E130 Brad Kane and Lea Salonga-A Whole New World
魔法絨毯のブチ上がる夜
90年代ディズニーのラブソング
90年代初頭、ディズニーの大ヒット映画『アラジン』(1992年)。その中心には、ティム・ライスとアラン・メンケンによる大爆発級バラード「A Whole New World」があった。この楽曲は、空飛ぶ魔法の絨毯でアラジンとジャスミンが世界を駆け抜けるシーンを彩り、ディズニー・ルネサンス期の華となった。ポップでロマンチックなメロディと愛にあふれた歌詞は、当時のロック批評家から見ればまさに「頭から離れない”珠玉の1曲”」。【記: 蛮楠烈太】
基本情報
作詞: ティム・ライス
作曲: アラン・メンケン
編曲: アラン・メンケン(オーケストラ中心)
プロデューサー: アラン・メンケン、ティム・ライス、クリストファー・モンタ、Chris Montan (Montan)
発売日: 1992年10月31日(サウンドトラック収録曲)、
日本シングル盤(ブラッド・ケイン&リア・サロンガ版)1993年6月18日
レーベル: ウォルト・ディズニー(米国)、
ポニーキャニオン(日本)
収録スタジオ: ディズニー制作スタジオ
参加ミュージシャン
映画版ではアラジン役のブラッド・ケインとジャスミン役のリア・サロンガが歌唱を担当。
アラン・メンケン作曲によるオーケストラ伴奏で、ディズニー音楽チームが制作に関与。
チャート状況
本曲のシングル版(ピーボ・ブライソン&レジーナ・ベルによるR&Bデュエットバージョン)は、1993年3月6日付のBillboard Hot 100で首位を獲得、6週間にわたりアダルト・コンテンポラリー部門でも首位を飾った。
これはディズニーアニメ映画音楽として初の米総合チャート1位という快挙であり、グラミー最優秀楽曲賞も受賞した。日本では1993年7月発売のシングルがオリコン洋楽チャートで13週連続1位を記録。
オリジナル版(ケイン&サロンガ)がシングル化された日本盤は出荷119,835枚を売上げ、ゴールドディスク大賞のグランプリ・シングル賞(洋楽)を受賞している。
曲自身は1993年アカデミー歌曲賞およびゴールデングローブ主題歌賞を受賞し、1994年にはグラミー最優秀楽曲賞も手中に収めた。
楽曲のエピソード
制作初期、ディズニー音楽の巨匠ハワード・アシュマンが病床に伏していた時期のこと。アシュマンの代役としてメンケンの相棒に選ばれたのがティム・ライスだった。ライスは「アラジン」の制作現場に突然呼ばれ、メンケンと即興のセッションを敢行した。最初に生まれたのがこの曲だという。
真夜中、メンケンは寝室を抜け出し一人で「The World at My Feet」という仮歌詞をつけたデモメロディを作曲したが、ライスとの初対面後に「ラブソングに“足”が出てくるのはおかしくないか?」と指摘され、結果として「A Whole New World」というキャッチーなフックが誕生した。この背景には『美女と野獣』、次作『リトル・マーメイド』など、異なる個性のミュージカル作品群へのリスペクトもあったとメンケンは語っている。
映画本編では、貧しい青年と王女が初めて大空に飛び出すロマンチックな場面でこの曲が流れる。映像と相まって、そのムーディな世界観は観客の心をギュンと鷲掴みにした。翌年1993年のアカデミー賞授賞式では、まさにこのブラッド・ケイン&リア・サロンガのデュエットでライヴ披露され、その瞬間も大いに話題を呼んだ。楽曲は発表から四半世紀以上を経てもなお、世界中で口ずさまれる名曲となっている。
