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トヨタは「日本株の王者」ではなくなるのか円安でも自動車株が買われない本当の理由

かつて日本株を代表する企業といえば、真っ先に名前が挙がるのはトヨタ自動車でした。

円安になれば海外で稼いだ利益が膨らみ、輸出企業である自動車メーカーの株価も上がる。

長い間、これは日本株を考えるうえで分かりやすい成功パターンの一つでした。

しかし、今の市場では、その常識が通用しなくなりつつあります。

円安が進んでいるにもかかわらず、日本の自動車株は買われていません。

問題は為替ではありません。

投資家が見ているのは、日本の自動車メーカーがこれからも世界市場で勝ち続けられるのかという、より根本的な問いです。


円安なのに、自動車株だけが沈んでいる

報道によると、東京証券取引所の自動車を含む「輸送用機器」指数は、中東での武力衝突が始まって以降、約18%下落しました。

世界の主要株価指数が上昇するなかで、日本の自動車株は反対方向に動いていることになります。

業績見通しも厳しいものです。

日本の輸送用機器セクターの1株当たり利益は、前年比で19%減少すると予想されています。一方、TOPIX全体では約15%の増益が見込まれています。

つまり、自動車産業は日本企業全体の成長から取り残されつつあるのです。

数字だけを見れば、円安は自動車メーカーに大きな追い風です。

仮に1ドル=160円を超える円安が続けば、日本の主要自動車メーカー7社の営業利益は、為替効果だけで年間約9,000億円押し上げられると推計されています。

それでも株価が上がらない。

ここに、現在の日本自動車産業が抱える問題の本質があります。


市場は「円安で増えた利益」を信用していない

円安によって増える利益は、企業の競争力が高まった結果ではありません。

海外で得たドル建ての利益を円に換算したとき、数字が大きく見える効果です。

販売台数が増えたわけでも、利益率が改善したわけでも、新しい市場を獲得したわけでもありません。

だから市場は、円安による増益を企業価値の根本的な改善とは評価しにくいのです。

むしろ投資家が警戒しているのは、為替という追い風がなければ、日本の自動車メーカーはどれほど利益を残せるのかという点です。

円安が利益を支えている間に、中国メーカーは販売台数と市場シェアを伸ばしています。

昨年の世界新車販売では、中国ブランドが初めて日本ブランドを上回り、世界首位に立ったと報じられました。

これは単なる販売ランキングの逆転ではありません。

世界の自動車産業で主導権が移り始めた可能性を示しています。


中国メーカーが奪っているのは「販売台数」だけではない

中国メーカーの強みは、単に車が安いことではありません。

バッテリー、ソフトウェア、車載半導体、デジタル機能まで含めた電気自動車の供給網を国内に構築し、開発から量産までの速度を高めています。

その結果、価格を抑えながら新型車を短いサイクルで市場に投入できます。

一方、日本メーカーはエンジン車とハイブリッド車で築いた巨大な生産設備、販売網、部品供給網を抱えています。

これらは長年、日本企業の強みでした。

しかし、産業の中心がエンジンからバッテリーやソフトウェアへ移る局面では、過去の強みが変化を遅らせる要因になることもあります。

日本メーカーに技術がないという話ではありません。

問題は、電気自動車の市場で価格、開発速度、販売規模を同時に実現できるかどうかです。

市場はまだ、その答えを確認できていません。


トヨタが失ったのは時価総額1位という「象徴」

この変化を象徴するのが、トヨタの時価総額です。

長く日本企業の頂点に立っていたトヨタは、最近では三菱UFJフィナンシャル・グループやキオクシアホールディングスなどに時価総額首位の座を明け渡したと報じられています。

