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カクテルと余白:40【青本の中の砂漠④】Season4

『星の王子さま:サン=テグジュペリ』
D'après "Le Petit Prince" d'Antoine de Saint-Exupéry  より

🍸前回のお話しはこちら🔽

🎼🎹今回のテーマに合ったBGMをみつけて参りました。宜しければ、お聴きになりながらお読みください。🔽

✏️  She Works Hard for the Money
(作詞・作曲 )
ドナ・サマー
マイケル・オマーティアン
( 歌 )
ドナ・サマー

🍸🍸🍸
 その奇妙なラジオの事件があった翌日、サキは早朝から予備校の授業に出席していた。

彼女が通うのは医学部受験生専門の「横山予備校 横山校」である。

この予備校は午前部と午後部に分かれている。
特に午前部は、入会時に厳格な選抜試験が課され、その難易度は一流大学の入試に匹敵すると言われていた。

さらに横山校舎の午前部は『理Ⅲα』と『理Ⅲβ』の2コースに細分化され、それぞれAクラスからDクラスまでの4クラスで構成されている。

サキは理ⅢαCクラス
座席はちょうど真ん中ぐらいだった

 1クラスには実に300人もの生徒が押し込められていた。

座席は成績順に配置されており、自分より左の席に座る者は成績が上位、右の席は下位を意味する。

全ての座席が4人掛けの長椅子であるため、まさに寿司詰め状態だった。

そのため、授業中にトイレへ立つ時などは、同じ椅子に座る3人の同級生に一度立ち上がってもらわなければならず、座席には男女の区別など一切存在しなかった。

机も1人分のスペースが極端に狭く、ノートを普通に広げて置くことすらままならないため、常に半分に折りたたんだ状態で使う必要があった。

荷物は全て椅子の下に入れるか、膝の上に置いた。

ちなみに、コース名に『理Ⅲ』と冠されているのは、東京大学医学部が『理科Ⅲ類』を名乗ることに由来している。

サキの前期は、理ⅢαのCクラスからのスタートだった。
この後夏休み後に、クラスも座席も成績順に総入れ替えになる。

授業は1コマ50分。それぞれ10分の休み時間を挟み、午前中に4コマが展開される。

英語・普津井 師

しかし、教壇に立つ講師陣の多くは、受験界で名を馳せる超有名講師ばかりだった。

その多くは大学の教壇でも教鞭を執っており、今まさに授業を行っている英語の普津井師も、明治学院大学で教授の地位に就いている人物である。

緊迫感の漂う教室に、彼のダミ声が響いた。

「はい……7行目……だな。えーと。

Someday, my prince on a white horse will come and take me away to his castle.

--いつか……白馬に乗った……王子様が現れて……私をお城に連れて行ってくれるの……」

三百人もの生徒たちは、一言半句も聞き漏らすまいと耳をそばだて、必死にノートへと書き写していく。

しかし次の瞬間、「…………」と普津井師は突如として沈黙した。

生徒たちは「???」と訝しげに顔を見合わせる。
英文は、取り立てて難しいところではない。

その謎の沈黙のあと、師は目玉をギロリとひん剥いて天井を見上げ、突如として絶叫した。

「来ねえええええ!!」
教室内が一瞬にしてザワついた。

「来ねえ!!来ねえよ。『白馬の王子』だあ?……来ねえんだよ、そんなもん!」

すかさずクラス全体が怒涛の爆笑に包まれる。

「そんな、てめぇに都合のいいもん、来る訳がねぇ!」
普津井師はなおも絶叫を続ける。

「来ねえったら来ねえんだ。
いいですか?!特に女子!!」

さらなる大爆笑が沸き起こった。
「白馬に乗った王子……来ません。
いいですね?!」

サキも周囲の生徒たちと一緒に腹を抱えて笑い転げた。

名物講師の授業に爆笑
左右の座席は、このぐらい近かった。

「だから、待っていてはいけない。
特に女子!いいか?!先に白馬に乗るのは君たちの方だ。
そして、自ら馬を走らせて、王子をかっさらうんだ!」

🍸🍸🍸

🎼🎹このエピソードのイメージBGMです。宜しければお聴きください。

✏️ It's Raining Men
(邦題 : ハレルヤハリケーン)
( 作詞・作曲 )
ポール・ジャバラ
ポール・シェイファー
( 歌 ) 『ウェザーガールズ』
マーサ・ウォッシュ
イゾラ・アームステッド

