The Guy Who Didn't Like Musicals(ミュージカル嫌いの男)ーーYouTube無料配信で世界を掴んだインディー劇団が、ウエストエンドと日本へ
2018年にロサンゼルスの小劇場で産声を上げ、YouTubeに無料公開されて960万回再生を超えたカルト・ミュージカルがいま、世界を旅している。StarKid Productionsの代表作『The Guy Who Didn't Like Musicals』(日本語タイトル:ミュージカル嫌いの男)は、2025年のリマウント(再演)を経て、2026年5月14日〜30日にはApollo Theatre(ロンドン)でStarKid初のウエストエンド公演を上演中だ。そして同年7月には劇団TipTapによる日本語版が東京芸術劇場シアターウエストで上演される。
基本情報(原作プロダクション)
音楽・作詞: Jeff Blim 脚本: Nick Lang & Matt Lang 世界初演: Matrix Theater(ロサンゼルス)2018年10月11日〜11月4日 製作: StarKid Productions YouTube公開: 2018年12月23日(現在960万回再生超) 配信公開: デジタル購入版(2026年5月11日)、YouTube無料公開(2026年7月4日予定)
日本公演情報
タイトル: 劇団TipTap 20周年記念公演 第二弾『ミュージカル嫌いの男』 会場: 東京芸術劇場 シアターウエスト 公演期間: 2026年7月2日(木)〜7月5日(日) 翻訳・訳詞・演出: 上田一豪 音楽監督: 小澤時史 主催: Cue Company 企画・製作: TipTap チケット料金: 11,000円(全席指定・税込) 公式サイト: https://tiptap.jp
日本版キャスト
水田航生(ポール・マシューズ役)はミュージカル『ウェイトレス』、舞台『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』、ミュージカル『マリー・キュリー』など話題作に立て続けに出演するミュージカル界の実力派。上田一豪演出の『リーファー・マッドネス』でもタッグを組んでいる。
屋比久知奈(エマ・パーキンス役)は『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役や『ミス・サイゴン』のキム役など、ミュージカル界の重要ヒロインを次々と担ってきた圧倒的な歌唱力の持ち主。上田一豪のオリジナルミュージカル『Play a Life』でも存在感を示した。
その他、ダンドイ舞莉花、小林遼介、美麗、鎌田誠樹、オレノグラフィティ、原慎一郎が出演。個性豊かなキャスト陣が揃う。
StarKid Productionsとは
StarKid Productionsは2009年にミシガン大学でDarren Criss(トニー賞受賞俳優)、Brian Holden、Matt Lang、Nick Langらによって設立されたアメリカのミュージカル劇団だ。ハリー・ポッターのパロディ『A Very Potter Musical』をYouTubeに無料公開してバイラルヒットを記録したことで知られ、以来すべての公演映像をYouTubeで無料配信するという独自モデルを貫いている。YouTubeチャンネルの累計再生数は3億4,000万回を超え、Billboardチャートに13枚のアルバムをランクインさせた実績も持つ。本作はStarKidの11作目の舞台作品であり、同劇団の「ハチェットフィールド・シリーズ」の第1弾に位置づけられる。
クリエイティブチーム(2025年リマウント版)
脚本はMatt Lang & Nick Langの兄弟コンビ。音楽・作詞はJeff Blim——本作でポール役を演じる俳優でもあり、作曲家・俳優・演出家の三役をこなすStarKidの中心人物だ。
2025年のリマウント版(Reprised!)の演出はLauren Lopez(本作でEmmaを演じる俳優でもある)。制作:Nick Lang & Brian Holden、音楽監督:Matt Dahan。
日本版の翻訳・訳詞・演出を手がける上田一豪は、アメリカのミュージカルの日本語版を多数手がけてきた演出家で、『リーファー・マッドネス』など小劇場ミュージカルの翻訳上演でも知られる。
あらすじ
ハチェットフィールドという小さな町。ミュージカルが嫌いな平凡なサラリーマン、ポール・マシューズの日常が一変する。謎の爆発を境に、町の人々が次々と意志を失い、突然歌い踊り出すようになったのだ。
「ミュージカル・パンデミック」に侵食される町の中で、ポールと仲間たちはかろうじて正気を保ちながら生き延びようとする。しかし感染した人々は強く、そして陽気だ。1956年のSFホラー映画『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』をモチーフに、ミュージカルという様式そのものをホラーとして使う逆転の発想が本作の核心だ。コメディとしての笑いと、じわじわと迫るホラーの恐怖が、ポップで中毒性の高いナンバーとともに展開する。
制作経緯
2018年の初演はKickstarterで目標額6万ドルに対して127,792ドルを集め、ロサンゼルスのMatrix Theaterで上演。同年12月にYouTubeへ無料公開されると口コミで広まり、現在960万回を超える再生数を記録している。ブロードウェイ・ウエストエンドとは無縁のインディペンデントな劇団が、配信のみで世界規模のファンベースを築いたという点で、ミュージカル史においても異例の存在だ。
