コラム Focus(#49)|SNSでアーティストを売る前に、SNSからアーティストを守れ。|音楽プロデューサー
今、アーティスト活動とSNSは、ほとんど切り離せなくなった。
TikTok、Instagram、YouTube、X。良い曲を作って、リリースして、ライブをする。それだけでは、なかなか見つけてもらえない。だから投稿する。動画を作る。数字を見る。また投稿する。
これはもう、アーティスト活動の一部だと思う。
僕自身、SNSはもっと戦略的に使うべきだと考えているし、アーティストにもデジタルマーケティングの感覚は必要だと思っている。
でも、同時に強く思うことがある。
SNSでアーティストを売る前に、SNSからアーティストを守らなければいけない。
これは、マネジメントの重要な仕事だ。
SNSは、数字が見えすぎる。
再生回数、フォロワー数、いいね、コメント、保存数、シェア数。昨日より伸びた、落ちた。隣のアーティストは100万回、自分は1万回。
毎日、自分の価値を数字で採点されているような感覚になっても、不思議ではない。
しかも、数字だけではない。好意的な言葉もあれば、批判もある。悪意のあるコメントもある。誰かとの比較もある。
アーティストは、それをスマートフォン一台で、24時間いつでも見ることができてしまう。考えてみれば、相当に過酷な環境だ。
僕らの時代にも、もちろん売上やチャートはあった。でも、毎朝起きた瞬間から、自分に対する世界中の評価が手のひらに流れ込んでくることはなかった。
今のアーティストは、それと日常的に付き合っている。
だから、マネジメントは「もっと投稿しよう」「毎日やろう」「数字を伸ばそう」と言うだけではダメだと思っている。
アーティストの仕事は、SNSを更新することではない。
作品を生み出すことだ。
ここを絶対に忘れてはいけない。
もちろん、SNSもやる。マーケティングもやる。数字も見る。試行回数も増やす。
でも、それによって本人の心が疲弊して、曲が書けなくなったら本末転倒だ。ライブで最高のパフォーマンスができなくなったら、何のためのSNSなのか分からない。
僕は、アーティストマネジメントという仕事には、スケジュール管理や仕事を取ってくることだけではなく、心と体のコンディションを守ることまで含まれていると思っている。
いつ休ませるのか。どこまで本人に数字を見せるのか。コメントを本人が全部読む必要があるのか。SNSを本人だけに背負わせていないか。作品を作る時間が、投稿素材を作る時間に侵食されていないか。
マネジメント側が考えるべきことは、たくさんある。
そして、もう一つ大切なのは、アーティスト自身ときちんと話すことだ。
SNSが好きな人もいる。苦手な人もいる。毎日発信することが自然な人もいれば、それだけで消耗してしまう人もいる。全員に同じSNS戦略を当てはめること自体が、僕は違うと思っている。
その人の性格、音楽性、世界観、生活、そして心と体。
全部を見ながら、そのアーティストに合った届け方を設計する。
それこそが、プロデュースであり、マネジメントだ。
僕はよく「クリエイティブとデリバリー」をセットで考える。
何を作るのか。どう届けるのか。どちらも重要だ。
でも、その真ん中には必ず「人」がいる。
その人が壊れてしまったら、クリエイティブもデリバリーも続かない。
短期的に数字を作ることはできても、5年、10年と活動を続けることはできない。
音楽は、短距離走ではない。
アーティストの人生そのものと付き合っていく仕事だ。
だから僕は、数字を伸ばすことと同じくらい、
続けられることを、マネジメントしたい。
SNSに勝つことより、SNSに潰されないこと。
バズることより、その先でも音楽を好きでいられること。
そして、10年後も、その人がステージに立っていること。
そこまで考えて初めて、アーティストマネジメントなのだと思う。
アーティストを売ることと、アーティストを守ること。
どちらかではない。
両方をやるのが、僕らの仕事だ。
#音楽サバイバル術 #コラムFocus #アーティストマネジメント #音楽プロデューサー #音楽業界 #SNSマーケティング #デジタルマーケティング #アーティスト #マネジメント #クリエイティブ #プロデュース #音楽活動 #西山宏明