🍸🍸🍸

   凄まじい爆笑がようやく収まるのを待ち、普津井師は何事もなかったかのように無表情のままテキストに目を落とした。

「それで……と。
次の文だが……仮定法のifの省略形だが……ま、いいな?

和訳いらないな?簡単だろ?
こんなもん。どうせ、お前たちには。
じゃあ省略という事で……」

驚くべきことに、本題の英語の解説には殆ど触れない。しかし、生徒は誰一人として怒り出すことなどなかった。

確かに、このレベルのクラスになればテキストの直訳などは、全員が受講前の予習の段階で既に理解していたのだ。

むしろ生徒たちが求めていたのは、この師の授業で語られるような、文章の背景にある刺激的な文化論であり、それこそが最高に新鮮で面白かったのである。

師の教えを忠実に守るサキ

🍸🍸🍸
 予備校で授業の復習や自分で選んだ問題集の演習をこなし、気がつけば時計の針は17時を回っていた。

サキは参考書を詰め込んだトートバッグを肩にかけ、急坂の上にある校舎を後にした。

予備校前の急峻な坂道に設置された専用エスカレーターを降り、国鉄横山駅へと向かう。

駅のキヨスクを通り過ぎる際、棚に並んだタブロイド紙の扇情的な大見出しが、否応なしに目に飛び込んできた。

『政府、4%の売上税導入案を提出。
荒れる衆院。野党、牛歩戦術で徹底抗戦の構え』

サキはその場に立ち止まり、思わず小さく溜息をついた。

夕方のキヨスクには
タブロイド紙が華やかに並んだ

「国会……茶番だなあ。売上税。
コンサンプショナル・タックスかあ」

口に出すと、奇妙な無力感が喉を焼いた。

「賛否は別として、そこだけを見るならば一見、公平な徴税に見えるけれど、実は私たちの世代を直撃するだけじゃない?

消費意欲も、労働意欲もブレーキがかかる。本当に税収アップに繋がるのか?

導入するなら、原理的には所得税減税や福祉問題など、セットで議論すべきことが沢山あるでしょう?

それすら曖昧なまま、いきなりツケをこっちに回す気なの?」

怒りが腹の底から突き上げてくる。
結局、上の世代は自分たちの都合ばかりで、後の世代のことなんて何一つ考えていない。

彼らは一体、何をしているのだろうか。

その最たる例が共通一次試験だった。そもそもコンピューター採点導入の経緯自体、実施する大人たちの都合が優先されており、受験生側への配慮は微塵も感じられなかったのである。

それも時代や運営上の都合と言えばそれまでかもしれないが、サキにとって到底許しがたいのは、共通一次試験が、あたかも受験生のための理想的な制度であるかのように、一部の大新聞が元文部大臣を論壇の前面に担ぎ出し、実態とは乖離した美辞麗句で塗り固めたことだった。

皆で微笑み合える未来になるのだろうか

「でも……」
と独りごちて、サキは再び足を進めた。
ふと脳裏をよぎったのは、今の大人たちへの憤りだけではない。

「私たちの世代もまた、いずれ自分たちがそうしたように、次の世代から冷めた眼差しで裁かれていく運命にあるのだろうか……」

という、逃れようのない歴史の連鎖に対するやり場のない空虚さが、彼女の心を静かに満たしていった。

そもそも……自分で思いついた『世代』って何だろう?

