17.何でもない日記【ノイバラはまだ明日を知らない】
雨をたくさん蓄えた雲は、夕方の空にぶら下がった。
西の太陽が私たちを照らす。
暖かくて湿った風は、私たちにまとわりついては去っていった。
4歳のお姉ちゃんは、踏み込むとピカピカとライトが光るサンダルを履いて、春と夏の隙間を駆けていく。
新しいサンダルは少し大きかった。
暑くなる頃には、今より大きくなると思ったから。
お下がりのサンダルを履いた、2歳の妹。
お姉ちゃんを懸命に追いかける。
昨日から熱があって、保育園をお休みしてた。
だからどうしても、お姉ちゃんを追いかけたかったんだ。
まだピカピカ光らないサンダルの事なんて、何にも気にしない。
お姉ちゃんは、少し離れた先頭を歩く。
妹は少し遅れて走っていく。
そして私は、一番うしろ。
本当は君たち二人のすぐ側にいたいのに、お姉ちゃんは夏が待てなかった。
振り返らずに進んでいく。
だけどきっと、これで良いんだね。
少し危なっかしくて、でも時々、しっかりした顔をする。
そして駆けていく。
自由と制限の隙間に。
すると、2歳の娘が足を止めて、こちらに振り返った。
疲れた顔。
少し下がった瞼。
熱がまだあるんだ。
お姉ちゃんを追いかけたいその気持ちに、小さな身体は付いてこれなかったみたい。
何も言わず、求めるように私を見るから、
「抱っこしようね。」
と伝えて抱っこした。
ひしっと身体に捕まり、わたしの肩にコテッと頭をもたげる。
楽しい気持ち、苦しい身体、その隙間を往復して、最後は私に全てを預ける。
私たちは、お姉ちゃんの背中を追いかけた。
ふと、道の途中、木々の隙間に咲く白い花。
たくさんの蕾はきっと、明日咲くんだ。
これはなんという花だろう。
私がそう考えていると、少し先で、お姉ちゃんが転んだ。
聞こえてくる泣き声。
私は駆け寄る。
頭を撫でて、サンダルのマジックテープをキュッと締めてあげる。
やっぱり、まだ少し大きかったね。
『痛くてもう歩けないよー!』
二人とも抱っこしてあげたかった。
少しの時間なら出来るけど、まだ、家は向こう側。
「2歳ちゃん、一回降りてくれる?」
妹は、嫌がりもせずに降りた。
そして、お姉ちゃんの頭を撫でてあげた。
「あっちにお花が咲いてたよ、見に行こう。」
そう言って私は、お姉ちゃんを抱っこする。
歩き出すと、すぐ後ろをついてくる妹。
思ったより強いんだ。
花の前で足を止める私たち。
お姉ちゃんが言う。
『このお花は取ってもいい?』
花を眺めると、茎には棘がある。
この子には、まだ少し早いかもしれない。
「パパが棘のない所を取ってあげる。」
二人の娘に、一つずつの花。
「帰ったら、名前を調べてみよう。」
お姉ちゃんを抱っこして。
妹の手を繋いで。
歩いてきた道を引き返す。
『あ、2歳ちゃんのお花が落ちたよ!』
お姉ちゃんがそう教えてくれても、妹は振り返らない。
「もういらないの?」
妹は、
『いらない!』
って言った。
私は、花の名前を調べる。
ノイバラ。
春と夏の隙間に咲いたバラの花。
子ども達は、まだ私の側にいる。
幼い君たち。
今は蕾で良い。
明日を知るのは、まだ少し早いから。

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