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現代アートを「観て聴く」 A.A.MURAKAMI《水中の月》


六本木で開催されている現代アート展「六本木クロッシング」を鑑賞し、 話題の作品であるA.A.MURAKAMIの没入型インスタレーション作品《水中の月》を体感してきました。

非常に暗い空間の中に、静かに漂う白くやわらかい球体の泡。
それは生まれ、浮遊し、やがて消えていきます。

起きていることは、ただそれだけの出来事なのですが、
しばらくの間、その場にいたいと思いました。

1つの球体が生まれ、その次の球体が生まれるまでのちょっとした「間」。
その「間」、すなわち「待つ時間」は、自らの内面と対話するための時間のようでもあり、また、静けさの中で、ほのかな緊張感と集中を味わえる、稀有な時間でもありました。

その体験は、ある意味、音楽を聴くということにも似ているところがありました。

音楽のように現れる現代アート

一般的に、動的なインスタレーション型のアートは、「理解する」ことよりも「感じる」ことに重きが置かれた作品が多いと思いますが、音楽もまた、言葉では表しきれない時間の流れを「感じる」芸術です。

そこで例えば、次のようなテーマで、アートと音楽を結びつけて感じてみるというのはいかがでしょうか?

・生成するシステムとしての音
・ゆらぎ、たゆたう光のような音
・空間性を強く意識させる音
・そして、音の無い音楽

「結びつける」という想像と思考の技を用いると、アートは音楽の延長のように、音楽はアートの延長のように、一つのものであるがごとく感じられてくるのではないでしょうか。

生成するシステムとしての音

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ《フーガの技法》

バッハの晩年のこの作品は、「感情の起伏」よりも、「時間の秩序」を優先しているように感じられます。
静かに、着実に展開していき、少しずつ形が変化していきます。
A.A.MURAKAMIの球体の泡が生成される過程は、この作品にどこか似ているところがありました。

ゆらぎ、たゆたう光のような音

クロード・ドビュッシー《光が注ぐテラス》

ドビュッシーの音楽は、ただ美しいだけではなく、
その中には「ゆらぎ」があります。
《光が注ぐテラス》の光も、確かなものではなく、消えてしまいそうな儚さを持った輝きです。
その不安定さは、A.A.MURAKAMIの球体の泡の独特の儚さとも重なりました。

空間性を強く意識させる音

武満徹《雨の樹 素描》

武満徹の音楽は、音と音のあいだの空間を聴く作品という側面もあると思います。
一音一音は、やみくもに流れていくのではなく、丁寧に空間に置かれていき、それを聴く者の呼吸とも連動して、空間を満たしていくような感覚と言いましょうか、A.A.MURAKAMIの作品の体験と最も深く重なったのは、この感覚でした。

そして、音の無い音楽

ジョン・ケージ《4分33秒》

ケージは、「何も弾かない」ことで、
音楽の聴き方そのものを変えました。
空調の音、装置を動かす音、人の気配、空気の流れ。
それらすべてがリアルタイムで「音楽」になっていきます。
A.A.MURAKAMIのインスタレーションの展示空間の中で、
私はまさに同じ体験をしていました。

アートを「観て聴く」体験

「現代のアート」はなんとなく難しいなあ、と感じる人は多いと思います。
そのような時、音楽を聴くようにアートを体験してみたら、急に新しい世界の扉が開くかもしれません。

一生懸命に意味を探すのではなく、「アートを観て聴く時間と空間」をまるごと味わう。

都会の真ん中で、究極の静けさを味わうことができる、稀有な時間と空間の中に身を置いた時、「自分」という固定観念すらも忘れ去ってしまえるという、そんな根源的な願いのようなものが叶っていく。A.A.MURAKAMIのアート作品には、そのような力がありました。

A.A.Murakami

2011年ロンドンにて結成、同地および東京拠点

A.A.Murakamiは村上あずさとアレキサンダー・グローブスによるユニットです。アートと科学技術を結び付け、自然現象を全く新しい体験へと変える作品を創造しています。「エフェメラル・テック(儚い技術)」という理念のもと、霧やプラズマ、シャボン玉などの素材と独自の技術を組み合わせ、自然への畏敬の念を表現しながら、技術発展における新たな可能性を提示しています。

《水中の月》(2025)では、樹木のような彫刻からシャボン玉が落下し、水面で跳ね、転がり、弾けます。夜空を巡る月の軌跡や春の桜吹雪を想起させるその光景は、心を揺さぶる美が儚いものであることを物語ります。タイトルは月が憧憬と純粋さの象徴である東アジアの伝統美学を反映しています。作品は技術的な複雑でありながら、人間の創造の根底には自然への敬意があることを示しています。本作は、彼らが初めてAIを用いた作品です。しかし、画像や文章を生成するのではなく、現実の物理世界に入り込み、作品の繊細なオペレーションと現象を目に見えない形で維持しています。彼らはこの手法を「PAI (フィジカルAI)」と呼び、時空の調和を支える隠れた知性と定義しています。

森美術館



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