TOPIX全体に占める自動車株の時価総額比率も約5.6%まで低下し、2000年以降で最低水準となりました。

自動車セクターのPBRも約0.9倍にとどまり、市場全体の平均を大きく下回っています。

PBRが1倍を下回るということは、簡単にいえば、企業が保有する純資産よりも低い価値しか市場から認められていない状態です。

工場、技術、ブランド、販売網を持っているにもかかわらず、それらが将来の利益につながると十分に評価されていません。

これは単なる割安状態なのでしょうか。

それとも、産業構造の変化を織り込んだ結果なのでしょうか。

現在の自動車株を見るうえで、最も重要な分岐点です。


それでも、日本車がすぐに終わるわけではない

もちろん、日本の自動車メーカーを電気自動車への対応が遅れたという理由だけで切り捨てるのは早計です。

トヨタをはじめとする日本企業は、ハイブリッド車、製造品質、部品調達、世界規模の販売・サービス網で依然として大きな基盤を持っています。

原材料価格や充電設備、電力供給の問題から、世界のすべての地域で電気自動車が同じ速度で普及するとは限りません。

市場環境によっては、ハイブリッド車が想定以上に長く選ばれる可能性もあります。記事でも、原材料の調達不安などを背景にハイブリッド車が恩恵を受ける可能性が指摘されています。

重要なのは「EVか、ハイブリッドか」という単純な二択ではありません。

ハイブリッド車で利益を稼ぎながら、その資金を次世代電池、ソフトウェア、電気自動車の量産体制へ移せるか。

日本メーカーに問われているのは、この移行を利益を壊さずに実行する経営能力です。


日本の自動車株が抱える3つのリスク

第一のリスクは、中国市場での価格競争です。

中国メーカーが低価格車を次々と投入するなかで、日本メーカーが販売台数を守るために値下げを続ければ、利益率が低下します。

第二のリスクは、電気自動車への投資負担です。

電池工場、ソフトウェア、人材、車両開発には巨額の資金が必要です。しかし投資を増やしても、十分な販売規模を確保できなければ収益化は遅れます。

第三のリスクは、円安への依存です。

現在は円安が利益を支えていますが、為替が円高方向に動けば、業績の弱さが表面化する可能性があります。

円安が続くことを前提に自動車株を評価するのは、企業の競争力ではなく為替相場に投資することに近くなります。


次の決算で確認したい3つの数字

日本の自動車株が本当に割安なのか、それとも構造的に評価を下げられているのか。

次の決算では、少なくとも以下の3点を確認する必要があります。

1.中国を含む地域別の販売台数

世界全体の販売台数だけではなく、中国や東南アジアなど、中国メーカーとの競争が激しい地域でシェアを守れているかが重要です。

2.為替効果を除いた営業利益

円安による利益の押し上げを除いた場合でも、価格改定や原価削減によって利益を増やせているかを見る必要があります。

3.EV投資と販売台数の進捗

電気自動車への投資額だけでなく、その投資が実際の販売台数、稼働率、利益率につながっているかを確認すべきです。

この3つの数字が改善しなければ、円安によって決算上の利益が増えても、市場の評価は変わらない可能性があります。


日本車は「輸出産業」から何に変わるのか

これまで日本の自動車メーカーは、高品質な車を国内でつくり、海外へ輸出する企業として成長してきました。

しかし現在、投資家が求めているのは、円安で利益が増える輸出企業ではありません。

バッテリー、ソフトウェア、データ、エネルギーまで含めて、次の移動産業を設計できる企業です。

トヨタが再び日本株の王者として評価されるかどうかは、次の四半期の利益だけでは決まりません。

ハイブリッド車で築いた現在の強さを、電気自動車時代の競争力へ変換できるか。

日本の自動車株が失ったものは、時価総額1位の座だけではありません。

「円安になれば、日本車は再び勝てる」という市場の信頼です。

そして、その信頼を取り戻すために必要なのは、さらに安い円ではありません。

販売台数、利益率、そして次世代車への移行を示す、具体的な数字なのです。

※本記事は公開情報をもとに企業と産業の変化を考察したものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。

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