霊南坂教会に満ちる音・・・ハルモニウムとピアノ
この日、最初の音が鳴った瞬間、
「うん、これは初めて聴く響きだ」と感じました。
やわらかく空気を含んだかのようなハルモニウムの音。
そして、落ち着いた響きで楽曲全体を支えるピアノの音。
3月の中旬、東京・赤坂の 霊南坂教会には、これまで聴いたことのない音の風景が広がっていました。
この日は、ハルモニウムとピアノという、ちょっと珍しい編成のコンサートが開催されました。
ハルモニウムという楽器
ハルモニウムというのは、フリーリードという仕組みを用いて、両足で空気を送り込んで音を出すタイプのオルガンです。
霊南坂教会には、フランスから輸入されたハルモニウムがあります。
1920年に教会ができたと同時に設置され、その後、関東大震災や東京大空襲という歴史の荒波を越え、105年後の今でもその音は鳴り続けています。
国内では現存するものがわずか2台とも言われている、貴重なフランス製のハルモニウム。
霊南坂教会においては、1986年にパイプオルガンが設置されてからはハルモニウムの演奏の機会は減りましたが、2022年から2023年にかけて、オランダの工房で徹底的な復元修復作業が行われ、製造当時の響きを取り戻したのだそうです。
ちなみに、今回のコンサートのような「ハルモニウムとピアノ」という編成は、19世紀のヨーロッパでは貴族の館で行われる音楽会においても親しまれていたそうです。

2段手鍵盤 25ストップ リード総数909枚 エクスプレッション付
▼下記の動画は、オランダでの修復作業の様子です。両足でゆっくりと空気を押し込んでいる様子もわかると思います。
柔らかな響きの世界
プログラムの1曲目は、
セザール・フランク(1822–1890)の
《前奏曲、フーガと変奏曲》作品18。
ハルモニウムの、独特の柔らかな音でこの曲は始まりました。
実は、私は、ハルモニウムを生で聴くのは初めてでしたので、
どんな音が鳴るのか、全く想像できていなかったのですが、
実際には、例えばパイプオルガンとはまったく違う響きで、
まるで大きなアコーディオンが鳴っているかのような、
そんな音でした。
両足の操作で空気を送り込むことで、音の強弱や揺らぎが表現されていきます。楽器の中を空気が流れている感覚が、とてもよく伝わってきます。
そして、高音部になった時、また別の表情の音が現れました。
教会内部の空間に降りてくるかのようなその音は、
例えていうならば、雅楽の楽器、笙の音にも似たきらきらと揺らめく響きとして感じられました。
(西洋の教会で、雅楽を思い出すというのも不思議な体験でした。)
一方、ピアノは低音部で支え、楽曲全体に深みを与えていました。
とても天井の高い空間の中で、この二つの音は柔らかく溶け合い、
幻想的とも言える世界が展開されていきました。
▼楽曲の参考として、下記はオルガン版です。
今回のコンサートでは、右手がハルモニウムに、また、左手と足鍵盤がピアノに割り振られて編曲されていました。
後半は華やかさを感じるプログラム構成
そして後半のプログラムは、
・ピアノ・ソロ
・パイプオルガン
・ピアノ&パイプオルガン
という編成で演奏が行われました。
前半とは異なり、華やかさを感じるプログラムとなっていたのは、シューマンやメンデルスゾーン、ラヴェルなどの楽曲だったからでしょうか、全体としては、心に晴れやかさが戻ってくるかのような、そんな嬉しい時間となりました。
ちなみに休憩中には、パイプオルガンの調律の様子を見る機会もありました。パイプの裏側が点灯され、細かな調整が行われていました。作業する方は二人いて、両者は遠く離れているため、パイプの裏側から大きな掛け声がかかり、それを合図にオルガンの音を一音一音出していきながら調整が進められていきました。

華やかなフィナーレ
プログラムの最後は、
アレクサンドル・ギルマン(1837–1911)の
《フィナーレ》作品40 第4曲。
ピアノとパイプオルガンによる、明るく華やかな音でコンサートは締めくくられました。
▼参考として、下記の動画はオルガン版です。


3段手鍵盤と足鍵盤 32ストップ パイプ本数2,497本
演奏者のご紹介
この日の演奏は、ドイツ在住のデュオ、
諸岡亮子さんとクリスティアン・パイクスさん。
ドイツでのデュオ・コンサートも大好評というお二人です。
クリスティアンさんのピアノは、表情豊かで温かさのある音色。
ロベルト・シューマンの《森の情景》作品82 第7曲「予言する鳥」では、まるで森の中にいるような響きだと感じました。
諸岡さんのハルモニウムの演奏は、透明感があふれる響きでした。
足の踏み方一つで空気の流れが変化し、音色や息遣いが大きく変わっていく…。ハルモニウムというのは、演奏技術が問われる、とても繊細な楽器なのだということもよく分かりました。
空間全体に広がっていく豊かな音
空気を送り込みながら音を生み出すハルモニウムは、
パイプオルガンともピアノとも違う、独特の「呼吸」を持った楽器です。
教会の空間全体にゆっくりと広がっていくその響きは、
まるで時間の流れそのものを柔らかくときほぐしてくれるかのようで、
本当に素晴らしい音楽体験を与えていただきました。
霊南坂教会では、ハルモニウムやパイプオルガンの演奏会が定期的に行われているとのことですので、機会があれば、ぜひこのやさしい響きを体験なさってみてはいかがでしょうか。
https://reinanzaka.jp/concert/
<プログラム>
セザール・フランク(1822-1890)
<前奏曲、フーガと変奏曲>作品18
ジークフリート・カルク=エーレルト(1877-1933)
<印象>作品102より「船頭が語ったこと」
ジークフリート・カルク=エーレルト(1877-1933)
<夢想>作品26第7番
クリスティアン・パイクス (1977-)
<フクシマを思う哀歌>※霊南坂教会委嘱作品
シャルル=マリー・ヴィドール(1844-1937)
<アレグロ・カンタービレ>作品42第1番 第2曲
ロベルト・シューマン(1810-1856)
<森の情景>作品82 第7曲「予言する鳥」
ロベルト・シューマン(1810-1856)
<6つのペダルフリューゲルのための練習曲>
作品56 第2曲「カノンイ短調」/第4曲「カノン変イ長調」
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809-1847)
交響曲=カンタータ第2番<讃歌>変口長調 作品52第2曲「序奏」
モーリス・ラヴェル(1875-1937)
<クープランの墓>より「メヌエット」
アレクサンドル・ギルマン(1837-1911)
<アダージョ>作品53 第3曲/<フィナーレ>作品40第4曲


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