「第3号見直し」では救えない日本、社会保障論に欠ける”次の担い手”の視点
皆さん、こんにちは。村田雅志です。
経団連は4月13日、「税・財政・社会保障の一体改革」に関する提言を公表しました。
提言では、経済成長を通じて財政健全化につなげ、持続可能な税制や社会保障制度を築いていくべきだとする主張が示されています。また、少子化による人口減少が日本が直面する最大の課題の一つとしています。
社会保障に関する提言をみると、高市政権が設置した「社会保障国民会議」で以下の点を早期に検討すべきとしています。
◆第3号被保険者制度の見直しとさらなる適用拡大の推進
◆高齢者医療・介護の自己負担 の見直し
※他にもいくつかあります。
推測でしかありませんが、こうした提言は、Xでよく見かける次のような声を反映したものかもしれません。
「第3号はさすがに見直すべきだ」
「高齢者負担をもっと増やすべきだ」
「現役世代の負担を軽くしろ!」
しかし私は、今回の経団連の社会保障提言を、“現役世代支援論”と読んで終わってはいけないように思っています。
というのも、今、問われている日本の社会保障論は、
今いる大人の中で、誰がどれだけ負担するのか
という話だけではなく、
この国が、次の支え手を増やす制度を持てるのか
という話でもあるからです。
日本の社会保障の問題は、医療費などの負担論ではなく人口論です。
負担の話に見えるかもしれませんが、本当は国家の再生産の話です。
今回のコラムでは、経団連提言の踏み込みを確認したうえで、
今回の議論が不十分なものであると考える理由や、
日本の社会保障に本当に欠けているものは何かをご紹介したいと思います。
今回もぜひ最後までお付き合いのほどお願いいたします。
経団連は、もはや建前を隠さなくなった
今回の経団連の提言は、かなり踏み込んだ内容だと思われます。
高齢者医療・介護の自己負担について、所得だけでなく資産も含めて見直すべきと指摘しています。
第3号被保険者制度(会社員や公務員に扶養されている配偶者(専業主婦・主夫)が国民年金の保険料を自己負担することなく、保険料納付済期間として年金を受け取れる制度)について、
ついに「廃止も含めた見直し」を明記しました。
また、こうした考えを実現するために、給付付き税額控除やマイナンバーの徹底活用、医療・介護DXも一体で進めるべきと主張しています。
向かうべき視点がズレている
これは、昔から続いていた
「取れるところから取れ」
というだけの話ではありません。
「現役世代の保険料を上げ続けて制度を延命するやり方は、もう限界に近い。だから給付も負担も、制度設計そのものを組み替えろ」
という話です。
しかし、私は、この指摘は、不十分だよな、と思っています。
というのも、今回の提言では、議論の視点が、
今いる大人の中で、誰が負担するのか
という点に向かっているからです。
高齢者の負担を見直す。
第3号を見直す。
現役世代の負担を軽くする。
どれも必要なことでしょう。
しかし、日本が本当に直面しているのは、
分け方の問題だけではありません。
2024年の出生数は、68.6万人と過去最少を更新しました。合計特殊出生率は1.15で過去最低です。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、
2070年の総人口は、中位推計で8700万人、高齢化率は38.7%に達します。
低位推計だと、総人口は8024万人、高齢化率は42.0%まで進みます。
こうした現実を考えると、
分け方を変えたところで、
分ける人間そのものが減り続ける以上、制度は痩せる一方
ということです。
言い換えると、日本の社会保障改革は
持続可能化に向かっているのではなく、
縮んでいく中で誰に痛みを配るかの調整
に過ぎないということです。
第3号を見直しても人口は増えない
第3号を見直す。
高齢者負担を見直す。
こうした工夫も必要な時代となりました。
しかし、当然のことですが、こうした工夫をしたところで
それで人口が増えることはありません。
むしろ、こうした工夫が進むと、
少子化が加速する恐れもあります。
なぜなら、結婚や出産は、理念ではなく家計で決まるからです。
第3号を見直しても、
子育て期の世帯に新しい保険料負担だけが増えるなら、
結婚や出産のインセンティブは弱くなります。
高齢者負担を見直しても、
その財源が勤労世代全体に薄く配られるだけなら、
第1子、第2子、第3子を持つ判断は、ほとんど変わらないでしょう。
ここで重要なことは、
「現役世代支援」
という曖昧な言葉ではありません。
結婚したときに、家計はどう変わるのか。
第1子を持ったときに、可処分所得はどう変わるのか。
第2子、第3子で、税、保険料、教育費、住宅、時間制約はどう変わるのか。
