「情報リテラシー」を高める具体的方策について
前回の記事では、生成AIの普及に伴い、個人個人が、より一層、情報の真偽を見極める力を上げていく必要があるとお伝えしました。
今回は、その続編として「情報リテラシー」(注1) を高める具体的方策について述べていきたいと思います。
(注1) リテラシー(Literacy)とは、元々「文字の読み書き能力」を意味する言葉で、「情報リテラシー」は、文章・画像・音声・動画など、様々な情報の真偽を見極め、有益な情報を総合的かつ効果的に利活用できる能力をいう
1 注意すべき情報
生成AIの普及に伴い、私たちがより一層、注意すべき情報には、次のようなものがあります。
(1) フェイクニュース
フェイクニュースとは、意図的に作られた偽情報のことで、人を欺いたり、特定の目的を達成したりするために意図的に作られ、ニュースのような形態で拡散されるものです。
生成AIの普及により、これまで以上にフェイクニュースが生まれ易くなっていることに警戒が必要です。

(2) ディープフェイク
ディープフェイクとは、ディープラーニングと偽物(フェイク)を組み合わせた造語で、既存の画像、動画、音声を利用して、あたかも本物のように見える偽造コンテンツを生成する技術のことです。
生成AIの技術が日々進歩する中、特に、特定の人物の顔を別人の顔に置き換えたフェイススワップによるフェイク画像やフェイク動画がより多く出回るようになりつつあるので、注意が必要です。

(Washington University)
(3) 印象操作
印象操作は、記事や報道番組などの構成、表現、語り口などの仕方を意図的に操作し、巧妙に視聴者の考え方を特定の方向に印象付ける手口です。
どんな人も組織も、大なり小なり印象を操っているものですが、顕著なのが左翼思想の流布や政治目的を背景とする印象操作で、生成AIは、このような手口を補強するツールになります。

(4) 誤情報
一方、上記とは別に、発信源に悪意や他意はなく、意図せず誤った情報が含まれてしまうことがあります。
生成AIと言えども、誤ったデータを学習源にしてしまうと誤情報を生成することがあるので、決して万能ではないことを心に留めておく必要があります。

2 フェイクニュースの具体的事例
フェイクニュースという概念は、19世紀から存在していたようですが、SNSの発達によって、近年、次のような事例が確認されるようになりました。
事例①:熊本地震発生時(2016年)
発災直後、「地震で熊本市動植物園からライオンが逃げ出した」という全くのデマがSNSで拡散されました。

(熊本日日新聞)
実際にはライオンが逃げ出した事実はありませんでしたが、動物園に確認の電話が殺到するなど大きな混乱を招き(注2) ました。
(注2) このデマを流した人物は、後に偽計業務妨害で逮捕されている
事例②:米大統領選挙(2016年)
選挙期間中、SNSに「クリントン候補が重病である」「ローマ法王がトランプ候補を支持した」といった多数の偽情報が拡散されました。

(Financial Times)
この内容は、多くの人に真実と受け止められて、選挙結果に少なからず影響を及ぼした可能性が指摘されています。
事例③:新型コロナ流行時(2020年)
新型コロナウイルスのパンデミック初期には、「特定の物質でウイルスが治る」「5G通信が感染を広げている」といった科学的根拠のない情報が広まり、

(BBC News)
人々の行動に混乱を招きました。
事例④:能登半島地震発生時(2024年)
能登半島地震では、志賀原子力発電所に関する不確かな情報のほか、

(総務省ホームページ)
「〇〇で人が生き埋めになっている」、「被災地に外国人窃盗団が押し寄せている」といったデマ情報が出現しました。
3 フェイクニュースの特徴
こうした事例からも分かるとおり、フェイクニュースは、
● センセーショナルで
● 怒りや恐怖などの感情を揺さぶり
● 近しい人から SNS を介して伝わり
● 拡散するスピードが速い
ことが特徴です。

