ランサムウェア事件からデジタル防災を考える
2025年10月23日(木)のNACK5『Good Luck! Morning!』内「エコノモーニング」では、こんなお話をしました。
今日は、「ランサムウェア事件からデジタル防災を考える」というお話です。
9月29日にアサヒグループホールディングスで発生したサイバー攻撃による大規模システム障害の影響が、じわじわと広がっています。私の家では、よく買っているペットボトルの麦茶を買えなくなり、また、よく買っている炭酸水も、近所の自販機では売り切れ状態が続いていて個人的に困っています。まさか日常の飲み物まで影響を受けるとは、しかもそれがこんなに長期化するとは…と驚きます。
このシステム障害を引き起こした「ランサムウェア」ってどういうものか、ご存知ですか?ランサムウェアとは、パソコンやサーバーの中のデータを勝手に暗号化して使えなくし、犯罪者集団が「元に戻してほしければ身代金を払え」と脅すサイバー攻撃のことです。つまり、データを人質に取る犯罪です。重要なデータが暗号化されて使えなくなっては困りますから、お金を払ってしまう被害者も一定数います。最近では、AIを使って精巧な詐欺メールや偽サイトを作り、暗号資産を使って安全に身代金を受け取るなど、手口も巧妙になっています。
ここ1ヶ月ほどで、日本の大企業で被害が相次ぎました。アサヒグループではビールの出荷が止まり、アスクルでは物流が麻痺しましたね。アスクルの場合は、アスクルやアスクルの子会社に配送を委託している無印良品やロフト、そごう・西武などがネットストア等での受注や出荷を一時停止しています。昨日のニュースによると、システムの復旧に向け社内のエンジニアおよそ70人に加えて、親会社のLINEヤフー社や、外部セキュリティ企業のエンジニアなどおよそ30人、全体で100人規模の調査チームを結成して対応を進めているそうです。
昨年KADOKAWAが受けた攻撃も非常に大きいものでした。KADOKAWAグループは昨年(2024年)6月、グループ内の複数のサーバーがランサムウェア攻撃を受け、約1.5 TBのデータが暗号化され、25万人以上の個人情報が流出しました。 書籍の受注や編集・出荷にも遅延が生じ、株価も20%以上下落。復旧には1か月以上を要し、書店に本が並ばない「出版の遅延」というわかりやすい形で消費者にも影響が出ました。また、傘下の高校の授業システムまで被害を受けました。いまや日本最大の高校はKADOKAWAのオンライン高校ですから、現場の先生も生徒も大変だったと思います。
この「経済の末端まで響いた」インパクトこそ、ランサムウェアが“企業だけの問題”ではなく“社会的な構造のリスク”であることを示しています。しかも一社のシステムが止まることで、関連する企業、取引先、そして私たち消費者まで影響を受けるというのが、こうした被害の厄介なところですね。今や「一企業の問題」ではなく、社会全体の連鎖的なリスクとなっているのです。
では、どうすればいいのでしょうか。 多くの攻撃は、意外にも高度なハッキングではなく、偽のメールをうっかり開く、パスワードを使いまわす、プログラムの更新を先延ばしにする…そんな小さな隙から始まります。つまり、狙われているのは技術ではなく、人と文化なんですね。設定ミスも、バックアップ忘れも、最終的には「習慣」や「意識」の問題だから対策は、“最新技術の導入”だけではなく、“文化をつくること”だといえます。文化の積み重ねが、最も確実で強い防御になります。
そしてもうひとつ大切なのは、「自分の組織は大丈夫」と思わないことです。ランサムウェアは、業種も規模も関係なく、あらゆる組織が感染する可能性を持っています。取引先を経由して入り込むケースも多く、防ぎきれない前提で、“止まらない仕組み”をどう設計するかが問われています。 システムを二重化する、データを分散保存する、紙でも最低限の業務を続けられるようにしておく…。そして、万が一の際に備えて保険に加入する。そうした地道な備えの積み重ねこそが、社会全体の強さになります。
そして最近の事件を見て思うのは、「防ぐ」ことに加えて、「止まらない仕組み」を社会全体でどう設計するかという視点です。企業が止まれば、社会の一部が止まります。だからこそ、デジタル社会の安全は企業任せではなく、私たちみんなの課題です。私たち一人ひとりが「自分の組織も例外ではない」という緊張感を持ち、技術と文化の両面から備える。それが、これからの日本に必要な、本当の意味での“デジタル防災”なのではないか、と思います。
