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【MSA深層秘録FILE】レアアースが産んだ怪物 ― 私たちは中国というフランケンシュタインを作ってしまった

「MSA深層秘録FILES」は、
世界各地に残された未解決事件、歴史の謎、説明不能現象を追うミステリー考察シリーズである。


レアアースが産んだバケモノ

1787年スウェーデンの軍人カール・アクセル・アレニウスはイッテルビー村の採石場で
変な黒い石を拾った。
まさかこの石コロが21世紀になって世界中を巻き込む混乱を引き起こすバケモノを作り出すとは本人もわかっていなかった。
彼はこの変な石コロを化学者ヨハン・ガドリンに分析を依頼した。
そして1794年、彼はこれまでにない金属の成分を含んでいることを発見したのだ。それ以来、100年近く研究されたこの変な石ころから、17個の新元素が発見された。
これこそが今世界を騒がせている元凶、総称として”レアアース”と呼ばれている鉱石なのだ。

1月6日、中国政府による軍民両用品目の対日輸出規制を強化する発表がなされ、民間企業がレアアース素材を輸入できなくなったことがSNSで拡散されている。
レアアースとは一体何なのか?
見た目は普通の金属でも、現代のハイテク・先端産業・安全保障・脱炭素社会の根幹を支える素材となっている。
2010年に日本は初めて中国によりレアアースの禁輸処置を取られた。
レアアースはハイブリッド車、自動車のモーター、液晶・電子部品、磁石、軍事関連部品など幅広い産業で必須材料で、多くの企業が原料不足に直面し、部品の供給が滞り、生産ラインが停止・混乱する危機が起きた。
特にトヨタなど製造業を中心に、磁石用のネオジムなど主要レアアースが入手困難になった。
結果として、生産コストの上昇や価格高騰が発生したのは記憶に新しい。
南シナ海や東シナ海、台湾海峡の領有権・安全保障問題などでも強硬な外交姿勢を貫き、武力行使も辞さない姿勢を見せ、日本の自衛隊機に対してレーザー照射事件も勃発しているほど殺伐とした雰囲気が漂っている。
なぜこれほどまでに中国はバケモノと化してしまったのか。
その答えのヒントは、約200年前に出版された古典ホラー小説の中にあった。
1831年発表されたメアリーシェリーの『フランケンシュタイン』である。
なぜバケモノは生み出されたのか。まずはそこからみていこう。


『フランケンシュタイン』というタイトルを聞くと、バケモノを思い浮かぶ人がほとんどだと思う。しかし、フランケンシュタインというのはバケモノの名前ではない。主人公で医学生の名、ヴィクター・フランケンシュタインから来ている。フランケンシュタインは古典ホラーの名作だが、怪物が現れて次々と襲いかかるB級ホラーではなく、実はかなりホラーというよりヒューマンドラマ寄りなのだ。野心的な医学生が「死んだ物質に生命を与える」という人類が踏み込んだことのない領域へと足を踏み入れる。死体の一部をつなぎ合わせ、人造の生命体を創り出すという壮大な実験をおこなう。幾度も失敗を繰り返しながらヴィクターはついに生命を吹き込むことに成功した。ただ、新鮮な死体というだけで繋ぎ合わせた体は凶悪犯罪者の死刑囚のものだった。
新たな生命を生み出した次の瞬間、ヴィクターはとんでもないことに気が付く。
「……で?この生命体はどうするんだ?」
ヴィクターはバケモノに絶望し、全てを投げ出してしまう。
継ぎ接ぎの醜いバケモノは世間に馬鹿にされ、空腹を抱えながら「なぜ俺は生まれたのか」答えのない沼にハマり、それはやがて狂気となってヴィクターに襲いかかる……。
現代社会の核心素材であるレアアースは中国をバケモノに変えた。
それは我々先進国が生み出してしまったと言えるのだ。
なぜそう言えるのか。
それを知るためには、黒い石コロがレアアースに変貌する過程を知らなければならない。

実は厄介なレアアース素材

レアアースという素材は、掘るだけでは使い物にならない。
精製する必要があるのだ。レアアースは「採掘 → 化学処理 → 分離 → 酸化物化」
という 超・化学工業的プロセスを経て、ようやく使える形になる。
レアアースは、金やダイヤのように単体で掘り出されることはほとんどない。
鉱石や粘土、あるいは海底の泥に、微量に混じって存在している。
この段階では、まだ価値はほぼない。ただの「扱いづらい土砂」だ。
採掘された鉱石は細かく砕かれ、比重や磁性の違いを利用して、レアアースを含む鉱物だけを濃縮する。
ここでようやく「レアアース濃縮物」と呼ばれる状態になる。
だが、まだ使い物にはならない。
次に行われるのが、化学処理だ。
硫酸、塩酸、アルカリ溶液など、強力な薬品で鉱物を溶かし、レアアース成分を液体中に溶出させる。
この工程で初めて、レアアースは「扱える形」になる。
しかし、同時に、環境汚染と放射性廃棄物という問題もここから本格化する。
レアアースは17元素あるが、化学的性質が驚くほど似ている。
つまり、「分けにくい」のである。主に使われるのは 溶媒抽出法。
有機溶媒と水溶液を使い、何百回、何千回もの分離操作を繰り返す。
巨大な装置が延々と並び、人の目にはほとんど意味不明な工程が続く。
この過程で求められるのは、技術、経験、そして環境負荷を請け負う覚悟なのだ。
つまり、環境汚染、酸化に伴う有毒廃棄物の発生などおぞましいリスクを負い、且つ、製造コストが高い。
レアアース精製地域では必ず反対運動が起き、社会問題化したのだ。そのため、先進国は自国での精製を放棄して中国に汚れ仕事を託したのだ。

