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SF小説 宇宙と断絶した時第11話 三つの宇宙をつなぐ

宇宙と断絶した時

第11話 三つの宇宙をつなぐ

神谷澪は、

早瀬とともに、

海上観測都市ナギサへ戻っていた。

古い電波望遠鏡の下、

解析室の机には、

三つの観測記録が並んでいる。

地球側の観測網。

アステリアから届いた数値列。

そして、

二十年前、

父が切り離された観測区画の記録。

「三つを、

同時につなぎます。」

澪は言った。

早瀬は、

すぐには答えなかった。

「言っている意味は分かるか。」

「地球とアステリアだけをつなぐのではありません。」

「父の観測世界まで、

もう一度開く。」

「それは、

二十年前に閉じたものだ。」

早瀬の声は、

低く沈んでいた。

「閉じたのではなく、

切り離されたのです。」

「同じことだ。」

「違います。」

澪は、

スピカの観測データを開いた。

地球側の星図。

アステリア側の映像。

そして、

父の最後の記録に残っていた星図。

三つを重ねると、

わずかにずれながらも、

同じ星を指していた。

「三つとも、

まだスピカを見ています。」

澪は言う。

「完全に切れてはいません。」

「細い糸だ。」

早瀬は答えた。

「引けば、

切れるかもしれない。」

「引かなければ、

紗季は戻りません。」

早瀬は、

長い間、

古い端末の画面を見つめていた。

「神谷も、

同じことを考えていた。」

「父も。」

「「答えは一つでなくていい」

そう言い残した。

だが、

三つをつなぐとまでは、

考えていなかったはずだ。」

「父は、

一人だけを残しました。」

澪は言う。

「私は、

三つとも取り戻します。」

早瀬は、

静かに首を振った。

「取り戻すという言葉が、

もう間違っている。」

「では、

何と言えば。」

「重ねる、

だ。」

早瀬は、

机の上に三枚の紙を置いた。

一枚には、

地球の座標系。

一枚には、

アステリアから届いた数値列。

一枚には、

父の観測記録に残るパターン。

「それぞれが、

それぞれの中で正しい。」

早瀬は言う。

「一つに統一しようとすれば、

必ずどれかを切り捨てる。

オルフェウスがやったことと、

同じになる。」

澪は、

その言葉に息を止めた。

早瀬の言う通りだった。

三つを一つの正解へまとめようとすれば、

結局、

黒瀬やオルフェウスと同じ過ちを繰り返す。

「では、

どうすれば。」

「重ねるだけでいい。」

早瀬は言った。

「一致させようとするな。

ただ、

同じ星を見ていることを、

三つの側が同時に知ればいい。」

澪は、

父の言葉を思い出した。

位置を測るな。

同じ星を探せ。

答えは、

一つでなくていい。

聞いているのは、

誰だ。

四つの言葉が、

一本の線でつながった気がした。

「装置が必要です。」

澪は言った。

「観測系。

脳活動。

記憶。

三つの観測世界を、

同時に一つの場へ集める装置。」

早瀬は、

古い機器の並ぶ棚を見た。

「ここにある。

二十年間、

誰も触れなかった。」

「動きますか。」

「分からない。」

早瀬は、

正直に答えた。

「だが、

動かなければ、

紗季も、

神谷も、

戻れない。」

その時、

澪の端末が振動した。

国際宇宙観測機構からの通信。

発信者は、

黒瀬だった。

澪は、

画面を開く。

「どこにいる。」

黒瀬の声は、

硬かった。

「ナギサです。」

「早瀬と一緒か。」

「はい。」

短い沈黙があった。

「戻ってこい。」

「戻れません。」

「命令だ。」

「装置を作ります。」

澪は言った。

「地球と、

アステリアと、

もう一つの観測世界をつなぐ装置です。」

黒瀬の声が、

一段低くなった。

「もう一つとは。」

「二十年前、

父が切り離された場所です。」

長い沈黙。

「正気か。」

「正気です。」

「オルフェウスの二の舞になるぞ。

一つの現実に固定しようとすれば、

必ず何かを失う。」

「固定はしません。」

澪は言った。

「重ねるだけです。」

「違いが分かるように言え。」

「オルフェウスは、

一つの答えだけを残し、

他を消しました。

私がしようとしているのは、

違う答えを持ったまま、

同じ星を見ていることを確かめることです。」

黒瀬は、

しばらく黙っていた。

「機構は、

その計画を承認しない。」

「承認は求めていません。」

「装置を作れば、

機構の資産を無断で使うことになる。」

「早瀬の施設です。」

「正式には、

まだ機構の管理下にある。」

澪は、

早瀬を見た。

早瀬は、

小さくうなずいた。

「構わない。」

早瀬は言った。

「好きにしろと伝えてくれ。」

澪は、

その言葉を黒瀬へ伝えた。

黒瀬は、

苦い声で答えた。

「もし失敗すれば、

君だけでなく、

早瀬の研究者人生も終わる。」

「知っています。」

「もし成功すれば。」

黒瀬は、

一瞬、

言葉を止めた。

「機構の存在意義が、

根本から変わる。」

「それでも構いません。」

澪は言った。

「今、

紗季たちを失う方が、

私にとっては大きな損失です。」

通信が切れた。

早瀬は、

古い機器の埃を払い始めていた。

「時間がない。」

「どのくらいですか。」

「アステリアの電力を考えれば、

長くて二日だ。」

澪は、

三枚の観測記録を、

もう一度見つめた。

地球。

アステリア。

父の観測世界。

三つの宇宙が、

同じ一つの星を見ている。

その事実だけを、

手掛かりにする。

「始めましょう。」

澪は言った。

第11話 完

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