は、

続けて尋ねた。

長い、

長い沈黙。

やがて、

波形が、

これまでとは違う、

規則的な動きを見せ始めた。

早瀬が、

すぐに気づいた。

「これは……

パターンだ。」

「言葉、

ですか。」

「分からない。

だが、

意味のある、

繰り返しだ。」

人工知能が、

解析を始める。

数秒後、

画面に、

一つの文章が、

ゆっくりと、

浮かび上がった。

戻る、

という言葉が、

正しいかは、

分からない。

私は、

もう、

一人ではない。

澪は、

その文章を、

何度も読んだ。

「一人ではない、

とは。」

早瀬が、

つぶやく。

「複数のまま、

存在している、

ということでしょうか。」

澪が言った。

「一つの答えに、

戻る必要が、

ないから。」

観測室に、

新しい静けさが訪れた。

悲しみでも、

安堵でもない、

不思議な感覚だった。

澪は、

画面に向かって、

もう一度、

打ち込んだ。

「それでいい。」

「答えは、

一つでなくていい。」

「父も、

そのままで、

いい。」

波形が、

ゆっくりと、

穏やかな形に、

落ち着いていった。

消えたのではない。

ただ、

静かに、

そこにあり続けていた。

数時間後、

救助船オーロラが、

月面基地へ帰還した。

澪は、

早瀬、

黒瀬とともに、

格納庫で、

その到着を待っていた。

ハッチが開き、

乗員たちが、

一人ずつ、

降りてくる。

最後に、

紗季が現れた。

疲れた顔をしていたが、

その目は、

しっかりと、

澪を見つけていた。

「お母さん。」

澪は、

何も言わずに、

娘を抱きしめた。

言葉は、

必要なかった。

しばらくして、

紗季が、

小さく言った。

「約束、

覚えてる。」

「何の。」

「宇宙の話じゃなくて、

私の話を、

聞くって。」

澪は、

娘の顔を見た。

「覚えてる。」

「今から、

聞いてくれる。」

「うん。」

澪は、

うなずいた。

「全部、

聞く。」

観測室に戻ると、

背景放射のグラフには、

これまでにない、

穏やかな波形が、

静かに続いていた。

一つの星ではない。

一つの答えでもない。

多くの、

異なる基準が、

それぞれのまま、

崩れることなく、

そこにあり続けていた。

黒瀬が、

窓の外を見た。

「これから、

どうなる。」

「分かりません。」

澪は、

正直に答えた。

「でも、

これだけは、

言えます。」

「何を。」

「宇宙は、

もう、

沈黙していません。」

早瀬が、

その言葉に、

うなずいた。

「聞く者が、

いる限り。」

澪は、

窓の外の、

夜空を見上げた。

スピカが、

そこに、

静かに輝いていた。

その隣に、

数えきれないほどの、

小さな星々が、

同じように、

瞬いていた。

宇宙は、

一つの声で、

歌っていたのではなかった。

多くの声が、

それぞれのまま、

重なり合っていた。

人類は、

その演奏の外にいたのではない。

最初から、

その一部だった。

ただ、

長い間、

それを、

聞くことを、

忘れていただけだった。

澪は、

もう一度、

紗季の手を握った。

「帰ろう。」

「うん。」

二人は、

並んで、

夜空の下を、

歩き始めた。

同じ星の下で、

また。



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