【新譜】磁器のように、美しく強い自分を映し出す──Porcelain / Peach PRC 【ディスクレビュー14】
Peach PRC(ピーチ・ピーアールシー)は、オーストラリア南部アデレードの郊外で生まれたソロアーティスト。
本名はShaylee Curnow(シェイリー・カーノウ)。2019年より活動を開始し、TikTokで200万人以上のフォロワーを持つ「デジタル時代のポップ・フェノメノン(ポップの奇才)」として、急速にキャリアを築いてきた。
アーティスト名の由来は、かつて「Peach Porcelain」名義でストリッパーとして働いていた過去にある──その経験が、現在の世界観の核にある。
音楽的なルーツはケイティ・ペリー、ケシャ、ブリトニー・スピアーズといった2000年代のポップスター。
バブルガム・ポップとハイパーポップが交差する鮮やかなサウンドを世に送りながら、メンタルヘルスの問題、性的少数者としての自己をオープンに語る姿勢が、ファンとのつながりを生んでいるそう。
今回紹介する『Porcelain』は2026年3月にリリースされた、12曲入りのデビューアルバムだ。
「ピンクに煌めく妖精」をコンセプトとした2023年のEP『Manic Dream Pixie』を経て生まれた本作は、ボタニカルなモチーフを纏ったオーガニックな音像へと進化を遂げた。ジャケットでもボタニカルのコンセプトが、明確に表現されている。
シンセサイザーを多用した躍動感あるダンスナンバーと、そっとしたためた日記のように繊細なスローバラードが共存している。
タイトルのPorcelainとは一見壊れやすそうでいて強い、磁器を意味するワードだ。
アーティストとしての人格「Peach」と、一人の女性である「Shaylee」──2つの表情をしなやかに両立させるための強くて美しい器を心の中に置いている。
アルバムのタイトル「磁器」とは、そのまま自己信頼の宣言をしていると考えることができる。
お気に入りの楽曲①「Piper」
脈動するシンセサイザーから始まり、ウィスパーボイスが忍び寄るように入り込み、やがて爆発的なサビへと成長を遂げる。
エレクトロニカとトリップホップが融合したようなサウンドは、2000年代初頭のポップと2010年代のエレクトロニクスが交差する独特の音像を作り上げている。
歌詞が描くのは、魅惑する楽園のような場所。
──「Piper(笛吹き)」とはギリシャ神話の牧神パンを指す。彼の音色に引き寄せられ、そこに一度足を踏み入れたら二度と離れられないという感覚が曲に込められている。
離れたいのに離れられない葛藤が、妖艶なサウンドに変換されて、聴くものを呑み込んでくる。
お気に入りの楽曲②「The Palace」
作中でも最も重く、最も正直な記憶が沈む曲だ。
タイトルにある「パレス(宮殿)」とは、かつての彼女が働いていたナイトクラブをなぞらえたワードである。
ストリッパーとして働いていた日々。
客には本名を知られず、感情を押し殺し働く日々。
檻のような場所で、自己の人間性が少しずつ失われていく痛みが記される。印象的なのは以下の歌詞。
"the palace that everyone fell from(みんながそこから転落してきたパレス)"
「パレス」とは、社会から見捨てられた人々や、夢破れた人々が行き着く、あるいはそこから抜け出せなくなっている場所としての象徴的な空間を意味していると解釈できる。
歌詞の軸はもう一本ある。家庭内の葛藤。父親から拒絶された過去が、メランコリックなサウンドに乗せて赤裸々に語られる。
ただ、過去の自分を憐れんで終わるのではなく、これまでの道のりをしっかり認めようとする節もある。Palaceが彼女を奮い立たせ、あるいは自分を演じ続けるための「王国」でもあった、と。
檻であり王国でもある。複雑な感情が渦巻くなかではあるのだが、過去をなかったことにするのではなく、丸ごと抱えたまま輝こうとする確かな意志を感じ取れる。
心の中に大切に置かれた磁器があるから、自分の過去や弱さを臆することなく曝け出せる。強く歩いて行ける──『Porcelain』は彼女のこれまでの心境と今を同時に映し出す、ポートレートのような作品なのだ。
