見出し画像

偉大なる模倣者による、自己証明──The Great Impersonator / HALSEY 【ディスクレビュー37】

ニュージャージー州エジソン出身のシンガーソングライター、HALSEY。本名はAshley Nicolette Frangipane。

2012年より活動を開始し、ポップ、エレクトロニック、オルタナティブ・ロック、R&Bを横断しながらキャリアを重ねてきた。

母親のルーツであるThe Cure、Alanis Morissette、Nirvana──そして父親のルーツであるThe Notorious B.I.G.や2Pacが、彼女の音楽的土台を形成している。

Panic! At The DiscoやBrand Newなどを「人生を変えたバンド」として挙げており、ポップやロック、ブラックミュージックの境界を意識的に行き来する姿勢をデビュー当初から一貫している。

『Badlands』(2015年)から『Manic』(2020年)まで着実にセールスを伸ばし、『If I Can't Have Love, I Want Power』(2021年)では、NINのTrent ReznorとAtticus Rossを迎えたダークなインダストリアル・サウンドへと大きく舵を切った。

そして今回紹介する『The Great Impersonator』はリリースまでの間、彼女は全身性エリテマトーデス(ループス)とT細胞リンパ増殖性疾患の診断を受け、闘病しながらレコーディングを続けた。

「これが最後のアルバムになるかもしれない」──その覚悟が、本作の根底に静かに、しかし確かに流れている。

キャリア5作目となる『The Great Impersonator』は、2024年10月25日にColumbia Recordsよりリリース。

コンセプトは「もし自分が70年代から2000年代の異なる時代にデビューしていたら?」という問いかけ。

Joni Mitchell、Bruce Springsteen、Britney Spearsなど多様なアーティストへのオマージュを散りばめながら、各時代のサウンドをまといつつ、死生観、母親としてのアイデンティティ、名声との葛藤を問い直す。

これまでのキャリアの「精神的な清算」とも呼ぶべき一枚だ。

お気に入りの楽曲① 「Ego」

The CranberriesのDolores O'Riordanへのオマージュを核に据えたアップビートなポップ・パンク・トラックで、ドライヴ感のあるベースラインとジャングリーなコードが疾走する。

ヴァースではラップに近い早口でまくし立て、コーラスでは一転して切ないメロディが広がる。その落差が、曲全体に独特の緊張感を生み出している。

歌詞のテーマは「エゴに飲み込まれる前に、自分でエゴを殺せ」という自己との闘い。

公の場に立ち続けながら、深刻な病を抱えたプライベートとのバランスに苦しむ葛藤が、一切の装飾を省いた言葉で刻まれている。

この曲がアンセムとして機能するのは、メロディの強さだけではない。その叫びが、本物の瀬戸際の際の際から放たれているからだ。

お気に入りの楽曲② 「Lonely is the Muse」

Ashleyが書いた詩をベースに構築されたこの楽曲は、EvanescenceのAmy Leeへのオマージュを基軸に、ゴス・ロック、インダストリアル・ポップ、オルタナティブ・ロックが交差する。

激しいギター、ダークなリズム、重厚なボーカルが重なり、サウンドそのものが怒りの形状を成している。

歌詞は、女性アーティストとして他者に利用され、記号化され続けることへの憤りと虚しさを正面から叩きつける。

自分を削って作品を提供し続けても、結局は誰かにとって都合のいい「像」としてしか認識されない──搾取の構造を叫びとして叩きつけた一曲だ。

アーティストとしての自己と、名声が生み出す他者像との乖離。その断絶を、彼女は劇的な展開の中に封じ込めた。


『The Great Impersonator』は、模倣の作品ではない。70年代から2000年代の衣をまといながらも、内側で燃えているのは、紛れもなくAshley Nicolette Frangipane自身の怒りと痛みと、生への執着だ。

時代を借り、他者の形を纏うことで、かえって彼女の輪郭がくっきりと浮かび上がる。これは「偉大なる模倣者」による、誰にも真似できない自己証明だった。


いいなと思ったら応援しよう!