アドベンチャートラベルに関わって10年。今、思うこと
AT、Adventure Travelに関わるようになって、気づけば10年ほどになります。
きっかけは、2016年のATWSアラスカでした。
この10年の間に、北海道でも全国でも、ATという言葉を聞く機会は本当に増えました。
一方で、こんな声を聞くこともあります。
「ATって結局何だったの?」
「何も変わらなかったじゃん」
「もうオワコンじゃない?」
たしかに、そう見える部分もあるのかもしれません。
ATという言葉だけが先に広がり、現場では戸惑いもあったと思います。
「アドベンチャー」と聞くと、ハードなアウトドアや特別な体験をイメージしてしまうこともあります。
地域の方にとっては、「ATってよく分からないけれど、やらないとまずいらしい。何をすればいいの?」という感覚もあったかもしれません。
でも、私は思っています。
ATの概念は、確実に北海道の観光を変えた。
少なくとも、北海道の観光に関わる人たちの視点を、大きく変えたと思っています。
ATをきっかけに、多くの地域が「インバウンドを受け入れる」ということについて、より現実的に考えるようになりました。
ただ海外からのお客様に来てもらうのではなく、自分たちの地域にあるものを、どう伝えるのか。
地域のAuthenticな素材を、どうツアー化するのか。
何を体験として見せるのか。どこまで受け入れ、どこは大切に守るのか。
地域の人に無理がなく、ゲストにも満足してもらえる形は何なのか。
そういうことを、本気で考えるきっかけになったと思います。
ATの大きな価値は、特別なアクティビティを作ることだけではありません。
その地域に昔からある自然、暮らし、文化、人の営み。一見すると当たり前に見えるものの中に、価値を見つけ直すこと。
そして、それをゲストに伝わる形に編集し、体験としてつないでいくこと。
それこそが、AT的な考え方の大切な部分だと思っています。
「ATってよく分からないけれど、とにかく取り組んでみよう」
そう思って動いた人は、北海道の各地にたくさんいたと思います。
地域の方、ガイド、事業者、行政、観光協会、旅行会社。
それぞれの立場で悩みながら、その方なりに、その地域なりに、受け入れ方や見せ方を考えてきた。
そして、形にしてきた。
その積み重ねがあったからこそ、今、北海道にはさまざまなツアーや体験の可能性が生まれています。
もう一つ忘れてはいけないのは、お客様自身も変わってきているということです。
AT的な要素を好むお客様は、確実に増えてきていると感じます。
もしかしたら、そもそも需要はあったのかもしれません。
ただ、それが見えていなかった。
あるいは、対応できていなかっただけなのかもしれません。
それが今、多くの要望に、少しずつ対応できるようになってきています。
すべてが商品として完成したわけではないかもしれません。
すべてが継続しているわけでもないかもしれません。
でも、確実に「基礎」はできたと思っています。
地域の素材を見つめ直すこと。
海外ゲストを受け入れるために必要な準備を考えること。
安全管理、ストーリーづくり、英語での伝え方、地域との関係性、価格設定。
そうしたことを、ATのおかげで一度立ち止まって整理できたのだと思います。
地域にある素材や、受け入れに必要な準備を、以前よりもずっと具体的に考える土台ができました。
その意味で、ATが北海道に残したものはとても大きいと思います。
正直に言うと、私はこれから先、「AT」という言葉そのものは、少しずつ使われなくなるかもしれないと思っています。
ブームのように広がった言葉は、いつか落ち着きます。
新しい言葉が出てきたり、別の表現に置き換わったりすることもあるでしょう。
でも、たとえATという言葉が使われなくなったとしても、ATが北海道の観光にもたらした考え方は、きっと残ると思っています。
地域にある本物の素材を見つめ直し、自然や文化、暮らし、人の営みを丁寧に伝えること。
ゲストに合わせて体験を組み立て、地域の人が無理なく、誇りを持って受け入れられる形を考えること。
そして、その価値に対して、きちんと対価をいただくこと。
それは、ATという名前があってもなくても、これからの北海道観光に必要な考え方だと思います。
だから私は、ATが終わったとは思っていません。
むしろ今、ATは過渡期にあると思っています。
今こそ、ATを活かすべき時期なのだと思います。
この10年でできた土台を、これからどう育てていくのか。
私は、ここからが本当に大切だと思っています。
地域が疲弊せず、ゲストが深く満たされ、関わる人が誇りと対価を得られる観光へ。
ATという言葉があってもなくても、北海道の旅が、もっと深く、もっと温かく、もっとその土地らしいものになっていくように。
私自身も、ガイドとして、講師として、そして地域とゲストをつなぐ一人として、これからもこのテーマに向き合っていきたいと思っています。
