南鳥島レアアース泥は「赤字」?――技術革新待ちの「オプション料」という投資
2026年2月1日、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が小笠原諸島・南鳥島沖で、世界初のレアアース泥の連続回収に成功したという大変嬉しいニュースがありました。
ただ、選挙期間中のニュースだったこともあり、若干ひくほど様々な情報が飛び交っているため、私なりにわかりやすく解説していきたいと思います。
小野田紀美経済安全保障担当大臣の発表に対する反応
「将来的な産業化をしていくためには、このコストというのは非常に重要になってくると思いますけれども、経済安全保障の観点から考えて産業化がダメならそれで終わりなのか、産業的に成り立たなければそれで終わりなのかといったら、やはりそれは国家を守るための視点を持った行動をしていくべきだというふうに考えております。」
この発表に対して、
「採算が取れないならダメだろ」
「2013年にレアアース泥が見つかってから何年かかっているんだ」
という否定的な意見も見られました。
なるほど、「採算が取れずに時間がかかっても国防のために税金を使う」と解釈した人もいると感じました。そのため一つ一つ解説していきます。
一般企業のP/L(損益計算書)とフロンティア開発の損益の考え方の違い
私は会社員時代、「3年で単年黒字化」と教えられてきました。
「1年目は赤字でも構わんが、3年で結果を出せ」
3年目で黒字化していなかったら、事業縮小か廃止。
資金や人的リソースに限りがあるので、期限を切って判断することは重要だと思います。
しかし、国家規模の、しかも数十年単位のフロンティア開発にはこの考え方は当てはまりません。むしろ大きな成功の道筋を閉ざしてしまいます。
◆歴史上、無謀ともいえる赤字事業が世界を変えた
今では当たり前の巨大産業も以前は「狂気の沙汰」と言われていました。
例えば、海洋油田。

19世紀、海底から石油を掘るなど採算不明で危険すぎるとされましたが、数十年単位の投資を経て、世界のエネルギー構造を塗り替えました。
例えば、シェールガス。

当初、コストが合わず、採算性は「ゼロ」とまで言われていました。
しかし、米国政府による長年の支援と長期投資が水圧破砕技術の技術革新を呼び込み、最終的に米国をエネルギー輸出大国へと変貌させました(シェール革命)。
人が認知する仕組みとして、自分が知っていることに当てはめて判断するという性質があります。そのため、「巨大産業」を自分が知っている一般企業の基準に当てはめて考えようとしますが、そうするとこれらの巨大産業は生まれません。
◆非対称投資の数理: 損は限定的、得は無限大、シンプルに投資先として面白い。
投資の観点でみると「非対称投資」です。
解説します。
期待値Eを簡易的なモデルで表すと、以下のようになります。
E = (P × G) - L
P:技術革新(ブレークスルー)が起こる確率
G:成功時の利益(資源自給、輸出利益、経済安保上の価値など数十兆円)
L:投資額(数千億円規模の損失リスク)
たとえ、Pの成功確率が現時点で低くても、Gの成功時のリターンが圧倒的に大きければ、Eの期待値はプラスになります。失敗しても損失はLだけで、成功した場合は国家の覇権にも直結するため、投資対象として魅力的です。
ちなみに誤解されがちなのが、(レアアースの採掘だけ見て)「市場規模が小さい」という点です。レアアースの場合、下流に行くほど市場規模が大きくなります。
採掘よりも精製の住友金属鉱山、DOWA、三菱マテリアルなど。そして、永久磁石、EVモーター、風力発電、防衛産業のように製品になったほうが市場規模が大きくなります。そのため、恩恵を受けるのは信越化学、TDK、日立ハイテク、村田製作所などかもしれません。
端的に言うと、南鳥島レアアース泥は資源投資株ではなく、日本の製造業へのレバレッジ投資です。そのため、数十兆円になる可能性があります。
◆2030〜2040年の「タイムライン」をどう読むか
JAMSTEも
含有量分析や商業化はこれからで、2028年頃の見通しです。
と言っているように長期スパンで考える必要があります。
「明日から黒字」を目指すものではないため、時間軸を分けて考えます。
2030年まで(潜伏期): 採算は合いませんが、この期間の試行錯誤がデータという資産になります。
2030〜2040年(転換期): 揚泥技術や分離精製技術のブレークスルーが期待されるフェーズです。ここで「希望」が見えれば継続、なければ見直しという、段階的な判断を下す時期です。
2040年以降(収穫期): 技術が成熟し、地政学リスクを完全に切り離した「資源大国・日本」へと化ける可能性があります。
「資源」そのものより「技術のIP」に価値
真に注目すべきは、レアアース泥という「資源」ではありません。
「6,000mの深海底から効率的に資源を引き上げ、純度高く抽出するプロセス技術」そのものが、日本が握るべき最強のカードになります。
仮に南鳥島の資源そのものが枯渇しても、その分離精製技術さえ確立されていれば、日本は世界中の資源開発をリードする「技術覇権国」として、二重三重の収益源を得ることができ、日本の商社にも期待が持てます。
また、レアアース精製技術ですが、岩石から精製する技術は中国が特許を固めているものの、「泥」から精製する技術の特許まで持っているわけではありません。そのため、日本独自の技術になりうる可能性があります。
「オプション料」としての開発投資
結論を言えば、現時点では採算性のない投資でも全く問題ありません。
将来の技術革新(ブレークスルー)を引き寄せ、その果実を得るための『オプション料』を払っている状態です。
リスクのないところに、パラダイムシフトは起きません。
目先の採算ではなく、システム屋っぽく言うと「どの変数を変えれば化けるのか」を冷静に、そしてそれを楽しみながら取り組んでいくと、想像を超える当たりを引き寄せられるかもしれません😁
【2026/2/28追記】
Q: レアアースを精製する際に有害物質が出るといわれるが、岩石と泥では違うのか?
A: レアアースの鉱石には天然の放射性元素が不純物として高確率で混入しています。そのため、レアアースを取り出す際に放射性廃棄物が出ます。
また、化学薬品を使って分離するため、強酸や有毒ガスも出ます。
その他、重金属やフッ素も廃棄物として出ます。
鉱石と泥の違いですが、レアアース泥では放射性廃棄物がほとんど出てきません。また、常温で薄い硫酸で分離され(研究段階)、重レアアースが少ないため産業廃棄物が少ないのも特徴です。
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