中国は環境汚染はお構いなし、人権無視で安値でレアアースを提供し続けたのだ。もちろん、中国でも環境問題について年々厳しくはなっている。
しかし、元来皇帝支配を嫌う中国人は法は抜け道を潜り抜けてなんぼの世界で生きてきた。
環境整備にコストを費やすより役人に賄賂を渡す方が安値で済むということだ。中国政府も力で反対運動を抑え込み、戦略素材として見て見ぬふりをしているようだ。
そうやってレアアースを武器に変えてしまった。
USGSなどの公開データでは、レアアースの採掘市場シェアは、中国:70%、アメリカ:15%、ミヤンマー10%、オーストラリア5%となっているが、精製は?といえば90%以上中国に依存しているのが現実なのだ。
世界は2010年、中国が日本へのレアアース禁輸に踏み切ったことで初めてその恐怖に気づいた。
日本はさらし首にされたようなものだ。
そしてその効果は絶大で、レアアースは中国に巨大な権力をもたらした。
中国はいまや、アフリカ、中南米への投資、アメリカとの貿易戦争、EUへの輸出の大幅黒字化で確実に世界へ覇権を唱えている。
いくらか回避策はあったものの、世界の工場である中国への反撃カードは乏しく、代替え素材もない状況に陥っている。
つまり完全に首根っこを抑えられているのだ。


日本は、2010年以降、中国以外からの調達先確保に奔走して依存率90%を60%程度まで引き下げ、また、レアアースリサイクル技術の開発など進めたりと中国依存のサプライチェーンの見直しに動いているが、未だ完全には断ち切れていない。
中国のレアアースを使った戦略は見事という他ない。我々は、環境汚染や有害な廃棄物を全て中国に押し付けて、安値でレアアースを使用する恩恵に乱舞した。
そして今、世界は強大な覇権主義で野心をむき出しにする中国という大きな問題に直面したことになる。
これはまさにバケモノを放置して逃げ出したヴィクター・フランケンシュタインそのものだ。
『フランケンシュタイン』の最後は、こうなっている。
バケモノは見捨てられた復讐としてヴィクターの弟・親友・そして新妻エリザベスを次々と殺していく。
幸せな人生を黒話されたヴィクターは復讐の鬼と化し、「自分の作った怪物をこの世から消す」という執念だけで、世界の果てまで追いかける。
しかし、ヴィクター・フランケンシュタインは北極圏で力尽きて死に、バケモノは彼の遺体に別れを告げ、自ら死にに行くため氷原の彼方へ消えていくという共倒れのラストを迎える。
しかし、現実はそうはならなさそうだ。

海底6000メートルに希望の光

日本の近海にレアアース泥が存在することが2013年に発表された。
海底6000メートルにその存在が確認されたのだ。しかし、長らく話題に上がることはなかった。
それはなぜか? 
実は2018年から粛々と政府系研究施設によって研究されていたのだ。
2026年1月、中国に軍民両用品目の輸出規制強化の名目で、重レアアースの事実上の禁輸措置に踏み切って以来、再びこの日本の資源レアアース泥について報道されるようになった。
ニュース映像を見ると、「提供JAMSTEC」という文字が見える。
JAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)とは、日本政府が設立した国立研究開発法人で、海洋や地球科学に関する研究・技術開発を行っている機関なのだ。
深海掘削船「ちきゅう」が海底6000メートルにあるレアアース泥を遠隔操作ロボットで採掘するという。
なぜ今この映像が流れたのか。
それは、ただ「採掘できるようになりました」だと精製するのに中国へお願いするのか?ということになる。
つまり、精製技術も同時に開発し、実運用に耐えうるレベルにも到達しつつある証拠だと言えるのではないだろうか。
日本政府も自信があるからこそ、公開に踏み切ったと考えるべきだ。
つまり、人権も環境も無視の中国レアアースと、それらを安全に考慮した最新技術で精製した日本レアアースが凌駕する未来は近いということだ。
ヴィクター・フランケンシュタインは、新技術によってバケモノを退治するという日本にとってとんでもないハッピーエンドなストーリーに変わるかもしれない。

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