怒りと悲しみ
わいわい、ざわざわ。
病棟内はいつもの通り。
いきなり笑いだすあの人も、怒りを制御できないこの人も。
いつもの通りに目が覚めて、いつもの通りに食事に来る。
面会の時父が言った、ここの人は競走馬のようだと。
感情が昂るとそれしか見えなくなる、極端に視野が狭くなる、と
声をひそめてそういう父が、どんな顔をしていたかは覚えていないけれど
少なくとも声は自信なさげで
私の様子をうかがうように冗談めかして少しだけ笑っていた
それにどう返したのか、実はよく覚えていない
同調したかもしれないし、受け流したのかもしれない
でも内心では動揺していた
確かに彼女たちはみな、心の底から怒っていた。怒りに支配されていた。
けれど落ち着くとこう言うんだ
「私のこと考えてくれないから」「面倒だと思ってるんでしょ」
その心の動きは真っ当で。ただ感じ方がゆがんでいるだけ。
深い悲しみが見えるから、つられて私も泣いてしまう。
感性はふつうなのに。
感度が壊れているみたい。わたしも、あのこも。
(2024年5月)
