床下の繊維系断熱材に「防風層」は必要か
床下の断熱において、一つの「定説」が検証を伴わないまま定着しています。「繊維系断熱材を剥き出しで使うのは欠陥である」という言説です。繊維系断熱材は防風層で覆わなければ性能を発揮できないという主張が業界内で広く流通していますが、この考えが現代の進化した材料においても正当性を保っているのか、物理的な根拠に照らして整理したいと思います。
私の専門は、北米の建築思想に基づく高性能住宅です。以下では主に北米の研究を軸に論じますが、日本においても同様の知見は存在するはずです。
90年代から現代へ
歴史を振り返れば、この定説が生まれた背景には確かな理由がありました。
私が私淑している鵜野日出男氏が1999年に著した『高気密住宅を拓く:先覚者・先住人』には、「夏場に濡れ雑巾になるので床下に繊維系の断熱材は使用しない」という旨の記述があります。実際、私自身も現場で、湿気を吸って重みでずり落ち、朽ち果てた断熱材を目にしたことがありました。

関東の高性能住宅黎明期、断熱施工に真剣に取り組んだ会社ほど早くからこの問題に直面していたはずです。90年代初頭の日本の床下では、10k、16k程度の低密度のグラスウール、あるいは根太間にはめ込む形状の発泡系断熱材(カネカ「サニーライト」など)が広く使われていました。発泡系は吸水しないため脱落のリスクは低いものの、断熱性能・気流抵抗ともに現代の基準からすれば十分とは言えないものでした。
通気抵抗が低く、かつ気密が不完全な環境下で発生するこの現象は、当時の材料、技術条件においては完全に正当な批判でした。しかし、その後の日本の断熱材は、撥水加工の標準化や高密度化(24kg/m³や32kg/m³)という大きな進化を遂げました。
現在の物理的な根拠
現代の材料は、かつての懸念をすでに過去のものとしています。
先に結論を述べます。24k撥水加工品は、防風層なしでも充分な性能に達しています。32kがより望ましいことは否定しませんが、欠陥と断じるのは根拠がありません。
2016年、RDH Building ScienceのRandy Van StraatenとJohn Straubeらが着目したのは、繊維系断熱材に防風層が必要であるという、通説の根拠そのものでした。防風層の設置を推奨する従来の基準(Uvsløkk, 1996)は、エアバリアを持たない低密度品を対象とした研究に依拠していたのです。Van Straatenらは、「どの程度の密度なら、どの程度の風速に耐えられるか」という問いへと立て直し、実験で検証しました。
実験の結果は、以下の通りです。密度70kg/m³の板状断熱材でさえ、最大低下幅は0.03 RSI(R-0.2程度)にとどまりました。密度32kg/m³のマット状断熱材では、風速1m/sの環境下でも熱抵抗の低下は0.01 RSI未満です。なお、高密度の板状断熱材の方が数値がやや大きいのは、材の剛性が高いゆえに下地との間に微細な隙間が生じやすいためと考えられており、繊維密度そのものの性能差ではありません。日本で一般に床下用として販売されている24〜32kg/m³の密度があれば、風による性能低下は実用上、無視できるレベルです。
なお、注意が必要なのは高性能16kです。断熱性能では24kに並びますが、密度が低いため気流抵抗は大きく劣ります。実験では密度16〜20kg/m³のマット状グラスウールで、風速1m/sの環境下において0.12〜0.17 RSI程度の顕著な性能低下が確認されています。繊維の細さという「質」ではなく、どれだけ詰まっているかという「量(密度)」が、気流抵抗を決めるからです。
スウェーデンハウスという傍証
スウェーデンハウスの事例を補助線として置きたいと思います。同社は一貫して16kg/m³のグラスウールを200mm程度の厚さで充填してきましたが、その下側には樹脂板を配し、支持材と防風層を兼ねさせています。現在はパンチング穴加工が施されていますが、かつては穴のない樹脂板だったと記憶しています。膨大な施工実績の中でこの構成が維持されてきたことは、理論ではなく実地の検証として重みがあります。いずれにせよこの構成は、逆説的に「16kg/m³という低密度品を採用する以上は、防風層による補完が不可欠だった」ことを示唆しています。24k品は、その課題を密度で解決しています。
言説の文脈
90年代の警鐘と、2016年の定量的検証は、対立ではありません。90年代の言説は、低密度・未熟な施工という特定の条件下における「特殊解」でした。しかし材料と工法が更新された現代において、その言説が成立した文脈はすでに失われています。前述の通り、材料はすでに対流を抑え込む密度に達しています。24kの剥き出し施工は、物理学的に正当です。
材料の進化は、静かに、しかし確実に進んでいます。理論的な裏付けをもとに工程を減らし、コストを抑える——その選択肢が消費者に届く前に、実務者の「常識」が壁になることがあります。深い経験を持つ実務者ほど、かつての判断に縛られやすい。床下の繊維系断熱材は、その一例です。
なお、壁など、低密度品が使われる部位では、防風層は必要です。小屋裏については、防風層は推奨されますが、吹込み施工では上部への設置がほぼ不可能なケースも多く、現実には防風層なしで運用されている現場も少なくありません。念のため、設計値より厚めに吹き込んでおくことが無難でしょう。
なぜ言説は更新されないのか
では、なぜ床下における言説は更新されないのでしょうか。
私見を言えば、高気密高断熱の「正解」を掴んだと感じている実務者ほど、表面的な知識が更新を妨げます。もっとも、問題は知識の量ではありません。根拠まで知ろうとする姿勢があれば、更新はできるはずです。「繊維系断熱材に防風層は必須である」という常識がその典型です。正しくは、「低密度な繊維系断熱材に防風層は必須である」ということです。かつての常識という色眼鏡をかけたまま、現代の建材や工法を眺めている。その結果、合理的で安価な選択肢が否定され、不利益を被るのは消費者です。
実績ある手法に範を求めること自体は、誠実さの表れとも言えます。しかし、ルールはその根拠とともに理解されなければなりません。根拠を知っていれば、材料が変わったとき、条件が変わったとき、そのルールが通用しなくなることに気づけます。根拠を知らなければ、形骸化したルールだけが残ります。その自戒を込めて、この文章を書きました。
参考文献
Van Straaten, R., Straube, J., Trainor, T., & Habellion, A. (2016). Wind Washing Effects on Mineral Wool Insulated Sheathings. Thermal Performance of the Exterior Envelopes of Whole Buildings XIII International Conference. ASHRAE. RDH Building Science Laboratories.
Carvajal, S.A., Garboczi, E.J., & Zarr, R.R. (2019). Comparison of Models for Heat Transfer in High-Density Fibrous Insulation. Journal of Research of the National Institute of Standards and Technology, 124. DOI: 10.6028/jres.124.010
Uvsløkk, S. (1996). The Importance of Wind Barriers for Insulated Timber Frame Constructions. Journal of Building Physics, 20(1), 40–62.
鵜野日出男 (1999).『高気密住宅を拓く:先覚者・先住人』
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