更に、フェイクニュースは、必ずしも本文そのものがフェイクとは限りません。
本文の脇にある広告や、リンク先がフェイクだったりする(注3) こともあるので注意が必要です。
(注3) このように、一旦、正しい情報で信じ込ませ、後で偽情報に誘導する手口を「ピギーバック」(Piggybacking)という

4 フェイクニュースの動機
こうしたフェイクニュースを作り出すアクターの目的や動機は、概ね、次のとおりです。
● 訪問者数を増やすクイックベイト
● 政治目的のプロパガンダ
● 詐欺による不当搾取
● 単なるパロディ・愉快犯

5 フェイクニュース対策
こうした中、特に日本では「表現の自由」ばかりが尊重され、実効的な対策は進んでいないのが現状です。
だからこそ、冒頭で述べたとおり、個人個人の「情報リテラシー」を向上させることが必要不可欠なのです。
(1) 情報リテラシーが生まれた経緯
情報リテラシーの概念は、19世紀後半頃から現れ始め、当初は印刷された書籍や文献が集中する図書館がその中心的な役割を担っていました。

第二次世界大戦後、科学技術の発展や社会の情報化が進み、図書館以外の場所からも必要な情報を見つけ出し、評価する能力の重要性が認識されるようになり、
1974年に、情報産業協会の会長だったポール・G・ズーコフスキーという米国人が全米図書館・情報科学委員会のために書いた報告書の中で、初めて「情報リテラシー」という言葉を使いました。

その後、インターネットやデジタル技術が普及したことにより、情報リテラシーは、デジタル資源の適切な活用法を含む概念へと進化し、

データベースの集積化ととも「知識管理」(注4) という考え方も普及し始め、
(注4) 「知識管理」(Knowledge Management )とは、個人や組織が持つ知識を無駄にすることなく適切に維持管理し、利活用するためのプロセスや仕組みのこと
現在では、単に仕事のためではなく、日常生活でも重要なスキルと認識されるようになり、
2020年の「新学習指導要領」から、本格的に教育現場でも取り入れられるようになりました。

(2) SNSの特性を知る
現代社会では、パソコンよりもスマホ、TVやニュースよりも SNS (特にX)が大きな影響力を持っています。
SNSには、ボットによって、特定の関心事や、同じ考えの者を集めて排他的な意見集団を形成してしまうエコーチャンバー現象の特性があり、
人によっては、それが全てと思い込むことがあり、注意が必要です。

また、SNS上では「トロールファーム」(注5) と呼ばれるアクターが活動しており、フェイクニュースの拡散に加担する見返りとして報酬を得ています。
(注5) 「トロールファーム」(Troll Farm)とは、意図的に虚偽の情報や扇動的なメッセージを大量に拡散するために組織された集団や施設のこと
感情に訴える内容で
誰かに教えたくなる
エコーチャンバーの中で客観性を見失い、「自分も正義の鉄槌を下す一人になりたい」といった衝動に駆られたときこそ、最も警戒が必要です。
SNSを使う上では、そういった心理が巧妙に利用されているという特性を、良く理解した上で、偽情報の拡散に加担しないことが大切です。

(3) ファクトチェック機能の活用
また、ファクトチェック機能を活用することが、フェイクニュース対策に有効だと思います。
ファクトチェックは、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN:International Fact-Checking Network)が定める国際基準に沿って実施されます。
(4) チェックリストの活用
他のやり方として、こちらに「フェイクニュースを見破るためのチェックリスト」を掲載しておきますので、是非、ご活用ください。

(Created by ISSA)

(5) 生成AIを参考にする
ファクトチェッカーとしての生成AIは開発中の段階であり、現時点では、生成AIをファクトチェックに利用する場合は、次の点に留意する必要があります。
● プロンプト(指示)が曖昧・不正確だと、誤った回答を生成する場合があること
● 学習データに誤りがあると、もっともらしい情報として生成する場合があること(ハルシネーション)
● 刻一刻と変化する情勢を踏まえた、リアルタイムの回答は難しいこと
したがって、生成AIをファクトチェックの「参考にする」のなら、上記の特性を踏まえた上で、質問の仕方を変えてみたり、対話を通じて深掘りする等の工夫が必要だと思います。