赤坂OLD TIME

🍸🍸🍸
🍒「あら?誤植発見!『キヨスク』になっているわよ。『キオスク』の間違いでしょう?」

🥕「ふふっ🎵ひっかかっりおったか。
東京のエリアで『キヨスク』が現在の『キオスク』になったのは2007年だ」

🍒「えーー?知らなかった」
🥃「それだけ若いということでしょう?」
🍒「あら嬉しい」

🥕「物語のディテールにこだわっている私も褒めてほしいな」
🍒「はいはい。ウサギさんの割には長生きして偉いわね。物知りだし」
🥕「誰がウサギじゃい?」

🥃「当事者の方々には失礼な言い方になりますが……。
こと私に限っては『キオスク』は、何かいつの間にか名前が変わっていた……というイメージです」

🍸🍸🍸
🎼🎹このシーンのイメージBGMです。
宜しければお聴きください。

✏️ Eye In The Sky
( 作曲・作曲・歌 )
アラン・パーソンズ・プロジェクト
アラン・パーソンズ
エリック・ウールフソン

🍸🍸🍸
 夜。西新宿のサキのマンション。
帰宅後の入浴と食事を済ませると、サキは愛機『クーガ』の前に座り、昨晩耳にした不可解なやり取りの真意を探るべく意を決して電源を入れた。

今夜のインジケーターは昨晩のような異常な挙動を示すこともなく、鈍くも頼もしい光を放っている。

周波数ダイヤルを慎重に回し始めると、スピーカーからは砂嵐のようなノイズと共に各地の電波が交錯し、やがて東京エリアのAM放送がクリアに流れ出した。

昨晩の少年はいったい何者だったのか、悪戯だとしてもその技術的なトリックがどうしても見抜けない。

思考まで読んだ?
形ばかりか色までも……
そして薬であることも言い当てた!

なぜ?!どうやって?

トリックを見破ってやる!

📻📻📻
AMのチャンネルは、プロ野球のナイター中継を拾い当てた。

「……読臣ゼネラルズ、ピッチャー江戸川、第2球を投げました。バッター若杉見送って、ボール……」

サキはその放送に耳を塞いだ。
今年はプロ野球を完全に封印すると心に決めているのだ。

聴きたいという誘惑に勝たねば。
運悪く引き当ててしまった野球中継という現実に、サキは小さく溜息をついて、急いでラジオのバンドを変えた。

AM放送からFM放送へ。FMならば野球中継は無いだろう。

しかし、FM放送からも聴こえてきたのは、皮肉にもプロ野球の中継だった。

「FM・シティTOKYOが、ゼネラルズ戦とは言え、この時間帯に野球中継なんて……珍しいこともあるものね」

サキは不審に思いつつも、そのまま耳を傾けた。

📻📻📻
「左バッター若杉……打ちました!
大きい……
外野手は一歩も動かない。

入った。ホームラン!

名門・北海高校出身。留萌生まれ。
道産子の若杉!!

旭川市営球場を埋め尽くした地元のファンに、首位打者の技を見せつけました。まさに故郷に錦です!」

⚾️実況の背後で、熱狂するファンの嬌声が重なる。

「きゃあ、やったあ。なんてラッキー。ちょうど若杉様のホームランを聴いちゃった!」

サキがシーガルズを熱心に応援するようになったのは、この若杉という選手を知ってからだった。

誰からも尊敬される、いかにも道産子といった柔和で誠実な人柄を保ちながら、打席に立てば野獣のような眼光で投手を威圧する――その強烈なギャップこそが、彼女にとって何よりの魅力だった。