そこまで制度として明示できるかどうかです。
ここを曖昧にしたままの社会保障改革は、
少子化対策になりません。
場合によっては、結果的に人口減少策になりかねません。
社会化する老後と私費化する子育て
日本の社会保障には、次のような根本的な矛盾があります。
日本は、老後の給付を社会化してきました。
年金もそうです。
高齢者医療もそうです。
介護もそうです。
しかし、その老後を将来支える次の世代を産み育てるコストは、
基本的に各家庭の私費で背負わせてきました。
子どもは、家計から見ると私事です。
しかし、制度の側から見ると違います。
賦課方式の年金も、
医療も、
介護も、
将来の支え手がいなければ成立しません。
つまり子どもは、
家庭の選択であると同時に、
制度全体の前提でもあるのです。
それにもかかわらず、日本は長い間、
老後の給付はみんなで支えるが、
子どもを育てるコストは家庭で何とかしてくれ
という形で制度を回してきました。
その結果、起きたことは、
子どもを多く持つ家計ほど、
住居費、教育費、時間制約、キャリア中断リスク
などを多く負うことになりました。
一方で、制度は、
子ども達が将来の支え手になる
という価値を十分に返していません。
日本という国で、長く放置されてきた
社会保障の真の問題は、
ここにあると私は思っています。
必要とされる「子どもを持つ側が報われる制度」
今の日本で求められることは、
現役世代全体を薄く助けること
「だけ」ではありません。
本当に必要なことは、
子どもを持つ側が
制度でも報われることです。
たとえば、給付付き税額控除を入れるなら、
中低所得の勤労層全般を支えるだけで
終わらせてはいけません。
子どもの人数に応じて、
家計の可処分所得が
明確に厚くなる設計にするべきでしょう。
経団連の提言でも、給付付き税額控除は、若者や現役世代を含む中低所得者の税・社会保険料負担の軽減を目指し、「年収の壁」が発生しないよう、社会保険料控除後の可処分所得が減らないように給付することが重要だ、としています。
第3号についても、給付付き税額控除の導入状況を踏まえつつ、廃止も含めた見直しを行うべきだとしています。
こうした提言の効果をより高めるためには、
第3号を廃止ありきとするのではなく、
子育て期の片働き、短時間就労、キャリア中断が、
そのまま家計破壊にならない仕組みを先に作るべきしょう。
高齢者の資産勘案負担を進めるなら、
その財源を勤労世代全体に薄く配って終わりにせず、
子育て世帯、とくに第2子、第3子を持つ世帯へ、
重点的に振り向ける制度にすべきでしょう。
そこまで踏み込んで初めて、改革は
今いる大人の負担調整
から、
次の支え手を増やす制度改革
に変わります。
日本人が本当に見るべきもの
以前、私は、インフレや円安が日本社会の中に新しい分岐を生むと書きました。
今回あらためて感じるのは、
そのさらに深いところに、
この国が自分で自分を再生産できる制度を持っているのか
という問題がある、ということです。
第二次世界大戦後の日本は、
人口が増えることを前提にしながら、
その果実をどう分けるかばかりを考えてきました。
しかし、次の支え手をどう増やすかという設計は、
驚くほど弱かったように思えます。
いま私たちが目にしているのは、そのツケです。
社会保障改革は、
第3号をどうするか、
高齢者にどこまで負担してもらうか、
医療や介護をどう効率化するか、
という論点だけで終わってはいけません。
本当に重要なことは、
その改革が
結婚を増やすのか、
第1子を増やすのか、
第2子、第3子を持てる中間層を増やすのか
ということです。
そこに踏み込めないのであれば、
表面上は改革のように見えるかもしれませんが、
実際は縮小の管理にすぎません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
皆さんは、これからの日本で
社会保障改革が本当に目指すべきものは何だと思われるでしょうか。
現役世代の負担軽減でしょうか。
高齢者負担の見直しでしょうか。
それとも、子どもを持つ側が報われる制度への転換でしょうか。
コメントで教えていただけると嬉しいです。
もし、今回の内容が「視点が増えた」と感じていただけたら、
記事へのスキ、と、noteのフォローをいただけると励みになります。
よろしくお願いいたします。
なお、私のXアカウントでは、
こうした“制度の設計変更が、日本人の暮らしや家計にどう跳ね返るか”
を、日々リアルタイムで追っています。あわせてご活用ください。
また次回のコラムでお会いしましょう。
村田雅志(むらた・まさし)
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