見出し画像

心と物理学 感情と意識は物質から生まれるのか 第5話 記憶は物質なのか


心と物理学

第5話 記憶は物質なのか

私たちは、

昨日の出来事を思い出せます。

子どものころの記憶も、

ふと蘇ることがあります。

では、

その記憶は、

いったいどこに、

どのような形で、

残っているのでしょうか。

脳の中には、

紙のような記録媒体はありません。

インクで書かれた文字も、

写真のような画像も、

そのままの形では存在しません。

けれども、

記憶は確かに残っています。

現在の科学は、

記憶の正体を、

神経細胞のつながり方の変化だと考えています。

神経細胞は、

シナプスと呼ばれる接続点を通して、

信号をやり取りしています。

同じ経験を繰り返すと、

特定の神経細胞どうしの結びつきが、

強くなっていきます。

逆に、

使われない結びつきは、

弱くなっていきます。

この結びつきの強さの変化こそが、

記憶だと考えられています。

つまり記憶とは、

脳のどこか一箇所に、

保存されている情報ではありません。

多くの神経細胞のつながり方、

その全体のパターンが、

記憶を形づくっています。

これは、

写真や録音とは大きく違います。

写真は、

同じ画像を何度でも、

そのまま再生できます。

しかし記憶は、

思い出すたびに、

少しずつ変化していきます。

昔の記憶を思い出すとき、

私たちは、

そのときの神経のつながりを、

もう一度呼び起こしています。

しかしその過程で、

現在の感情や、

新しく得た知識が、

記憶に混ざり込むことがあります。

そのため、

同じ出来事の記憶でも、

思い出すたびに、

少しずつ違って感じられることがあります。

記憶は、

固定された記録ではなく、

つくり直される物語に近いのかもしれません。

さらに、

記憶には種類があります。

自転車の乗り方のような、

身体で覚える記憶があります。

これは、

意識して思い出さなくても、

身体が覚えています。

一方、

誕生日のパーティーのような、

出来事として思い出す記憶もあります。

こちらは、

意識の中で、

場面として再生されます。

この二つは、

脳の中で違う仕組みによって、

支えられていることが分かっています。

脳のある部分が傷つくと、

新しい出来事を覚えられなくなることがあります。

けれども、

身体で覚えた記憶は、

そのまま残ることがあります。

このことは、

記憶が一つの仕組みではなく、

複数の仕組みからできていることを示しています。

ここで、

大きな疑問が残ります。

神経細胞のつながり方が変化することは、

確かに物質の変化です。

しかし、

思い出すという体験そのものは、

その物質の変化と、

本当に同じものなのでしょうか。

昔の夏の日の匂いや、

そのときの気持ちまで、

神経のつながりだけで、

説明しきれるのでしょうか。

記憶は、

確かに脳という物質に支えられています。

けれども、

思い出すという体験の中身までを、

物質の変化として、

完全に置き換えられるのかどうかは、

まだ分かっていません。

記憶は物質なのか。

その問いは、

心という現象全体に、

つながっていきます。

ここから先は

0字

メンバーシップ ¥ 500 /月

物理の楽しい解説と自前仮説の展開

スタンダードプラン

¥500 / 月
1ヶ月無料 人数制限あり

執筆のための研究に使わさせていただきます。お願いします。