いぬがしゃべりました ⑰【初コンタクト】
「ある日突然、イヌがしゃべった!なぜ?」
中2女子 桃々と犬のサトーさんが、謎を解明するふしぎな3年間。
「犬と話したい」と夢見る方にお贈りする。冗談みたいなお話です。
(※第1話へ)
<第17話>「初コンタクト」
ようやく部屋から出てきたサトーさんは、
驚くことにニュースで登場した『AI犬ライカ』と話すという。
「ショックだったかもしれないけどさ。まだあんたが同じAI犬かどうかわからないんだから。あんまりさ、気にしないで…。」なんて慰めたら、
「ニュースで知ってたよ。」
「へ?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってません。」
キッチンのステンレスの縁に飛び乗り、器用に前足で蛇口を起こして、流れる水をペロペロなめた。
「古いネット記事でね。驚いたな、もう完成か。実際にしゃべる姿を見るのは初めてだ。」
「どうしてあのワンちゃんと話したいの?」
トンと蛇口を閉じ振り向くと、好奇心にあふれた顔。
「興味があるんだ。僕と関わりがあるのか?検証してみた。」
目の前にすたっと舞い降りて、分析する。
「ライカと僕とは喋り方に違いがありすぎる。成長のプロセスも違う。自分がAIだとは考えにくい。」
「だがしかし…、」
真剣な眼差しで「無関係とも言い切れない。いわゆる " 悪魔の証明 " さ。」
「あんだって?悪魔?」
「0%” ない " ことを証明するのは究極的に難しい、ってこと。」
サトーさんは、人の手で作られたのか?
だとしたらあの会社が?それともほかの誰か?一体何の目的で?
…謎は深まるばかり。
「だからライカと会話する。なにかヒントが得られるかも。」という。
「簡単に話せるわけないじゃん。」
「抽選で当たった。正確に言うと、当てた。」
「当てた?」どういうこと?
「ほら、こっち来て。」
サトーさんの部屋で見せられたPC画面には、あの『ネオ・サピエンス研究機構』のホームページ。そこにはモニター募集の文字が。
もにたあ?
「抽選で選ばれた人がリモート通話で話せる。」
「なんのために募集してんの?」
「AI犬ライカの会話機能をレベルアップさせるのが目的だってさ。」
ナチュラルな会話を学習するために多くの人と話す経験をさせたいらしい。
そうは言っても、人気がありすぎてアクセスが殺到。ライカにストレスを与えないための配慮で、1日に5分、たった1組だけの狭き門だという。
「そんなの当たるわけ…。」私は否定的。
「応募する時、プロフィールを完璧な優等生キャラに仕上げといたからね。設定としては、 " 都内の中学生。趣味はサッカーとプログラミング。週に3回ボランティア活動サークルで、小学生向けの学習支援や高齢者施設での交流を行なっている。"」
「うまいこと言うね。大人が喜ぶやつ。」
「AIチャットに200通り考えさせたうちの1番それっぽいのにしたから。」自慢げにヒゲをひとなめする。
「だけど即バレするよ。あんたが犬だってことは秘密なんだから。」
「大丈夫。桃々ちゃんの名前にしといたから。僕の代わりに話してよ。」
「なるほどぉ」
…ん? 「…って違うやろ!勝手に何やってんの!バレたらどうすんのさ。あたしボランティアもサッカーもやってないよ。」
「調べられてもバレはしないよ。見てごらん。」
と涼しい顔でPCマウスを手繰る。
ん?うちの学校のホームページ?
よく見ると、なぜか私がサッカーボール片手に子どもたちに勉強を教える写真が。
「私こんな写真撮った覚えない!」
「ハッキングして描き足しといた。今どきスマホでも合成できるよ。これくらい。」
「手回し鬼早!あんたねえ、すぐに消しなさい!」
「真実に迫るときがきたぞ!よーし!」
サトーさんは無邪気に興奮して部屋をグルグル回りながら、一緒にリモート通話をやると意気込んでいる。イスに飛び乗り、カメラ前にちょこんと座った。
「ダメダメ。あんた犬じゃん。その姿さらすつもり?大事件だよ。世間がぶっ飛ぶよ。」
「わかってるさ。」
ニヤニヤ笑いながらフレームから外れ、私に挑発的な横目を使って言った。「じゃあ…どうする?」
「あんたわざと…。」
やられた。こいつめ。もう覚悟を決めるしかない。
「あーあー分かりましたよ。私が話す!」
とにもかくにも、ライカと話しをする機会が思いもよらず舞い込んだ。
これで何かわかるかも。もしかして、サトーさんの正体と関係あるの?
