5.私の日記【進まないボート】
遠くの杉林を眺めると、赤くたるんでいる枝も随分と少なくなって、そろそろ花粉も終わりが近いなと感じる。
今朝の通勤路では、車に轢かれたタヌキを2匹見かけた。
クマ以外に、タヌキも増えているのかな?
私は田舎で暮らしている。
風の変化とか、空気の匂い。
空模様や、木々の色付き。
そういう、移ろいゆくものに思いを馳せる時間が好きだ。
そろそろ、カレイ釣りのシーズンも終わる。
釣りの事を思うと、いちいち友達の事を思い出す。
高校からの付き合いだった。
私が膝を壊して山登りに行けなくなってた時期に、彼に釣りに誘われたことがきっかけだ。
それから、いつも一緒に釣りをするようになったんだ。
私の好きな事は、大体あいつが好きな事だった。
ニッカのフロンティアというウイスキーが発売した頃だった。
私はLINEで、
フロンティア購入したぞ!
と報告した。
いつもなら、半日と置かずに返事が来るのに。
1日経っても、2日経っても、1週間経っても返事がこない。
彼の暮らすアパートを訪ねても不在で、私は手紙をポストに投函して、帰宅した。
手紙には、私の名前と、電話番号を書いた。
スマホが壊れて、連絡が出来なくなったのかも、と考えたからだ。
その翌日、知らない番号から電話が来た。
彼からかな?
と期待したが、実際には、彼の父からだった。
亡くなったんですよ。
と告げられた。
うっすら、そんな気がしてたんだ。
季節が変わっていっても、悲しみは消えない。
なのに景色は変わっていって、記憶も鮮明ではなくなりつつある。
私は言葉にできないくらい静かな気持ちになって、時々、全て捨ててしまいたくなる。
移ろいゆくものは美しく、そして寂しい。
杉の木が緑色に変わったら、ボートでヒラメを釣りに行こう。
今度は私一人だけど、仕方ないよね。