2024年8月、キャストのJon MattesonがYouTubeのコメントでリマウントをほのめかしたことがファンの間で話題になり、翌2025年4月に正式発表。新たなKickstarterキャンペーンは目標額25万ドルに対して642,019ドル(9,578人)を5時間以内に達成するという驚異的な速さで成立。ロサンゼルスでの先行販売は10分で完売し、追加公演も即完売という熱狂ぶりだった。
2025年7月〜8月、El Portal Theatre(ロサンゼルス)でReprised!が上演され大成功を収める。同年11月、Lambert Jackson Productionsとの共同制作によるウエストエンド進出が発表。2026年5月14日〜30日、Apollo Theatre(ロンドン)でStarKid初のウエストエンド公演が進行中だ。
また、Reprised!のプロショット版が2026年5月4日にデジタル販売開始、YouTubeへの無料公開は2026年7月4日を予定している。
「Reprised!」の主なキャスト
ロサンゼルス版・ウエストエンド版の主なキャストは以下のとおり。
Jon Matteson(ポール・マシューズ役)、Joey Richter(ビル・ウッドワード役)、Jeff Blim(プロフェッサー・ヒドゲンス役)、Jaime Lyn Beatty(アリス役他)、Mariah Rose Faith Casillas(エマ・パーキンス役)、Corey Dorris(テッド役)、Lauren Lopez(シャーロット役他)が出演。ウエストエンド版では、プロフェッサー・ヒドゲンス役のみIván Fernández González(舞台版『13 Going on 30』でダリウス・マーク役を初演)が代わりに担当した。
見どころ・注目ポイント
① YouTubeとKickstarterで育ったインディー・ミュージカルという前例
ブロードウェイでも商業プロデューサーでも非営利劇場でもなく、Kickstarterと無料YouTube配信という方法で世界規模のファンを獲得したStarKidの存在は、ミュージカルの制作・流通モデルとして業界内でも異例の存在だ。25万ドルの目標に対して642,019ドルを5時間以内に集めた2025年のKickstarterは、そのファンベースの熱量を証明した。
② ミュージカルをホラーとして使うという逆転の発想
「ミュージカルが嫌いな男が主人公」「歌い踊ることが感染症の症状」という設定は、ミュージカルという様式に対するメタ的な批評であり、同時に純粋なホラー・コメディとして機能する。ミュージカルファンほど笑えるが、「そもそもミュージカルが苦手」という人こそ共感できるという逆説的な構造が本作の魅力だ。
③ ウエストエンド初進出という歴史的な一歩——現在進行中
YouTubeとKickstarterで活動してきたインディー劇団が、初めてロンドンの商業劇場(Apollo Theatre)に乗り込んだ。5月14日〜30日の厳選限定公演として現在上演中であり、2024年のロンドン・パラディアムでのコンサート(It's StarKid, Innit?)、2025年の同会場での公演(I Can't Believe It's Been A Little Less Than A Year)と続いてきた英国での熱狂がついにフルプロダクションとして結実した形だ。
④ 日本版は「翻訳ミュージカル」として完全日本語上演
劇団TipTapによる日本版は、StarKid本体の来日公演ではなく翻訳・上演権を得た日本語プロダクションだ。翻訳・演出は上田一豪、主演は水田航生・屋比久知奈という実力派コンビで、4日間限定・東京芸術劇場シアターウエストという小劇場空間での上演となる。原作のコンパクトな熱量がそのまま日本語で体験できる、貴重な機会だ。
⑤ 無料配信・Kickstarter・劇場公演——インディー劇団が作ったファンダムの形
StarKidはすべての公演映像をYouTubeで無料公開することを創設当初から続けてきた。本作もその例外ではなく、2018年の初演映像は公開以来960万回以上再生されている。Reprised!のプロショット版も2026年7月4日にYouTubeで無料公開される予定だ。
無料で観られるにもかかわらず、劇場公演のチケットは10分で完売し、Kickstarterは5時間で目標額の2.5倍を集めた。これはStarKidがコンテンツを「無料で配る」ことでファンを育て、そのファンが「生の体験にお金を払う」という循環を長年かけて作り上げてきた結果だ。ブロードウェイや商業プロデューサーに依存せず、Kickstarterで資金を集め、YouTubeでファンを獲得し、劇場で熱狂を生む——このモデルを独自に確立したStarKidは、ミュージカル業界の外側から業界の中心に近づいた稀有なカンパニーとして、日本を含む世界中のファンから支持されている。
参考:StarKid Productions公式 / Team StarKid Wiki / Wikipedia / Kickstarter / BroadwayWorld / atpress(劇団TipTap公式リリース)