彼がどこから来たのか?なんのために生まれたのか?ついに秘密が分かるかもしれない。

「おっと予約の時間だ。」
サトーさんは手際よく会話専用アプリをダウンロードする。
パソコン画面には最初に注意表示が出てきた。なになに?
” 私たちの目標は、システムを改善しより安全にするために、皆様からのフィードバックを得ることです。"
ずいぶんと仰々しいな。えっとそれから…
" アシストAIチャットボットが会話を補助することがあります。"
どういうこと?よくわかんないけど、ええいっ!と『OK』をクリック。
しばらくくるくる起動マークが踊ったあと、ざらついた画像が灯り、影が浮かび上がった。
あの犬だ!
ニュースで見た賢そうな長い鼻。画面越しでも毛並みの良さが分かる。サトーさんと比べて一回り以上大きい上品な犬。
キョロキョロ落ち着きがない。カメラの匂いを嗅ごうとしているのか、鼻がドアップになった。
『コンニチハ。』
(うわっ、うわっ、しゃべったよ!)
私が動揺して思わず逃げ、画面から外れると、
サトーさんに頭で押し戻された。
(しっかりしてよ。しゃべる犬は僕で慣れてるだろ。)とコソコソ。
「あ、あ、あの、私、桃々っていいます。初めまして。」
(なに緊張してんのさ。)
(サトーさんうるさい。黙ってて。)
『ワタシ、ライカ。』
好奇心にあふれてキョロキョロしている。
「あ、ライカさん。えっと………えへへ。」
私は情けなく愛想笑いするしかない。
(なんか話しなよ。)
(わかってる。ちょっと待って。)
「えっと、えっと、い、いいお天気ですね。」
『ウン、ソウダネ。』
舌をだらりと下げて、ハアハア息を繰り返す。かみ合わないからか、キョロキョロ落ち着きがない。
「えっと、えっと…明日の天気はどうでしょうね?」
(天気ばっか。トーク、ヘタクソか。)
(うるさい!)
『 ♪ ポーン!』
突然、高らかな電子音が鳴ったとともに、ライカの表情が変わった。
(あれ、ライカ?どうした…?)
まるで剥製のような感情ゼロの無表情に。ロボットのように口だけが動く。『…申し訳ありませんが、天気については、気象庁ウェブサイトの確認を推奨します。』
急に滑らか。これだ。アシストAIが会話を補助するってやつだ。
(ほら見ろ。桃々がつまんない質問したから、つまんない答えしか返ってこない。)私を小突く。
(うるさいって。)
「えっと、えっと、ライカさんのご趣味はなんですか?」
(マッチングアプリでもやらないよ。そんなトーク。)
(やかましい。)
『趣味ッテナニ?…』
「あ、えっと、好きな遊びとか。」
『エットネ…靴下カジル…ノ…スキ…』
(靴下?かじる?)
『♪ポーン!』再び表情が変わり、
『…申し訳ありません。訂正します。私の趣味は、ボールで遊ぶことです。』
ライカが2人いるみたい。私はつい、
「私もボール遊び、好きです。」
(なにその返し。もっとなんかないの?)
『ボール、ボール、遊ビタイヨ、遊ビタイヨ…』(♪ポーン!)『…申し訳ありません…時間です。楽しい会話をありがとうございました。またお話しましょう。さようなら…』(ポーン)『…バイバイー。』
" プツッ、プープー "
画面が真っ黒になり「THANK YOU」と無機質な表示が出た。
あっけない。
「はああ。」思わずため息。なんだったの、この時間。
そうだよね。こんな感じになるよね。サトーさんの秘密が分かるかも、って期待しすぎたのかな。
なんとも言えない脱力感。肩透かしな結果にガッカリしていた。
「ほら見ろ。桃々のトークがしょぼいから。」
「はぁ?ざけんな!代役やってやったのに何その言い方!」
ガチモメしてたら、
『♪ポーン』
” ライカから、あなたにリクエストが届いています。"
とメールが来た。
私たちはなぜだかライカに気に入られたようだ。

◆
サトーさんはライカと私を話させたがった。しゃべる犬。同じような存在がいることが心の底から嬉しいようだ。
2度目のリモート通話が開始した。
『コンニチハ!アナタ知ッテル。』
「も、桃々です。こ、こんにちは。」
(ちゃんと返しなよ!)
