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いぬがしゃべりました ③【おゥおゥ…】

「ある日突然、イヌがしゃべった!なぜ?」
中2女子 桃々と犬のサトーさんが、謎を解明するふしぎな3年間。
「犬と話したい」と夢見る方にお贈りする、冗談みたいなお話です。
(※第1話へ)

<第3話>「おゥおゥ…」



ん?なんかモゾモゾする。

あと5分寝かせて。

モゾモゾ…。

わかったからママ、顔はやめて。

モゾモゾ…。

もおっ、と目を薄く開けたら、
どアップの舌と毛むくじゃらの顔。「わわっ!」と飛び起きたら、キャンと飛び跳ねたサトーさんが逃げるようにケージに舞い戻った。

そっか。
サトーさんのケージに添い寝してたんだ。リビングにはカーテンの隙間から光が差し込んでいる。3日目の朝。安心したのかケージから出てきて、私の顔をペロペロ舐めていたようだ。

また恐る恐る寝ぼけ眼の私の布団に近づいて、くるりと丸く横になった。
触ろうとすると、一瞬ビクッと固まる。だけど、やがて警戒が解けていくように私の手の甲をクンクン嗅いで、小さな舌をペロペロ。クルミみたいな小さな頭を私の膝にすりすりする。つい嬉しくなって、でも驚かさないように声を殺して大騒ぎした。

「パパ、パパ、サトーさんが出てきたよ!」
「サトーさんは桃々ちゃんのこと好きなんだな。」

朝ごはんの準備をするパパはつぶやいた。私はそれが誇らしくて、もっと認められたくなった。

生後2ヶ月でヨチヨチ歩く。短い足をまだ使いこなせていない。そのよろけっぷりの愛らしさ。健気に私の膝にすり寄って、”ん?”みたく無垢な表情で見上げる。破壊力抜群。たまらん。

小犬らしくキャンキャン鳴くこともあれば、”おゥおゥ"って変な鳴き声をすることがあった。犬ってこんなもんなのだろうか。初めてだからよく分からない。

”おゥ…おゥ”

「なに?」

”おゥ…おゥ”

「お腹空いたのかな?」

私に向けられた哀願の表情。まるで何か伝えたい意思があるように思えてならなかった。

「ほら、サトーさんが何か言ってるよ。」

「イヌがしゃべるわけないでしょ。」ママは起きたばかりで髪を後ろ手にまとめながら適当にあしらう。

パパは「すごいぞ。イヌがしゃべるなら、3回まわって”コンニチハ”って言わせよう。」

「さむ。」ふざけているのか子どもなのか、全く役に立たない。

わかってるよ。イヌがしゃべるわけない。そんなのわかってる。
もう5年生だから、物の分別はできてるつもり。だけどね、サトーさんの目を見てると、そう感じるって言いたいだけ。なにかを伝えたいって。



私が帰って来る外廊下の数十メートル先から、サトーさんは足音を聞き分ける。ドアを開ける頃には、タタタタタタタと奥から息を切らして私に飛びつく。”クンクン”鼻を鳴らしてゴムボールのように跳ねながら、ちょっと爪の生えてきた前足で私のお腹を掻く。あまりに背伸びするもんだから、何度も仰向けに転んでしまう。それがまた健気でたまらなく、
「もぉー、おバカさん。」
と、塩ワードな愛情表現でもって、くしゃくしゃに抱きしめる。

小さな尻尾をいっちょ前にぷるぷる振る。くるくる真っ黒な眼、濡れたガラス玉みたいな瞳で切なく私を見上げて。
なにか大切なことを伝えようとしているんだ。なにか、とっても大切なことを。

”おゥ、おゥ”

「桃々ちゃんのこと好き?」

”おゥ、おゥ”

「ほら、何か言いたそう。」嬉しくてママに「訴えてるよ、ほら。」

「普通よ。子犬だとこんなもんじゃないの。まだ小さすぎてちゃんと吠えられないんじゃない。」

ううん、違うよママ。
目を見ればわかるよ。何か言おうとしてるんだって。
口を大きく開いて、”オ”、遠吠えのように口先を突き出して”ウ”

”おぉウゥ、おぉウゥ”

「ねえ、ママ、ねえママ、ほら。」

ニットの裾を引っ張ったら、手であしらわれた。

「もう、ベタベタしないでよ。いつまでも5歳じゃないんだから。しっかりしてよ。サトーさんがしゃべるわけないでしょ。トイレシートも自分で替えてよ。あなたがいつまでもそんなお花畑みたいなこと言ってるのが心配だわ。」

溜息と一緒に「誰に似たんだか。」と小さなグチを床に落っことしながら部屋を出て行った。

「もう。」

ママはずっとイライラしてる。
私が小さいときはもっと優しい笑顔を向けてくれてたのに…。
そう、私のせいなんだ。わかってる。去年、”あのこと”があってから、私はママやパパを困らせている。だから時々、ママは真ん中の部屋でこっそり泣いてるんだ。でも誰もこのことに触れない。変な気遣いも心地悪い。

そんなことでモヤモヤしていたら、意識の向こう側で、ふとなにかの違和感を感じた。
耳の鼓膜の奥をくすぐるようにかすかに何かが聞こえたのだ。 

”モぉ……”

ん?

”モぉ……モぉ…”

聴こえるか聴こえないか、微細な、高めの声?

”モモ…”

えっ!?モモ?
『桃々』って聴こえた?私のこと呼んだ?
部屋を見回しても誰もいない。

”モモ…”

ここにはサトーさんだけ。こちらを見ている。

”モモ…”

私の顔をじっと見つめているサトーさん…。

えっ…えっ?

もしかして…もしかして…?




(つづく…)


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