また、日本でも多くのアーティストがこの曲に影響を受けてきた。2000年代以降、倖田來未がピーボ・ブライソンと共演したカバーをリリースしたり、東方神起、lol、ボアらが日本語で歌って大ヒットさせたりしている。カバーやメドレーの数だけでも数十に上り、それぞれがデジタル・ストリーミング時代まで受け継がれている。老舗ディズニー音楽に対する「既視感」批判があったとしても、こうして次々と現代アーティストの血肉となって生き続けている点は見逃せない。
アーティストの歴史・キャリア
リア・サロンガはフィリピン生まれのミュージカル界のスター。子役時代から才能を開花させ、1989年にはロンドン版『ミス・サイゴン』でヒロインのキム役に抜擢され、オリヴィエ賞を受賞。翌1991年のブロードウェイ移行時にはトニー賞も手に入れ、〝史上最多の国際的賞〟を同役で獲得した史上類稀な存在だ。その彼女が「『ホール・ニュー・ワールド』は最高の曲で、ディズニー映画に参加できて夢のようだった」と語るように、サロンガは当時、日本でも人気が急上昇。アラジンのジャスミン役の声を担当し、ケインとともにオスカーの舞台で歌い、ディズニー・レジェンドにも選ばれている。その後もマルチリンガルの歌姫として、ミュージカル・ステージやテレビ、映画吹替えで活躍を続ける。
対してブラッド・ケインは、ニューヨーク出身の若手俳優・歌手であった。6歳から子役として活躍し、『アラジン』では実写版の主演級声優ではなく「歌声担当」として抜擢された。彼自身も後年語っているように、この曲で世界の頂点に立つなんて思いもよらなかったはずだ。ケインはアルバムリリースやテレビドラマ脚本家など多才な経歴を歩み、『ブラック・セイルズ』でプロデューサー/脚本としても名を馳せた。だがやはり音楽ファンの耳に一番残るのは、『アラジン』でジャスミンと共に大空を駆け抜けたあの歌声だろう。
評価
半世紀前の音楽評論スタイルで言わせてもらえば、「A Whole New World」はまさにディズニーによる極上のケミカル・ラブソングだ。甘美すぎるオーケストレーションと、見事にシンクロしたブラッド&リアの透明感溢れる声。曲はキャッチーで耳に残るが、同時に毒気がなく嫌みもない。1970年代のロック雑誌で書くなら、「甘ったるいメロディが走り回るけど、『音楽は人生だ』と叫びたくなるほどピュアだ」などと絶賛するところだろう。
一方で現代の耳からすれば、「お決まりの魔法のラブソング」「お行儀良すぎ」「飽きた」という評価もなくはない。実際、歌詞も構成もシンプルで、チャート狙いのポップスそのもの。スパイスの効いた野性味やヒネリは少なく、厳しい言葉で言えば「教科書通りのサウンド」に聞こえるかもしれない。それでも、この曲が持つノスタルジアや「空を飛ぶ興奮」は万人を魅了した。まるで爆発寸前の火山のような情熱でこそないが、ロマンチックなシーンに最もマッチする音楽として歴史に名を刻んだ点は揺るがない。
比べてみると、『リトル・マーメイド』の「アンダー・ザ・シー」はカリプソの躍動感が炸裂し、『美女と野獣』は壮麗なクラシカルポップだが、この「ホール・ニュー・ワールド」は枠にハマらない自由な曲調だ。ディズニーらしい展開ながら「東洋へのオマージュ」を盛り込んだ異国情緒も感じさせるなど、メンケン自らが語るように、一風変わった質感も持っている。結局、この楽曲は、時代の権威にも逆らわないディズニー帝国の王道の中にあって、奇跡的な空気感を保っていると言えるだろう。
あとがき
「A Whole New World」は音楽史に残る一曲だ。「空から声が降ってくるわ!」とため息交じりにうなるリスナーも多いが、ファンもアンチも含めて語り継がれるのが名曲の宿命だ。僕自身、初めて聴いたあのシーンのときは、心がぶっ飛んだまま現実に引き戻せなかった。ディズニーが作るポップで壮麗な旅情は、どんなロックアルバムよりも魂を揺さぶる。それこそがこの曲の凄みであり、音楽史的意義なのだ。誰がなんと言おうと、俺はそう感じる!