「でも……今夜の試合は北海道の旭川だったのね」
サキは呟いた。

「行きたかったな……」

そこは、その数年後にご当地が誇る大投手、スタルヒンを記念して『スタルヒン球場』と名前が変わることになる、北の大地の美しいスタジアムだった。

サキは以前から北海道に憧れを抱いていた。
そして、旭川市営球場は、いつか必ず訪れてみたい、夢の一つでもあった。

〈スタルヒンよ永遠に〉

📻📻📻
「おっと……ここでゼネラルズ、藤元監督がベンチから出て参りました。

どうやらピッチャーの交代のようです。それでは少しの間、マイクをスタジオに戻します」

スタンドの歓声が遠のき、スピーカーの向こう側から淡々とした女性アナウンサーの声が切り替わる。

📻📻📻
「今日、衆議院で与党・太陽党は、売り上げ税4%案を提出しました……」

昨今の政治情勢を伝える硬いニュースに、サキは、
「もういいわ……その話題は」
と小さく溜息をついた。

ラジオのチャンネルを切り替えようとダイヤルに指をかけた瞬間、魅了的な男性の野太い声のCMがスピーカーから流れ出した。

📻📻📻

世界が認めた北海道の地酒。
正統の味・伝統の名酒 『男山』。
このナイター中継は、
旭川・男山株式会社✊の提供と……。

(注)ホントに美味い!
無断でCMしてます。すみません。
だって美味いんだもん……


📻📻📻
(夜汽車の汽笛が遠ざかっていく)
窓の外には、静かに降り積もる北国の雪。⛄️

温かいコーヒーの湯気が、ふわりと立ち上る。☕️

そんなひとときに、そっと寄り添う甘い記憶。

北海道の冬が運ぶ、贈りもの。
   『白い恋人』石屋製菓🌹

……と、札幌・石屋製菓株式会社の協賛でお送りしております。

(注)ラング・ド・シャアです。
ホントに美味い
無断でCMしてます。すみません
だって美味しいんだもん。
石屋製菓が運営する札幌・白い恋人パーク
ぜひ一度お訪ねください
勝手にCMしてすみません!
ホントに素敵なところです

🍸🍸🍸

「あら?北海道の一流企業が、東京のFM放送のスポンサードをしているわ」サキはふと漏らした疑問をそのまま喉の奥へと飲み込んだ。

FMのスポンサーは、地元限定が普通だからだ。

満天の星を臨む北の都の夜を彩るはずの、軽快な北海道のCMが彼女の鼓膜をくすぐる。

だが次の瞬間、ラジオの鮮明な囁きを耳にした彼女の全身が、一瞬で氷点下の嵐に晒されたかのように凍りついた。

スピーカーの奥から流れて来たのは、CM音声に代わった、透き通るような女性のスキャットだった。

🎵Luu🎵Lu Lu RaRa〜🎵Rera!
北の風が運ぶメッセージ🎵

それはまるで北の深淵から響く誘いのように空気を震わせ、続いて無機質なアナウンスが冷たく告げる。

「お聴きの放送は、
北海道・旭川市民エフエム『Rera』
周波数80.4MHz

その無機質なアナウンスが耳を突いた瞬間、

「えっ!!!!!!」

とサキは喉を引き絞るような叫び声を上げた。

「エフエム波?!メガヘルツ?!」

先ほどまで都会の夜を彩る、お洒落な東京のFM局のラジオナイターだと信じきっていた放送が……

東京から970キロという、遥か遠い北海道旭川の局から、物理的な距離を完全に無視し、サキのラジオに直接届いていたのだった。

そんなはずは……

 通常、数10Km程度だけを伝播するFM放送の電波が、何百キロもの彼方から届くはずなど、物理学的にあり得ないのだ。

「FMが……?!この周波数で?!
超短波なのに……
そして……この番組は、明らかに過去の録音ではない。ナマ放送よ。

でも、短波放送でもないのに、どうしてここに届くのよ!?

あり得ないわ……。
だって……地球は丸いのよ。

FMの電波は丸い地球を飛び越えて、地平線の向こうへ消えるはずなのよ!」

彼女の絶叫を嘲笑うかのように、スピーカーからは依然として北の街からの熱戦の中継が届いている。

FM電波が届くはずのない、遠い北の大地の残響が、東京の静寂を侵食し、彼女の鼓膜を氷のような恐怖で満たしていった。

「なぜ……?どうやって?」

【青本の中の砂漠⑤】はこちら🔽

(服装デザイン協力……Ms.いちか )
(ダイデン大佐作画……ひがし りょう

家庭平和維持軍
ラインハルト・ダイデン大佐

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🌐 公式ホームページ
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無限堂は、電話・メール等による勧誘は一切行っておりません。

📸 公式インスタグラム
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無限堂は、電話・メールによる勧誘は一切行っておりません。

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