(6) 情報の利活用を生活の一部とする
ここが最も重要なポイントなのですが、情報の利活用を生活の一部とし、平素から情報の真偽を見極める力を養っておくことが、実はフェイクニュース対策における最も有効な手立てとなります。
お時間のある方は、(5年前の記事で、そろそろアップデートしなければなりませんが)是非、こちらもご一読ください☟
6 サイバー攻撃からデータを守る
情報リテラシーを高める一方で、引き続き、サイバー攻撃への警戒も必要です。
生成AIと連携したサイバー攻撃の脅威が高まる中、5月16日に「能動的サイバー防御」(注6) を導入するための法律が、与野党の賛成多数で成立しました。
(注6) 「能動的サイバー防御」(ACD:Active Cyber Defense)とは、従来のように攻撃を受けてから対処する受動的サイバー防御ではなく、攻撃の兆候を早期に察知し、攻撃を受ける前に攻撃源を無力化する戦略をいう
これにより、政府が通信業者と連携し、サイバー攻撃を監視するための情報を取得し分析することが可能になり、今後は自衛隊や警察のサイバー部隊が、攻撃源を無力化する役割を担うことになります。
ただ、自衛隊や警察のサイバー部隊は、あくまでも国家、企業、社会全般に向けられたサイバー攻撃からの防御を想定しているので、基本的には小規模で個別的な攻撃には対応しません。
周辺の敵対国やIT系の犯罪集団なら、独自開発の生成AIと連携して、皆さんの SNS や口座やデジタル資産に指向性を持たせることは十分可能ですので、
ウイルス対策ソフトのアップデートはもとより、パスワードをより複雑化したり、多段階認証を取り入れる、重要な情報は物理的にネットワークから切り離しておく等、
引き続き、自助努力による対策強化が望まれるところです。
7 揺るぎない信念を基軸とする
前回の記事では、生成AIが、今後の「安全保障環境」や「雇用情勢」に影響を及ぼすことお伝えしましたが、
個人的には、こちらの記事でご紹介している、
「日本の心髄」が損なわれることには、最も警戒が必要だと考えています。

「情報リテラシー」と言えば、あたかもデジタル資源を通じた「知識」の利活用と受け止めがちですが、
私がこの言葉を使う時は、むしろ人々の「考え方」への侵害行為(洗脳や、刷り込み)に対する防御策という意味で用いることが多いです。

したがって、「心の守り」という観点から「情報リテラシー」を身に着ける上で本質的に重要なことは、
📌 日常的に接する様々な情報に対して、心のどこかで常に疑いの目を光らせておくこと
📌 情報は出来るだけ幅広く集めて、物事を客観的かつ大局的に捉えられるように努めること
📌 揺るぎない信念(考え方)を核心的な立ち位置としながら、ひとつひとつの情報を評価すること
であり、その信念(考え方)には「日本の真心(=利他の心)を大事にする」という価値観を据え置くことが、日本のカウンター・インテリジェンスにおいて、かなり重要なことではないかと思います。

おわりに
以上、2回に分けて「生成AIがこの世界にもたらす変革」と、「その変革から心を守るための、情報リテラシーを高める方策」について述べてきましたが、
生成AIやロボットの時代(テクニカル・シンギュラリティ)の到来が、人の心の荒廃を促進するのではなく、
逆に、それが心の豊かさを見直す起爆剤となり、人の心がより高次の存在へと進化する特異点(スピリチュアル・シンギュラリティ)の到来を呼び覚ます。

私は、そんな未来を信じたいと思います🍀
注:画像資料は、著作権フリー画像サイト「Pixabay(ピクサベイ)」から引用しました。