サトーさんがつい声を荒げたもんだから、ライカがその大きな耳をピッと立て、
『誰?誰カイルノ?』と画面の中で怪訝な表情を見せた。
サトーさんの姿を見られるわけにはいかない。ましてや『しゃべる犬』だと悟られてはいけない。とっさに、
「あ、ああ、えっとえっと…兄です。兄のサトーさんです。」
(兄ってなんだよ。)
(イヌ年齢だと大人でしょ。あんたが声出すから悪いの。)
『アニッテ何?(♪ポーン!)…申し訳ありません。お兄さんのサトーさんですね。初めまして、サトーさん。お会いできて嬉しいです。』
「あっ、あっ、ハジメマシテ。」サトーさんは頭を伏せたまま声だけで返事する。
(自分だって緊張してるじゃん!)
(うるさいよ。)
『兄、見エナイ。(♪ポーン!)…申し訳ありません。お兄さんを認識できません。セキュリティ上の問題があります。』
「あの、えっと…」私がさえぎって「恥ずかしがりなんです。」
『恥ズガリガリッテ何?(♪ポーン!)…申し訳ありません。…理解しました。私も恥ずかしいです…よ。』
(ホッ、あぶねー。)
「そう、そう、兄は対人が苦手で具合が悪くなるんです。そう、ひきこもりで学校も行ってなくて…。このままでいいですか?」
『ウン。イイヨ。ネ、遊ボウ…(♪ポーン!)…申し訳ありません。分かりました。体調が悪い時は、医療機関の受診をお勧めします。半径5キロ以内で受診可能な内科は18件です。』
「大丈夫です。大丈夫です。」
(例の事、聞いて。)
(えっ?もう?早すぎない?)
(いいの!)
「えっと、えっと、お上手ですね、おしゃべり。変なこと聞きますけど、そんな話すのが上手なワンちゃんさんって、ライカさんの他にいたりしちゃったりしますか?」
『ウウン、知ラナイ。』
検索中のようなマークがぐるぐる回って、
『(♪ポーン!)…………申し訳ありません。私だけ、です。私以外の犬が人間のように言葉で話すことはできません。』
(そっか…)
期待していたわけじゃないけど、ちょっとガッカリした。
『(♪ポーン!)…申し訳ありません。時間です。楽しい会話をありがとうございました。またお話ししましょう。さようなら。』
(あっ)
(あっ)
” プツッ、プープー… "
画面が真っ暗。またまた「THANK YOU」と表示。
「ほら、そんなこと聞かせるから。」
「AIが勝ちすぎだな。」
「何?ど-ゆーこと?」
「彼女自身の気持ちで話すより、アシストAIが答えてしまう量が多い。バランスがまだ安定していないかも。」
冷静に分析したと思ったら、少し恥じらいの表情で、
「もう少し…彼女の本当の気持ちを知りたいな。」
はあ?
『彼女の?』『本当の気持ちを?』『知りたいな?』だって?
なんなの、それ!?
「けど、『恥ずかしい』と言ったのは、彼女の感情のあらわれかも。『お会いできて嬉しい』…か。彼女、会えて嬉しかったんだ。」
ちょっと浮かれている。こんなサトーさんは初めてだ。
「なにニヤついてんの。『お会いできて嬉しい』なんて、ただのAIがつくったテンプレでしょ。お決まりの社交辞令。」
「いや、彼女の心の声だ。うん、そうだ。」
と、ごにょごにょ言っていた。
だけど、あとでお風呂をのぞいたら、

珍しくサトーさんが鼻歌を歌っていた。
こやつ、単純だな。
(つづく…)
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